自然科学系

2019年9月30日

研究成果のポイント

・ニホンザルが仲間と協力できることを初めて実証した。
・協力の起こりやすさは集団によって異なっていた。攻撃性が高く、寛容性の低い一般的なニホンザル集団では協力が成立しない一方、寛容性が特別に高い淡路島集団では協力が頻繁に成立していた。
・社会全体の寛容性の高さは、協力行動を生じさせるための必要条件であると考えられた。

概要

大阪大学大学院人間科学研究科大学院生の貝ヶ石優さん(人間科学研究科博士後期課程)、中道正之教授、山田一憲講師らの研究グループは、ニホンザルが、個体同士の協力により、1頭だけでは遂行不可能な課題を達成できることを明らかにしました。

ニホンザルは一般に、順位関係が非常に厳しく、寛容性※1の低い社会を形成します。例えば、魅力的な食べ物があると、順位の高いサルは、順位の低いサルを追い払ってそれを独占してしまいます。そのため、食べ物を手に入れるために2頭が力をあわせて協力するような行動は、ニホンザルでは起こらないと考えられてきました。しかし淡路島に生息する集団は、ニホンザルの中でも特別に高い寛容性を示し、順位の離れたサル同士が食べ物を共有することができます(図1)。今回、研究グループは、寛容性の高い淡路島ニホンザル集団※2と、寛容性の低い勝山ニホンザル集団※3で協力行動実験を実施し、成績を比較しました。この実験では、サルが1本のヒモの両端を引っ張って、手の届かないところにあるエサを手元まで引き寄せます。ただし1頭だけでは両端を引っ張ることができないので、エサを手に入れるためには2頭のサルが同時にヒモを引くことが必要でした(動画資料と図2)。

実験の結果、淡路島ニホンザル集団では、サル同士が協力して何度も課題を解決することができました(動画資料と図3)。さらにこの集団では、協力するパートナーが近くにいない時には、パートナーが来るまでヒモを引かずに待つことを学習しました。このことから、ニホンザルは協力行動に必要な高度な知性を持っていると考えられます。しかし勝山ニホンザル集団では、個体同士がお互いを避けあい、ほとんど協力は起こりませんでした(図3)。このことから、社会の中で協力行動が起こるためには、知性の高さだけではなく、社会全体の寛容性の高さが重要であると言えます。

本研究成果は、2019年8月19日に国際学術雑誌「Primates」のオンライン版で公開されました。

 

図1 淡路島ニホンザル集団のサル文字。
文字の形に並べられたエサを、サルが身を寄せ合いながら食べている。通常のニホンザル集団では、食べ物を巡る争いが激しく、一部の優位個体が食べ物を独占してしまうため、文字を作ることができない。

図2 実験で用いた課題の概要
エサを手に入れるためには、2頭が同時にヒモの両端を引かなければならない。

図3 各集団での実験結果。

研究の背景

ヒト以外の動物を対象にしたこれまでの研究から、寛容性の個体差や種差が、協力行動課題の成績に大きな影響を与えることが明らかになっていました。例えば、同じチンパンジー同士でも、食べ物をケンカせずに共有できるペアでは、1頭だけが食べ物を独占してしまうペアよりも、協力行動が起こりやすくなります。さらにチンパンジーの近縁種で、より寛容性の高いボノボは、チンパンジーが協力をやめてしまうような場面でも柔軟に協力することが出来ます。

ニホンザルは、寛容性が非常に低い種であるとされています。そのためニホンザルでは、協力行動課題に成功した研究はこれまで全くありませんでした。しかし近年、ニホンザルの寛容性には、地域によって大きな差があることが分かってきました。本研究では、野生ニホンザル集団の示す寛容性の地域差に着目することにより、ニホンザルが仲間と協力できることを初めて明らかにしました。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

