工学系

2019年12月16日

研究成果のポイント

・レーザー核融合※1の方式の一つである「高速点火」方式において、レーザー核融合プラズマ※2への加熱を実証。
・「相対論的自己集束※3」現象など、高強度レーザー※4のプラズマ中での相対論的な振る舞いを利用することで、高強度レーザーを安定に核融合燃料近傍まで伝搬させ、燃料を加熱させることを可能とした。
・レーザー核融合エネルギーの実現への前進であると同時に、高エネルギー電子ビーム、イオンビーム生成を含む高エネルギー密度科学や、それを用いた実験室宇宙物理学や医療応用への応用研究も期待される。

概要

大阪大学大学院工学研究科の羽原英明准教授、Tao GONG(タオ ゴン)博士研究員らの研究グループ及び、田中和夫欧州極限レーザー核科学研究所長(兼大阪大学特任教授(常勤))、大阪大学レーザー科学研究所、米国ロチェスター大学レーザーエネルギー研究所所属の研究者らで構成された国際共同研究チームは、大阪大学レーザー科学研究所(所長 兒玉了祐)の大型レーザー装置GXII/LFEXを用いた共同実験を行い、高強度レーザーを高密度爆縮プラズマに直接照射し、加熱媒体であるレーザー加速電子ビームが高密度プラズマを加熱している様子を世界で初めて明らかにしました。

米仏で主流のレーザー核融合の「中心点火」方式では、核融合燃料を高エネルギーレーザーで圧縮することで燃料中心部を高温化し、燃料を点火、燃焼させてエネルギーを取り出す方式です。しかし近年の研究では燃料の流体混合が原因で核融合燃料点火が起こらないという問題に直面しています。一方、本研究で用いている「高速点火」方式は高強度レーザーを注入することで燃料点火温度まで加熱するためこの問題を回避することができ、現在の主流に替わる手法として注目されています。

図2に示すように、「高速点火」方式では、まず①複数のナノ秒(10億分の1秒)レーザーを用いて核融合燃料を予め高密度に圧縮し、②外部からピコ秒(1兆分の1秒)の高強度レーザーを照射し、ピコ秒程度で瞬間的に加熱することで、③核融合反応を点火し、燃料の大部分を燃焼させ、エネルギーを生み出します。

通常、レーザー核融合の高密度燃料は数ミリメートルにもなる低密度プラズマに覆われており、燃料を加熱するためには高強度レーザーはその低密度プラズマ中を燃料近傍まで通り抜ける必要があります。しかしその際に様々な不安定性が励起されてレーザーエネルギーが散逸することが予想されており、大阪大学を中心としたグループは2001年にコーン・シェル・ターゲット※5を利用して燃料加熱を実証[R. Kodama et al., Nature, Vol. 412, pp. 798-802 (2001).]しました。これによりコーン・シェル・ターゲットを用いて世界各国で研究が繰り広げられましたが、レーザー照射の対称性を崩してしまう上、燃料に不純物を含むことになり、燃料の構造も複雑化することでコストアップも懸念されています。

今回、羽原准教授らの研究グループは、図1に示すように高強度レーザーのプラズマ中における相対論的効果を利用することにより、低密度プラズマ中を安定に加熱レーザーエネルギーが伝搬し、加熱媒体である高エネルギー電子が燃料を加熱する様子を明らかにしました。本実験での条件では加熱レーザーから高密度プラズマへ与えられるエネルギーの割合はおよそ1%でしたが、実験結果とシミュレーションを用いた解析により、高強度レーザーやプラズマの条件を最適化することで12%以上が見込まれることも示しました。これによりレーザー核融合燃料を点火し、燃焼できるようになることが期待できます。

本研究成果は、英国総合科学誌「Nature Communications」に、12月9日(月)19時(日本時間)に公開されました。

図1 相対論効果を利用した高速点火レーザー核融合の概略図

図2 高速点火レーザー核融合の概略図

研究の背景

高強度レーザーと高密度プラズマの相互作用によって生成する、光速とほぼ等しい速度を有する「相対論的電子」を用い、これを加熱媒体とする「高速点火」レーザー核融合は1990年代に提案されました。この電子ビームにより核融合燃料を1億度近くにまで加熱することが出来れば、人類の挑戦の一つである制御核融合を実現することが出来ます(参考:日本物理学会物理70の不思議「核融合エネルギー発電は実用化するか?」)。

レーザー核融合で用いられる燃料プラズマは、その生成過程を起因として高密度燃料部の周りに厚さ数ミリメートルにもなる低密度プラズマに覆われています。この低密度プラズマは指数関数的に密度が減少しており、高強度レーザーは真空に近い低密度から臨界密度※6となる密度領域まで伝搬し、そこで「相対論的電子」を生成し、燃料を加熱します。しかし低密度プラズマ中を伝搬する際に励起される、レーザー進行方向が曲がるホージング不安定性、レーザーが分裂するフィラメント不安定性など様々なエネルギー散逸機構が知られており、臨界密度面まで加熱に必要なエネルギーを輸送できないのではないかと考えられていました。

