工学系

2020年6月9日

研究成果のポイント

・空間的に非一様なパワーレーザーをダイヤモンドに照射すると、ある条件下でダイヤモンド表面に"くさび状"の特異なひび割れパターンが発生することを発見。
・ダイヤモンド表面に薄い銅のコーティングを行うことにより、プラズマの効果でその特異なパターンが消失。
・レーザー核融合におけるダイヤモンド燃料カプセルの性能向上のほか、レーザー加工で重要な切断プロセスのメカニズム解明に期待。

概要

大阪大学レーザー科学研究所の大学院生加藤弘樹(かとうひろき)さん(平成31年3月修了)、重森啓介(しげもりけいすけ)教授の研究グループは、非一様なレーザー光をダイヤモンドの表面に照射することによって、その表面に発生する特異な表面形状を発見しました。その特異な形状はプラズマの制御によって消失することも明らかとなり、レーザー核融合※1の燃料カプセルへの応用や、レーザー加工のメカニズム解明に期待されます。

ダイヤモンドは地球上でもっとも硬い物質のひとつであり、様々な場面で幅広く応用されています。燃料カプセルがレーザー光で直接照射される核融合の方式(直接照射型慣性核融合※2)では、主に、"インプリント"と呼ばれる照射による凸凹形状の発生が問題となっています。その解決法として、硬いダイヤモンドを燃料球としたインプリントの抑制法が期待されています。

今回、本研究グループは、このダイヤモンドによるインプリントの低減機構の解明を行う過程で、非一様なレーザー照射を行うことによりダイヤモンド表面に"くさび状"の特異なひび割れパターンが生成することをはじめて発見しました(図1)。このひび割れはレーザー核融合の実現に問題となりますが、ダイヤモンド表面に薄い銅のコーティングを施すことにより、このひび割れパターンが消失することも確認しました。2次元シミュレーション等による解析から、ダイヤモンド表面での圧力分布がダイヤモンドの弾塑性転移※3と深く関係していることを解明しました。本成果はNature Publishing社が発行する「Scientific Reports」誌に2020年6月2日に掲載されました。

図1 非一様なレーザー照射によってダイヤモンド表面に「ひび割れ」が入る概念図

研究の背景

核融合燃料が内包されたカプセルは高強度レーザーにより圧縮・加熱されます。この方式で、高温(約1億度)・高密度(固体密度の約1000倍)状態のプラズマ※4が実現すると、約100億分の1秒という短時間内に核融合反応が可能となります。この核融合反応を起こすには、均一なレーザー照射が必要であるものの、非一様なレーザー照射によって、表面上に形成されるプラズマの圧力が不均一になります。その結果、カプセル表面に振幅1μm程の微小な凸凹(インプリント擾乱)が発生し、表面が歪みます。このインプリント発生がカプセルの圧縮・加熱を妨げる要因の一つとなっています。したがって、非一様なレーザー照射下でもインプリント擾乱を抑えることが安定な燃料圧縮に対して最重要課題となっています。これまでの本研究グループの研究によって、硬い物質であるダイヤモンドを用いることによりそのインプリントの発生量が大きく抑制されることが実証されました。この抑制効果のさらなる検証によって、ダイヤモンドを燃料球材料とするレーザー核融合方式の進展が期待されています。

本研究の成果

本研究グループは、ダイヤモンドのインプリント低減の抑制効果を検証する段階で、照射レーザーの非一様性(強度のムラ)を変化させ、データ取得を大阪大学レーザー科学研究所の高出力レーザー激光XII号において実施しました。実験では正弦波状の非一様性を与え、X線シャドウグラフ法※5により表面の形状変化を計測しました。実験結果より、その非一様性が小さい時はダイヤモンド表面で正弦波状の形状があらわれる一方で、非一様性が大きい時にはくさび型の特異なひび割れ形状が現れることを発見しました。この特異な形状は過去の内外の実験結果からは見られなかったものであり、そのメカニズムの解明のため2次元シミュレーションによる解析を行いました。シミュレーションによる解析から、本研究においてレーザー照射面でダイヤモンドが与えられる圧力は弾塑性点(80万気圧)付近であり、非一様性が大きい条件では弾塑性点を超える部分と下回る部分が共存し、弾塑性点以上の領域においてひび割れが進行することを示唆しています。

