2014年3月10日

本研究成果のポイント

・大阪大学の高出力レーザーで、世界初の宇宙速度での衝突蒸発・ガス分析実験※8に成功!!
・隕石衝突によって、二酸化硫黄ではなく、硫酸になりやすい三酸化硫黄が放出されることが明らかに
・酸性雨と海洋酸性化が白亜紀末の大量絶滅で非常に重要な役割を果たしたことを示唆するもの

研究の背景

約6550万年前(白亜紀末)に、生物の大量絶滅が起きました※1。この絶滅が、巨大隕石の衝突により引き起こされたという仮説は、1980年に最初に提唱され、現在の科学界では広く支持されています※2。しかし、天体衝突がどのような環境変動を引き起こし、それがいかにして大量絶滅をもたらしたのか、具体的なメカニズムは全く決着がついておらず、様々な仮説が乱立しています※3。この問題を理解する上で最も重要な鍵となるのは、海洋での絶滅記録、特に海洋プランクトンの絶滅です※4。ところが、これまでに提案されている絶滅機構の仮説では、地質記録に残る海洋生物の絶滅を説明することは非常に困難で、最大の未解決問題として残っていました。

そこで千葉工業大学惑星探査研究センターの大野宗祐上席研究員、産業医科大学の門野敏彦教授、東京大学の杉田精司教授、大阪大学の重森啓介准教授らの研究チームでは、硫酸の酸性雨に着目しました。巨大隕石の衝突地点であるメキシコ・ユカタン半島には、硫黄を含む岩石が豊富に存在していました。それが隕石衝突のエネルギーで蒸発※5し、酸性雨の原料となる硫黄酸化物ガスが大気中に爆発的に放出されたと考えられています。

研究成果の概要

本研究では、大阪大学レーザーエネルギー学研究センターの高出力レーザー激光XII号※6を用いて、世界初となる宇宙速度※7での衝突蒸発・ガス分析実験※8に成功しました。実験結果から、先行研究で想定されていた二酸化硫黄(亜硫酸ガス)ではなく、硫酸になりやすい三酸化硫黄(発煙硫酸)が隕石衝突で放出されることがわかりました。さらに理論計算を行ったところ、衝突で放出された三酸化硫黄は数日以内に酸性雨となって全地球的に降ることと、その結果起こる深刻な海洋酸性化※9が明らかになりました。

本研究の結果は、酸性雨と海洋酸性化が白亜紀末の大量絶滅で非常に重要な役割を果たしたことを示唆し、海洋をはじめ陸上や淡水中を含めた白亜紀末の生物大量絶滅を初めて包括的に説明するものです※10

今回の研究成果は、英国学術雑誌「Nature Geoscience」のオンライン版で、日本時間3月10日午前3時に発表されます。


今回の研究で用いられた大阪大学レーザーエネルギー学研究センター 
高出力レーザー激光XII号

論文題目および著者名

掲載論文:Production of sulphate-rich vapour during the Chicxulub impact and implications for ocean acidification
著 者:Sohsuke Ohno, Toshihiko Kadono, Kosuke Kurosawa, Taiga Hamura, Tatsuhiro Sakaiya, Keisuke Shigemori, Yoichiro Hironaka, Takayoshi Sano, Takeshi Watari, Kazuto Otani, Takafumi Matsui and Seiji Sugita
投稿誌:Nature Geocience(日本時間 2014年3月10日午前3:00 オンライン版掲載)

用語解説

※1 白亜紀末の大量絶滅(K/Pg事件という)では、一般には、恐竜など大型動物の絶滅が注目されますが、それは大量絶滅のごく一部であり、幅広い生物の絶滅が起こったことが知られています。海生動物の科のレベルで約66%が絶滅したと考えられています(参考文献:平野弘道 絶滅古生物学 岩波書店 255p)。大量絶滅とは、単に多くの生物種が同時に絶滅したということではなく、全地球的に生態系が崩壊しその後再構築される一連のプロセスであると言えます。