羽原准教授を始めとした研究グループは、この様な長距離低密度プラズマにおいて、ある一定の条件で、レーザー軸上のプラズマを排除し、安定に臨界密度まで伝搬させることが可能であることを明らかにしてきました[A.L. Lei et al., Phys. Rev. E, Vol. 76, 066403 (2007); S. Ivancic et al., Phys, Rev. E, Vol. 91, 051101 (2015)]。さらに高強度レーザーの相対論的な効果、「相対論的自己集束」現象によってレーザー強度を上昇させ、さらに「相対論的異常透過※7」現象によって臨界密度を超えてレーザーを伝搬させることができ、より燃料に近い高密度領域で相対論的電子を生成することで効率的な燃料加熱が可能であることを示してきました[T. Iwawaki et al., Phys. Rev. E, 92, 013106 (2015)]。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本研究成果により、高強度レーザーを直接爆縮プラズマ照射する高速点火が実現可能であることを示され、将来的な核融合エネルギーの生成が期待されます。

特記事項

本研究成果は、2019年12月9日(月)19時(日本時間)に英国総合科学誌「Nature Communications」(オンライン)に掲載されました。

なお、本研究は、科学研究費補助金(15H05751)の支援にて実施されました。また本研究は自然科学研究機構核融合科学研究所との双方向型共同研究(Grant Nos. NIFS15KUGK092, NIFS15KNSS060, and NIFS16KUGK103)として実施されました。

タイトル

“Direct observation of imploded core heating via fast electrons with superpenetration scheme”

著者名

Tao GONG1#, 羽原英明1, 住岡耕平1, 吉本雅矢1, 林宜章1, 河津修平1, 大月崇史1, 松本竜樹1, 南卓海1, 阿部健太郎1, 會澤清1, 延命佑哉1, 藤田泰彦1, 池上温史1, 牧山大暉1, 岡崎克哉1, 沖田圭司1, 塚本太郎1, 有川安信2, 藤岡慎介2, 岩佐祐也2, S. Lee2, 長友英夫2, 白神宏之2, 山ノ井航平2,M.S. Wei3, 田中和夫 1$

所属

1大阪大学大学院工学研究科 電気電子情報工学専攻、日本
#現所属 Laser Fusion Research Center, China Academy of Engineering Physics, 中国
$現所属 Extreme Light Infrastructure: Nuclear Physics、ルーマニア
2大阪大学レーザー科学研究所、日本
3ロチェスター大学レーザーエネルギー研究所、アメリカ合衆国

用語説明

※1 レーザー核融合
高出力レーザーを用いて重水素と三重水素の混合物を固体密度の1000倍程度の高密度に圧縮し、かつ1億度近くまで加熱することで、核融合反応を起こし、エネルギーを得る手法。日本を始め、米国、仏国、中国、ロシア等で研究が行われている。

※2 プラズマ
物質の温度を上げていくと固体から液体を経て気体へ変化する。更に上昇させると気体分子が電離し、イオンと電子(及び中性粒子)で構成される状態を指す。

※3 相対論的自己集束
レーザー強度が非常に強く、かつレーザービームに空間的な強度分布が存在すると、相対論効果によってプラズマの誘電率が変調し、空間的な屈折率勾配を生じる事によってレーザーが自己集束する現象

※4 高強度レーザー
非常に高い照射強度をもつレーザー。レーザー電場によって振動を受ける電子の平均運動エネルギーが、電子の静止質量と等しくなる1018W/cm2以上の強度を実現するレーザーを指す。

※5 コーン・シェル・ターゲット
核融合燃料を封入したシェル(球殻)に、コーン(円錐)を取り付けたターゲット(レーザー標的)。高密度核融合燃料はコーンの先端に形成され、コーンの壁がその内側にプラズマが入り込むのを防ぐため、高強度レーザーをコーンの内側から核融合燃料の近傍に照射することができる。

※6 臨界密度
レーザーが反射されずに伝搬することができるプラズマ密度の上限。レーザー波長によってきまる。

※7 相対論的異常透過
レーザー強度が非常に強い場合、相対論効果によってプラズマの誘電率が変調し、見かけの臨界密度が変化することで古典的な臨界密度以上のプラズマ密度領域にレーザーが侵入する現象

参考URL

大阪大学大学院工学研究科電気電子情報工学専攻 極限プラズマ工学領域 蔵満研究室HP
http://www.eie.eng.osaka-u.ac.jp/le/tanakaken/

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