2016年6月21日

本研究成果のポイント

・早期発見が困難で難治性の、膵がんと肺がんにおけるがん促進因子を発見
・両がんの細胞増殖を促進するタンパク質Dkk1※1 の新しい受容体としてCKAP4※2 を同定
・Dkk1とCKAP4が両がんのバイオマーカー※3 になることで、早期発見に繋がる診断薬の開発につながるとともに、CKAP4に対する抗体が治療に応用できれば、効果の高い治療薬開発につながると期待

概要

大阪大学大学院医学系研究科生化学・分子生物学講座(分子病態生化学)の菊池章教授の研究グループは、膵がんと肺がんにおいて発現する二つのタンパク質Dkk1とCKAP4が結合することにより、がん細胞の増殖を促進することを明らかにしました。また、同研究科の消化器外科、呼吸器外科、病理学の研究グループとの共同で、膵がんと肺がんの60%以上の患者において、Dkk1とCKAP4がたくさん発現していることを発見しました。両方のタンパク質がたくさん発現しているがん患者の予後が悪いことも明らかにしました。さらに、CKAP4抗体をマウスに投与したところ、Dkk1とCKAP4の両タンパク質を発現しているがん細胞の増殖を阻害する効果があることが分かりました(下図)

これらの結果から、Dkk1とCKAP4は膵がんと肺がんの新しい診断マーカー(指標)になるとともに、CKAP4に対する抗体が将来治療に応用できる可能性がでてきました。したがって、今回の発見は、両がんの早期発見につながる新たな診断薬や、効果の高い治療薬の開発に貢献することが期待されます。

本成果は、日本時間6月21日(火)午前5時に米国医学誌「Journal of Clinical Investigation (J. Clin. Invest.、ジャーナル・オブ・クリニカル・インべスティゲーション)」のオンライン版に掲載されました。

研究の背景

平成25年度において、日本では膵がん(男性において部位別がんの死亡率5位、女性において部位別がんの死亡率4位)と肺がん(男性において部位別がんの死亡率1位、女性において部位別がんの死亡率2位)は、男女問わず高い死亡率を占めています。いずれのがんも早期発見が困難であり、確定診断時に治癒切除不能である例が多く存在します。これまでにもがん細胞の増殖を促進するタンパク質の同定が行われ、それを攻撃する(機能を阻害したり、量を減少させる)薬剤の開発が行われてきました。肺がんに対しては、分子標的治療薬※4 として著効を示す薬剤も開発されていますが、適応症例が限られていて治療が奏功しても経過中にがんが薬剤に対する耐性を獲得します。膵がんに対しては、良好な結果を得られる薬剤はいまだ開発されていません。したがって、両がんにおいて副作用が少なく良好な治療効果の得られる新規の抗がん剤の開発が求められています。

膵がんや肺がんでは、Ras(ラス)※5 やEGF受容体※6 と呼ばれるタンパク質の異常が高頻度に認められます。これらのタンパク質は正常細胞の増殖を促進する役割を持っていて、がん細胞では異常に活性化されるために細胞が無制限に増殖すると考えられています。最近の分子標的治療薬と呼ばれる抗がん剤は、これらの異常活性化を阻害することにより、がん細胞の増殖を抑制します。しかし、その効果は限定的です。したがって、がんの促進に働く新たなタンパク質を見つけ、そのタンパク質の働きを阻害する抗がん剤を開発して既存の抗がん剤と併用することにより、がんを治療することが望まれています。Dkk1はこれまでに膵がんや肺がんでたくさん発現していて、がんを増悪することが知られていました。Dkk1は細胞外に分泌されますので、がん細胞の増殖を促進するためには細胞表面に存在する受容体と呼ばれるタンパク質に結合して、情報を細胞内に伝えなければなりません。しかし、これまでにDkk1の受容体の実体は不明でした。

