生命科学・医学系

2019年5月21日

研究成果のポイント

・mRNA分解酵素Regnase-1がインターロイキン17刺激によりリン酸化されることを発見
・Regnase-1のリン酸化が様々な炎症反応の制御のために重要な役割を果たしていることを解明
・インターロイキン17の関連する難治性の慢性炎症性疾患の治療薬開発の可能性を示唆

概要

大阪大学免疫学フロンティア研究センター自然免疫学研究室の田中宏樹特任助教(常勤)(微生物病研究所兼任)、佐藤荘准教授(微生物病研究所兼任)、前田和彦特任准教授(常勤)(微生物病研究所兼任)、審良静男特任教授(常勤)(微生物病研究所兼任)らの研究グループは、メッセンジャーRNA※1を分解する酵素Regnase-1※2が、炎症性サイトカインのインターロイキン17※3によりリン酸化され、そのリン酸化が様々な炎症反応を制御する上で非常に重要な役割を担っていることを発見しました。

本研究成果から、Regnase-1のリン酸化が炎症性サイトカインによる炎症応答の引き金となっており、Regnase-1のリン酸化を抑制することによって炎症応答を抑制することができる可能性が示唆されました。したがって、Regnase-1のリン酸化を阻害する化合物は慢性炎症性疾患※4の有効な治療薬になることが期待されます。また、インターロイキン17によるシグナル伝達の詳細な分子メカニズムを解明した点においても本研究は有意義です。

本研究成果は、米国科学誌「The Journal of Experimental Medicine」に、5月14日(火)午後10時(日本時間)に公開されました。

図1 インターロイキン17による刺激を受けた細胞内におけるRegnase-1のmRNA分解調節のメカニズム

研究の背景

炎症反応は病原菌やウイルスなどの異物を除去するために欠かすことのできない生体防御機構であり、様々な免疫細胞を患部に集めたり、発熱を促したりすることで異物の侵入に対抗します。しかし、炎症反応が正しく制御されない場合、この反応は患部の継続的な破壊を伴う慢性炎症性疾患などの病気の原因となってしまいます。審良教授らはこれまでの研究で、mRNA分解酵素のRegnase-1が炎症反応を制御する遺伝子であることを世界に先駆けて発見しました(Nature 2009, Nat. Immunol. 2011)。今回の研究では、炎症性サイトカイン(特にインターロイキン17)によって引き起こされる炎症反応の中でRegnase-1がリン酸化されることが炎症制御機構において非常に重要であることを発見し、Regnase-1のリン酸化を阻害することで強い抗炎症効果が得られることを明らかにしました。

本研究の成果

炎症性サイトカインが細胞表面上のサイトカイン受容体と結合すると、シグナル伝達※5と呼ばれる細胞内における一連の過程を経て炎症反応が引き起こされます。審良教授らの研究グループは、インターロイキン17による細胞刺激によってRegnase-1がリン酸化されることを発見しました。さらに、そのメカニズムについて解析を進めた結果、Regnase-1がAct-1というアダプター蛋白質と相互作用し、TBK1/IKKi※6の2種類の蛋白質によってリン酸化を受けることと、リン酸化されたRegnase-1が小胞体膜上から細胞質へと移動することを突き止めました(図2)。Regnase-1はリン酸化されていない状態では小胞体※7膜上のリボソームと呼ばれる分子と結合し、Regnase-1自身が多数集まった会合体(多量体)を形成して標的mRNAを分解することで炎症反応を抑制していますが、リン酸化されるとRegnase-1はリボソームから離れてバラバラになり、標的mRNAを分解できず炎症反応を抑制しなくなります(図1) 。それによって炎症を引き起こす物質の産生が引き起こされると考えられます。

研究グループは、Regnase-1のリン酸化が炎症反応の抑制に重要であることを確かめるために、インターロイキン17によってリン酸化を受けないような遺伝子改変を施したRegnase-1変異マウスを作製しました。このマウスはインターロイキン17が疾患の増悪に関与していると考えられている実験的自己免疫性脳脊髄炎モデルにおいて強い抵抗性を示し、変異マウス由来の細胞はインターロイキン17による炎症関連遺伝子の産生を強く抑制しました(図3)。このことから、Regnase-1のリン酸化がインターロイキン17による炎症反応を誘導していることが明らかになりました。

インターロイキン17は他の炎症性サイトカインと異なる性質として、細胞活性化時に炎症関連遺伝子のmRNAの安定化を促すことが知られており、これが炎症反応の持続的かつ強い増幅効果をもたらし、慢性炎症性疾患の増悪の主要な原因となることが知られています。Regnase-1はmRNAの分解や安定化に関わる遺伝子であり、Regnase-1が炎症関連遺伝子の発現制御と慢性炎症性疾患の抑制に積極的に関与していることを明らかにしました。

図2 Regnase-1のリン酸化と不活性化のプロセス
Regnase-1はインターロイキン17受容体のシグナル伝達の過程でAct-1とTBK1/IKKiの相互作用を介してリン酸化し、小胞体膜上から解離する。