※2 1980年ノーベル物理学者のルイス・アルバレズ(Luis Alvarez)博士らにより提唱されました。その後1991年にメキシコ・ユカタン半島に直径180kmの白亜紀末の衝突クレーター(チチュルブ・クレーター)が発見されたことが決定打となり、現在の科学界では広く支持されています。

※3 アルバレズらにより最初に提唱された仮説が、衝突で放出された岩石の塵による日射遮蔽、それに伴う光合成停止や寒冷化です。ところがその後、この日射遮蔽はごく短時間で終わってしまうことがわかってきました。そのため、輻射熱による山火事、硫酸エアロゾルによる日射遮蔽、温室効果など様々な絶滅機構が提案されていますが、どの仮説も海洋生物の絶滅を引き起こすことが困難であるという共通の問題点がありました。

※4 白亜紀末には、陸上だけでなく海洋でも大量絶滅が起こりました。海洋は陸上と比較して温度変化が起こりにくく、これまでに提案されていた環境変動の仮説で海洋の絶滅を説明することは非常に困難でした。また、絶滅率が海洋表層で高く底層では低いという特異なパターンを示すことが知られています。そのため、海洋の絶滅を解明することが白亜紀末の生物大量絶滅を理解する上で最重要課題でした。特に、海洋プランクトンは広範囲に分布し食物連鎖の基底をなしているため、生物大量絶滅の指標として最も有効です。専門家の間では,恐竜のような大型生物よりも海洋プランクトンの絶滅に注目して議論を行います。

※5 重力に引かれて地球に落ちてくる隕石は非常に高速になります。その運動エネルギーが熱になるため、衝突天体や衝突地点の岩石は数千度から1万度以上の高温になり、岩石蒸気となると考えられています。

※6 激光XII号(参考URL:http://www.ile.osaka-u.ac.jp/jp/overview/facilities/gxii.html

※7 白亜紀末の巨大隕石をはじめ、地球に落ちてくる隕石は地球の脱出速度(秒速11.2キロメートル)以上の速度で衝突します。また、室内実験で今回のガス分析のように定量的な計測を行うためには、ある程度大きな飛翔体(0.1mm以上)を使わなければなりません。これらの条件(秒速11.2km以上への加速・0.1mm以上の飛翔体)を同時に満たすことは技術的に非常に困難でしたが、超高強度パルスレーザー(激光XII号)を使うことにより実現に成功しました(例えばKadono et al., 2010)。

※8 本研究グループが構築した実験システムでは、高速衝突により生成した硫酸塩岩(衝突地点にある岩石)蒸気の化学組成を、四重極質量分析計を用いて分析することができます。衝突蒸気の化学組成の実験的測定は惑星科学上の長年の課題でしたが、世界に先駆けて実現しました。

※9 近年の大気中の二酸化炭素濃度の上昇により、海洋酸性化が環境問題として議論されています。今回明らかになった白亜紀末の海洋酸性化は現代よりも遙かに深刻で、数年間にわたり海洋表層で炭酸カルシウムが溶け出してしまう状態が続いたと考えられます。

※10 代表的な海洋プランクトンである浮遊性有孔虫は数種を除き絶滅し、特に海洋酸性化に敏感な石灰質ナノプランクトンは、種のレベルで80%以上が絶滅したことが知られています。また、陸上では絶滅率が高く淡水中と海底では絶滅率が低かったこと(例えばMaruoka and Koeberl, 2003)、衝突直後最初に酸に強いシダ植物が繁茂したこと(例えばVajdaら2001)なども、強い酸性雨と海洋酸性化で統一的に説明できます。

参考URL

大阪大学レーザーエネルギー学研究センター
http://www.ile.osaka-u.ac.jp/jp/index.html

発表論文
http://www.nature.com/ngeo/journal/vaop/ncurrent/full/ngeo2095.html

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