本研究の成果

今回、菊池教授のグループは、細胞表面に存在しているDkk1に結合するタンパク質を網羅的に解析することにより、CKAP4と呼ばれるタンパク質がDkk1の受容体として働くことを発見しました。さらに、Dkk1とCKAP4が結合すると、がん細胞の増殖を促進することが知られているAKTと呼ばれるタンパク質を活性化することも分かりました。これらは、学術上の重要な発見です。また、膵がんと肺がんの60%以上の患者でDkk1とCKAP4がたくさん発現していることを発見し、両方のタンパク質がたくさん発現しているがん患者の予後が悪いことも明らかにしました。

さらに、菊池教授のグループが作製したCKAP4に対する抗体は、Dkk1とCKAP4の結合を阻害して、その結果がん細胞の増殖を抑制することが、マウスの実験で証明されました。したがって、CKAP4抗体が将来がん治療に有効に働く可能性がでてきました。最近は、効果がより期待される患者を選択して、抗がん剤を投与することが求められています。そのため、抗がん剤の開発においては、同時に診断薬の開発も行っていかなければなりません。CKAP4抗体はDkk1とCKAP4の両タンパク質が同時にたくさん発現しているがん細胞に有効でしたので、膵がん、肺がん患者の中でDkk1とCKAP4の両タンパク質が発現していることを調べることにより、CKAP4抗体を投与する患者を選択することが可能になります。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本研究成果から、Dkk1とCKAP4が膵がんと肺がんの診断のマーカー(指標)になるとともに、CKAP4に対する抗体が将来治療に応用できる可能性がでてきました。

したがって、今回の発見は、両がんの早期発見につながる新たな診断薬や、効果の高い治療薬の開発に貢献することが期待されます。

特記事項

本成果は日本時間6月21日(火)午前5時に、米国医学誌「Journal of Clinical Investigation (J. Clin. Invest.、ジャーナル・オブ・クリニカル・インべスティゲーション)」のオンライン版に掲載されました。

論文タイトル:CKAP4 is a Dickkopf1 receptor and involved in tumor progression
著者:Hirokazu Kimura, Katsumi Fumoto, Kensaku Shojima, Satoshi Nojima, Yoshihito Osugi, Hideo Tomihara, Hidetoshi Eguchi, Yasushi Shintani, Hiroko Endo, Masahiro Inoue, Yuichiro Doki, Meinoshin Okumura, Eiichi Morii, and Akira Kikuchi

用語解説

※1 Dkk1(Dickkopf1)
細胞の外に分泌されるタンパク質。脊椎動物の胎生期の神経系の発生に重要なタンパク質として同定されました。成体における機能は不明ですが、Dkk1が増えたり、減ったりすることにより、がんが生じることが知られていました。しかし、Dkk1がどのようにしてがんを誘導するかは不明でした。

※2 CKAP4(Cytoskeleton-associated protein 4)
細胞表面に存在するタンパク質。もともとは、細胞内の小胞体に存在するタンパク質として同定されました。その後、細胞表面にも存在することが示されましたが、その機能やがんとの関連は不明でした。・

※3 バイオマーカー
がん細胞が産生するタンパク質で、血中や尿中に分泌されることがあり、それらを測定することにより、がんを診断することができます。

※4 分子標的治療薬
がん細胞において活性化されたり、過剰に発現しているタンパク質を対象に、機能や発現を阻害するがん治療薬です。

※5 Ras(ラス)
GTP結合タタンパク質の1種。膀胱がんにおいてRas遺伝子の異常が発がんに関わることが発見され、この知見により、がんが遺伝子の病気であることが理解されるようになりました。

※6 EGF受容体
上皮増殖因子(EGF)と結合する細胞表面上の受容体。多くのがんで活性型の変異が発見され、この活性を阻害する分子標的治療薬が開発されています。

参考URL

大阪大学大学院医学系研究科 分子病態生化学
http://www.med.osaka-u.ac.jp/pub/molbiobc/index.html

この組織の他の研究を見る

Tag Cloud

back to top