私たちヒトは、互いに助け合い、協力し合いながら暮らしています。ヒトは進化の過程で攻撃性が低下し、寛容性が上昇してきたとされており、これらの特徴がヒトの社会を形作る重要な役割を果たしてきたと考えられています。本研究で対象とした淡路島ニホンザル集団もまた、一般に攻撃的で寛容性が低いとされるニホンザルの中で、特別に高い寛容性を進化させた集団です。このような集団を対象に、協力行動について研究することにより、ヒトの協力社会が進化してきた道筋について、新たな示唆を与えることができました。

また本研究で得られた知見は、ニホンザルの社会の新たな側面を示すものでもあります。ニホンザルの研究は、過去70年以上にわたって蓄積されてきました。それらの研究から、厳格な順位関係や低い寛容性がニホンザルの社会の大きな特徴であるとされています。しかし本研究では、従来のニホンザル観に沿った競合的社会ではなく、高い寛容性に基づいた協力的社会を築いているニホンザル集団が存在することを明らかにしました。すなわち、本研究は、ヒトおよびニホンザルの社会の多様なあり方について、寛容性という観点から新たな知見を与えるものであると言えます。

研究者のコメント

貝ヶ石優:淡路島ニホンザル集団は、過去50年以上にわたり管理・研究されてきた貴重な野生集団であり、また高い寛容性という他地域の集団には無い特性を持った、学術的にも重要な集団です。彼らの行動を観察することを通して、「ヒトとは何か」「ヒトはどのように進化してきたのか」という問いに迫りたいと思っています。

山田一憲:チンパンジーのようなヒト科の動物だけでなく、「普通のサル」であるニホンザルにも、多様な社会と知性があることが明らかになりました。ニホンザルが協力できることに一番驚いたのは、実際に実験をしていた私たち自身だったと思います。実験中に「おぉ、すごい」と思わず声がもれました。

中道正之:「お互いの血縁や順位が異なっていても、誰とでもくっついたり、近くで一緒に過ごせたりすることが高い寛容性の第一歩かな」と淡路島のサルたちを見ていると思ってしまいます。今回の野外実験の成果は、サルの行動の理解をさらに推し進めただけでなく、ヒトの暮らしの中での寛容性を考える際にもヒントを与えてくれると思います。

特記事項

本研究成果は、2019年8月19日(月)に国際学術誌「Primates」(オンライン)に掲載されました。

タイトル:High but not low tolerance populations of Japanese macaques solve a novel cooperative task
著者名:Yu Kaigaishi, Masayuki Nakamichi, and Kazunori Yamada
URL:https://link.springer.com/article/10.1007/s10329-019-00742-z

なお、本研究は、日本学術振興会(科研費)の助成を得て行われました。

用語説明

※1 寛容性
他者が資源を手に入れることを許容したり、自分の資源を分け与えたりするような行動傾向のこと。ニホンザルのような寛容性の低い種では、食べ物のような魅力的な資源は順位の高い個体が独占する。順位の低い個体がそれを求めると、順位の高い個体によって追い払われたり攻撃を受けたりするので、資源が共有されにくい。一方で、淡路島ニホンザル集団のような寛容性の高い集団では、食べ物をめぐる激しいケンカが起こりにくく、順位の高い個体と低い個体が身を寄せ合って食べ物を食べることができるため、一般的なニホンザル集団と比べてより寛容であると評価されている。

※2 淡路島ニホンザル集団
兵庫県洲本市畑田組付近に生息しているニホンザル集団。淡路島モンキーセンターにより1967年から餌付けおよび管理が行われている。現在381頭で構成されており、一部の個体の出生年と母系血縁系が記録されている。

※3 勝山ニホンザル集団
岡山県真庭市神庭の滝自然公園周辺に生息しているニホンザル集団。大阪大学人間科学部によって1958年より行動観察研究が続けられている(研究開始時は文学部)。現在148頭で構成されており、すべての個体の出生年と母系血縁関係が記録されている。

参考URL

大阪大学大学院 人間科学研究科 比較行動学研究分野
https://ethology-osaka.tumblr.com/

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