このひび割れは興味深い現象ではあるものの、ダイヤモンド球を用いたレーザー核融合の実現にとってはマイナス要因です。そこで、表面に薄い(0.1ミクロン)銅のコーティングを施し、レーザー照射によって発生するプラズマの効果により、非一様性がもたらすダイヤモンド上での圧力分布を緩和する試みを行いました。その結果、発生するプラズマの緩和効果により、非一様性が大きい場合でもくさび状のひび割れは発生しませんでした(図2)。シミュレーションによる解析からも、プラズマの効果によって圧力の分布が平坦となり、弾塑性転移点以下の領域が現れないことから、この特異な形状が消失することを示しています(図3)

図2 X線シャドウグラフによる計測結果。(左)ダイヤモンドおよび(右)ダイヤモンドに銅をコーティングした場合。ダイヤモンドの場合は「尖った」形状が確認できる。

図3 2次元シミュレーションによる計算結果。(左)ダイヤモンドおよび(右)ダイヤモンドに銅をコーティングした場合。銅をコーティングすることにより、圧力分布が平坦化されていることがわかる。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本研究成果は、レーザー核融合における燃料圧縮の高性能化に資するものです。レーザー核融合研究は高温・高密度(高エネルギー密度※6)状態における基礎研究としても重要であり、宇宙プラズマをはじめとして幅広い応用が可能です。また、本研究成果はレーザーによる加工技術の素過程とも深く関連しており、産業応用などへの波及にも寄与すると考えられます。

特記事項

本研究成果は、2020年6月2日Nature Publishing社が発行する「Scientific Reports」誌(オンライン)に掲載されました。

タイトル:"Surface structure on diamond foils generated by spatially nonuniform laser irradiation"
著者名: 加藤弘樹1、長友英夫1、中井光男1、境家達弘2、寺崎英紀2、近藤忠2、弘中陽一郎1、清水克哉3、重森啓介1
所属:
1.大阪大学 レーザー科学研究所
2.大阪大学 大学院理学研究科 宇宙地球科学専攻
3.大阪大学 大学院基礎工学研究科 附属極限科学センター

なお、本研究は、日本学術振興会・科学研究費補助金(23340175、17H02996)及び、核融合科学研究所の双方向型共同研究課題の支援(NIFS10KUGK044)のもと実施されました。

用語説明

※1 レーザー核融合
高強度レーザーを用いて、重水素と三重水素を含む燃料を高密度に圧縮するとともに高温に加熱することで、核融合反応を起こし、エネルギーを得る方法。

※2 直接照射型慣性核融合
核融合燃料カプセルが十分球対称に爆縮するように、多本数のビームレーザーをカプセル周りから一様に直接照射する方法。

※3 弾塑性転移
強い圧力によって弾性体から塑性体に変化すること。ガラス板(弾性体)が粉々に割れる(塑性体になる)のがその一例。塑性体に変わる圧力(弾塑性転移点)は物質によって異なり、ダイヤモンドでは80~100万気圧と非常に高い。

※4 プラズマ
電荷を帯びた荷電粒子の集団。固体、液体、気体に続く第四の物質状態(相)で、電離気体とも呼ばれる。物質を構成する原子の一部または全部がイオンと電子に分離しており、個々の粒子が集団的な振る舞いをする。

※5 X線シャドウグラフ法
X線を未知物質に照射し、その透過率から物質の形状などを測定する方法。

※6 高エネルギー密度
パワーレーザーのように、短時間の内に大きなパワーが得られる装置を利用して得られるエネルギー密度1011J/m3(100万気圧)を超える物質・プラズマ状態を指す。

参考URL

レーザー科学研究所 重森研究室のHP
https://www.ile.osaka-u.ac.jp/research/tm/index.html

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