膵がんの診断と治療を行う抗体の作製に成功

抗体医薬品のためのコンパニオン診断薬の開発

2019-1-15生命科学・医学系

研究成果のポイント

・膵がんの診断と治療に有効な抗CKAP4 モノクローナル抗体 を作製
・膵がん患者血清中でCKAP4を検出する検査法を開発
・膵がんを治療できる抗体医薬品の開発や、抗CKAP4抗体が適応となりうる膵がん患者を選別するための診断法の開発に期待

概要

大阪大学大学院医学系研究科の菊池章教授(分子病態生化学)らの研究グループは、膵がんにおいて高発現する細胞膜タンパク質CKAP4に対する抗腫瘍活性のある抗CKAP4モノクローナル抗体の作製に成功しました。また、CKAP4が細胞外に分泌されるエクソソーム 上に発現することを見出し、抗CKAP4モノクローナル抗体を用いて血清中のCKAP4を測定する方法を開発して、膵がん患者の血清CKAP4値は、健常人よりも高値を示すことを明らかにしました。さらに、膵がん細胞を移植したマウスに抗CKAP4モノクローナル抗体を投与したところ、がん細胞の腫瘍形成と転移を阻害し、マウスの生存期間を延長する効果があることが分かりました (図1) 。

これらの結果から、ヒト血清中のCKAP4を測定することができ、抗CKAP4モノクローナル抗体が適応となりうる膵がん患者を選別することが可能となりました。したがって、今回の発見は、膵がんの新たな診断薬や、効果の高い治療薬の開発に貢献することが期待されます。

本研究成果は、米国科学誌「Clinical Cancer Research」に、1月4日(木)に公開されました。

図1 抗CKAP4抗体を用いた癌患者の血清CKAP4の検出法とがん細胞増殖抑制法の開発

研究の背景

全世界の膵がんの新規患者数は毎年約28万人、死亡者数は毎年約27万人と推定されます。日本においても、膵がんは、男性において部位別がんの死亡率5位、女性において部位別がんの死亡率4位であり、男女を問わず高い死亡率を占めています。膵がんは生存率が低く、95%の患者が5年以内に死亡するため、全世界で有用な診断法や治療薬の開発が望まれています。現在膵がんの治療には外科手術や抗がん剤の投薬等が行われており、ごく一部の早期膵がんでは長期生存が期待できますが、それ以外の大部分の症例において長期生存が期待できる治療法はありません。

これまで菊池章教授らの研究グループは、同研究科の消化器外科学、呼吸器外科学、病態病理学との共同研究で、CKAP4が細胞外分泌タンパク質DKK1 の受容体として機能すること、膵がんの約60%の患者において、DKK1とCKAP4が共に発現しており、両タンパク質を発現している患者の生存期間が短いこと、抗CKAP4ポリクローナル抗体 がDKK1とCKAP4を共に発現している膵がん細胞の増殖を阻害することを、報告してきました。しかし、抗体医薬品の開発に必須の抗腫瘍活性をもった抗CKAP4モノクローナル抗体は作製されていませんでした。

本研究の成果

今回、菊池教授らの研究グループは、CKAP4ノックアウト(KO)マウス を作出し、野生型マウスならびにCKAP4KOマウスを免疫することにより、抗腫瘍活性を有した複数の抗CKAP4モノクローナル抗体を作製しました。CKAP4は細胞膜タンパク質なので、本来は細胞外に存在しませんが、CKAP4が細胞から分泌されるエクソソーム上に発現することを見出しました。

そこで、抗CKAP4モノクローナル抗体を用いて、膵がん細胞から分泌されたCKAP4を検出するための方法を開発し、ヒト血清中でCKAP4を測定することを可能にしました。実際に、膵がん患者さんの血清CKAP4値は健常人血清CKAP4値よりも高く、膵がん切除術後に血清CKAP4値が著しく減少することが明らかになりました。

さらに、膵がんモデルマウスにおいて、現在の膵がん標準治療薬であるゲムシタビンと抗CKAP4モノクローナル抗体を併用することにより、抗腫瘍効果が増強されました (図2) 。

図2 抗CKAP4モノクロ―ナル抗体によるがんの増殖抑制効果
コントロールIgG(50μg/body)、ゲムシタビン(1000μg/body)、抗CKAP4モノクロ―ナル抗体(50μg/body)を膵がんモデルマウスの腹腔内に週2回投与し、20日後に腫瘍を摘出した。(スケールバー:10mm)

