マクロファージの多様性を発見 夢は難病治療の創薬
免疫学フロンティア研究センター・准教授・佐藤荘
免疫反応のゴミ処理係と言われていた白血球の一種「マクロファージ」が近年、注目を集めている。役割によってM1型・M2型に大別されると考えられているが、佐藤荘准教授は、単純なM1・M2という振り分け方ではなく、生体内には更に多様なマクロファージが存在すると仮定。実験により、さまざまな疾患に特異的に働くマクロファージが複数存在していることを立証した。
人気のない研究テーマだったマクロファージ
佐藤准教授の専門分野は自然免疫学で、マクロファージの分化について主に研究している。マクロファージは生体内の異物を捕食する程度の役割しかなく、佐藤准教授が研究に取り組み始めた当時は、免疫学の中でも人気のある研究テーマではなかった。「獲得免疫系を活性化するいわば免疫系の司令塔である樹状細胞や、実行部隊の主役であるT細胞は複数の種類がある一方で、マクロファージは1種類しかないと言われており、そのため存在が重視されていませんでした」。あえて研究テーマとして選んだ理由は、「他の免疫細胞の研究は競争が激しく、その世界に飛び込んでも勝てないだろうな、、、と思ったから。そこで、逃げの考えでライバルが少ない人気のないマクロファージなら研究されていない部分も多いと思ったので、何か新しい現象にぶつかれば面白いと考えました」
基礎研究の成果で新しい薬を創りたい
しかし、4年間はポジティブな結果が出ずに、その結果が出ないことに対してすら、何とも思わない位、底辺の状況であった。6年目にして、アレルギー性疾患に関わるマクロファージの研究を論文として報告した。続いてメタボリックシンドローム(代謝症候群)に関わるマクロファージの研究を、2017 年1月には、難病である線維症に特化したマクロファージを見つけたことで、「生体内には疾患特異的なマクロファージが複数種類存在するという考えを持ち始めました」
アレルギーやメタボリックシンドロームの次に線維症を選んだのは、「有効な治療法が殆どない疾患だからです。疾患に関わる現象を免疫側から見ているうちに、どうせ研究するなら基礎研究の分野に留まらず、それが患者さんの治療に役立つようなテーマなら良いかなと思いました」。佐藤准教授は現在、複数の国内製薬企業との共同研究やAMED(国立研究開発法人日本医療研究開発機構)の「ACT-M(産学連携医療イノベーション創出プログラム) 疾患特異的マクロファージを操る中分子創薬」の代表研究者をはじめ、肝炎等克服実用化研究事業にもマクロファージを標的として参画している。
最終的な夢は
今後の目標は、私達の体の中にいる複数の種類のマクロファージがどのように誕生して(分化)、成長(活性化)、仕事をして死んでいくのか、すなわち「マクロファージの揺りかごから墓場まで」を解明すること。 大きな夢はこの目標を拡大して、「体の中の複数のマクロファージと疾患との関係性の地図のようなものを描くことです。人体の全細胞をマッピングする『Human Cell Atlas(米国)』のようなプロジェクトがありますが、そのマクロファージ版です。正直、Cell Atlasに勝負を挑んでも勝てないと思っています(笑)。だから、真っ向勝負から逃げてマクロファージに絞って進めれば良い地図が描ける可能性があるかなと。僕は最初から最後まで逃げの姿勢です」と笑う。
佐藤准教授にとって研究とは
僕が学んだ審良イズムの中の好きな言葉に、「勝利の女神は笑いと謙虚さを好む」というのがあります。研究は世界中のライバルと競争という側面も一部ありますから、その2つのファクターは大事なのかなと思っています。研究はうまくいかないことの連続ですが、『まあいいか』と笑って結果を受け止め、続けていきたいです。
●佐藤 荘(さとう たかし)
2010年大阪大学医学系研究科博士課程修了、医学博士。同年大阪大学免疫学フロンティア研究センター特任研究員、11年同センター特任研究員(常勤)、12年同センター特任助教(常勤)、13年同センター助教を経て、18年から現職。17年「疾患特異的マクロファージの機能的多様性の研究」で大阪大学賞、同年文部科学大臣若手科学者賞を受賞。
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(2018年2月取材)