図3 Regnase-1のリン酸化を阻害した変異マウスでは慢性炎症性疾患に対して抵抗性を示す
(A)Regnase-1リン酸化を阻害した変異体マウス(Regnase-1ΔCTD/ΔCTD)は実験的自己免疫性脳脊髄炎モデルにおいて症状の改善を示す。(B)Regnase-1ΔCTD/ΔCTD変異マウス由来の細胞(胚性線維芽細胞)ではIL-17刺激によって誘導される炎症関連遺伝子の産生が低下する。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本研究においてRegnase-1のリン酸化阻害変異マウスがインターロイキン17の関与する炎症を強く抑制したことから、インターロイキン17による細胞活性化に伴うRegnase-1のリン酸化を阻害することによって、慢性炎症性疾患にみられる持続的な炎症反応を抑制できる可能性が示唆されました。インターロイキン17は多発性硬化症、乾癬、膠原病など難治性の慢性炎症性疾患の増悪に関わっており、それらの疾患増悪を抑制できるRegnase-1のリン酸化阻害剤は、これらの疾患に対する非常に有力な治療薬になる可能性があります。また、インターロイキン17の持つ炎症関連遺伝子のmRNAの安定化に対する分子メカニズムの一端を明らかにした点においても、本研究はインターロイキン17に関する研究分野の発展に貢献するものと考えております。

研究者のコメント(田中宏樹特任助教(常勤))

インターロイキン17は自分自身ではそれほど炎症を誘発しないのに、他のサイトカインと組み合わせることで持続的に強い炎症反応を引き起こすという、他の炎症関連物質と一線を画した謎多きサイトカインとして知られており、多くの慢性炎症疾患に関わっています。今回の研究結果は、このサイトカインのもつ不思議な性質の解明に近づく大きな一歩であり、なおかつこのサイトカインの関わる難治性の炎症疾患の治療法の開発に道を拓くということで、アカデミックの研究としても創薬に向けた研究としても大変意義深い研究ができたのではないかと実感しています。

掲載論文

本研究成果は、2019年5月14日(火)午後10時(日本時間)に米国科学誌「The Journal of ExperimentalMedicine」(オンライン)に掲載されました。

【タイトル】“Phosphorylation-dependent Regnase-1 release from endoplasmic reticulum is critical in IL-17response.”
【著者名】 Hiroki Tanaka1.2, Yasunobu Arima3, Daisuke Kamimura3, Yuki Tanaka3, Noriyuki Takahashi4, Takuya Uehata4, Kazuhiko Maeda1,2, Takashi Satoh1,2, Masaaki Murakami3. Shizuo Akira1,2,*.(* 責任著者)
【所属】
1 大阪大学 免疫学フロンティア研究センター 自然免疫学研究室
2 大阪大学 微生物病研究所 自然免疫学分野
3 北海道大学 遺伝子病制御研究所 分子神経免疫学分野
4 中外製薬株式会社 鎌倉研究所

特記事項

本研究は、日本学術振興会(JSPS)及びアメリカ国立衛生研究所(NIH)の支援を受けて行われました。なお、本研究は北海道大学遺伝子病制御研究所・分子神経免疫学分野及び中外製薬株式会社・鎌倉研究所と共同で行われました。

用語説明

※1 メッセンジャーRNA(mRNA)
DNAに含まれる遺伝子の情報をタンパク質に変換する際に核内で合成される物質。これがリボソームに結合されてタンパク質に変換されることによって遺伝子の機能が発揮される。

※2 Regnase-1(レグネース-1)
インターロイキン6等の炎症反応を引き起こす遺伝子のmRNAを分解するタンパク質(酵素)

※3 インターロイキン17
一部のCD4陽性T細胞(TH17細胞)から分泌される、炎症反応を引き起こす作用を持ったタンパク質(サイトカイン)の一種。哺乳類では5種類存在する。インターロイキン17は細胞表面上の受容体と結合すると、炎症反応に関連する複数の遺伝子のmRNAを長時間増幅することで強い炎症反応を引き起こすことが知られている。

※4 慢性炎症性疾患
自分自身の組織に対して誤って免疫細胞が反応して、炎症性物質を継続的に出し続けることによって引き起こされる疾患。患部では常に炎症が持続することで発熱や組織破壊や変形を伴う。多発性硬化症、乾癬、膠原病など難治性のものが多い。インターロイキン17を産生するTH17細胞が疾患の増悪に関連していることが報告されているが、その詳細なメカニズムは解明されていない。

※5 シグナル伝達
受容体に対して活性化を促す特定の物質(リガンド)が結合することによって生じた物理的・化学的変化(シグナル)が細胞内に伝搬し、様々な生理的作用(蛋白質の産生、細胞の移動、細胞死など)を引き起こす過程。

※6 TBK1/IKKi
IκBキナーゼ(IKK)ファミリーに属するリン酸化酵素。Toll様受容体やインターロイキン17受容体にリガンドが結合した際に、標的タンパク質をリン酸化することでシグナル伝達を促進することが知られている。

※7 小胞体(粗面小胞体)
核膜とつながった細胞小器官(オルガネラ)で、表面にリボソームが多く付着している。このリボソーム上にmRNAが結合して蛋白質への翻訳が行われる。

参考URL

大阪大学 免疫学フロンティア研究センター 自然免疫学研究室
http://hostdefense.ifrec.osaka-u.ac.jp/ja/index.html

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