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

がん細胞から分泌されたDKK1については血清から測定することが可能ですが、膜タンパク質であるCKAP4を血清から測定する方法はありませんでした。本研究成果により、血清中のDKK1とCKAP4の両タンパク質を測定する(コンパニオン診断 )ことにより、抗CKAP4モノクローナル抗体を投与して、効果のある患者を選択することが可能になります。

本研究成果から、DKK1とCKAP4が膵がんの診断マーカー(指標)になるとともに、抗CKAP4モノクローナル抗体を治療に応用することが可能となり、今後、膵がんの新たな診断薬や、効果の高い治療薬の開発に貢献することが期待されます。

研究者のコメント(菊池教授)

CKAP4タンパク質は、ヒトとマウスでアミノ酸配列上の同一性が高く、正常なマウスにCKAP4を免疫することでは、種々の抗原決定基を認識する多様なモノクローナル抗体を作製することは困難でした。CKAP4KOマウスにCKAP4を免疫したところ、正常マウスに免疫したことでは取得できなかったモノクローナル抗体を作製することができました。その中に抗腫瘍効果の高い抗CKAP4抗体が存在したことが、本研究の成功につながりました。また、CKAP4KOマウスに異常が認められなかったことから、抗CKAP4抗体をヒトに投与しても大きな副作用はないと考えられます。

特記事項

本研究成果は、2019年1月4日(木)に米国科学誌「Clinical Cancer Research」(オンライン)に掲載されました。
【タイトル】“CKAP4, a DKK1 receptor, is a biomarker in exosomes derived from pancreatic cancer and a molecular target for therapy”
【著者名】 Hirokazu Kimura 1 , Hideki Yamamoto 1 , Takeshi Harada 1 , Katsumi Fumoto 1 , Yoshihito Osugi 1 , Ryota Sada 1 , Natsumi Maehara 1 , Hayato Hikita 2 , Soichiro Mori 3 , Hidetoshi Eguchi 3 , Masahito Ikawa 4 , Tetsuo Takehara 2 , and Akira Kikuchi 1,* (*責任著者)
【所属】
1.大阪大学 大学院医学系研究科 分子病態生化学
2.大阪大学 大学院医学系研究科 消化器内科学
3.大阪大学 大学院医学系研究科 消化器外科学
4.大阪大学 微生物病研究所

本研究は、AMED創薬総合支援事業とAMED次世代がん医療創生研究事業の一環として行われました。

参考URL

大阪大学 大学院医学系研究科 分子病態生化学
http://www.med.osaka-u.ac.jp/pub/molbiobc/index.html

用語説明

CKAP4

(Cytoskeleton-associated protein 4)/細胞表面に存在するタンパク質。もともとは、細胞内の小胞体に存在するタンパク質として同定された。その後、細胞表面にも存在することが示されたが、その機能やがんとの関連は不明であった。

モノクローナル抗体

単一の抗体産生細胞に由来するクローンから得られた抗体(免疫グロブリン)分子。一つの抗原決定基に対する単一の分子種となるため、抗原特異性が全く同一の抗体となる。医薬品として使用するためには、ヒト化した抗体を作製する必要がある。

エクソソーム

ほとんどの細胞から分泌される直径50nm~150nm程度の膜小胞。生体では血液や唾液、尿、羊水、腹水等の体液中で観察される。エクソソームは、細胞のタンパク質や核酸を細胞外に分泌して、離れた細胞や組織に情報を伝達するための役割を担っている可能性が指摘されている。また、がん細胞からは大量のエクソソームが分泌されることから、エクソソーム中の分子を調べることにより、がんの特性が判別できることになり、診断マーカになることが期待されている。

DKK1

(Dickkopf1)/細胞の外に分泌されるタンパク質。脊椎動物の胎生期の神経系の発生に重要なタンパク質として同定された。成体における機能は不明であるが、DKK1の発現ががんと関係することが知られていた。しかし、DKK1がどのようにしてがんを誘導するかは不明であった。

ポリクローナル抗体

抗原で免疫した動物の血清から調製するために、抗原決定基の異なるいろいろな抗体分子種が混合している抗体を意味する。

ノックアウト(KO)マウス

遺伝子操作により1つ以上の遺伝子を欠損(無効化)させたマウス。本研究では、CKAP4が生体内に発現していないマウスを用いて、抗CKAP4モノクローナル抗体を作製した。

コンパニオン診断

医薬品の効果や副作用を投薬前に予測するために行なわれる臨床検査のこと。薬剤に対する患者個人の反応性を治療前に検査することで、個別化医療を推進するために用いられる。本研究では、標的となるCKAP4の発現量を調べることで、抗CKAP4抗体が適応となりうる患者を把握し、投薬妥当性を補助することを目指している。