自然科学系

2019年12月23日

研究成果のポイント

・世界最大級のパワー(瞬間的出力が世界中で消費される電気パワーの1000倍)を誇るLFEXレーザーを用いて、世界一の効率で太陽中心の1/10に匹敵する超高圧力状態(200億気圧)のプラズマの生成に成功しました。
・高速点火方式という独自の高効率レーザー核融合方式の燃料加熱の物理機構が明らかになり、核融合点火が射程内に入ってきました。
・今回の成果は、レーザー核融合研究で最も進んでいる米国に比べて、5倍程度の効率で超高温・超高圧力のプラズマの生成に成功しており、世界一の高効率でレーザー核融合実現に向け大きく前進したことを意味します。
・今回の成功のカギの1つは、超高強度のレーザーでプラズマを加熱しつづける長時間加熱です。大阪大学のLFEXレーザーは、比較的長時間(それでも僅か1兆分の1秒)の加熱が可能で、他の施設にはない特徴です。

概要

大阪大学レーザー科学研究所(所長 兒玉了祐)の藤岡慎介教授と千徳靖彦教授の研究グループ、広島大学工学研究科、米国ネバダ大学リノ校、レーザー技術総合研究所、米国パデュー大学、自然科学研究機構核融合科学研究所、光産業創成大学院大学所属の研究者らで構成された国際共同研究チームは、世界最大級の2ペタワット※1のパワーを誇るLFEXレーザー※2を用いて、レーザー核融合※3エネルギーの実現に必要な高圧力に迫りました。実現したプラズマ※4の温度は2千万度で圧力は200億気圧という驚異的な値であり、太陽内部の圧力に匹敵します。成果の実現には、1キロテスラ※5(一般的な磁石の1000倍の強さ)という地上最大級の磁石の発明と、加熱レーザーで駆動される熱波が寄与しました。

大型装置を用い、多数の研究者が関わるプロジェクト研究でありながら、教員の指導の下、博士前期/後期課程に在籍する学生が主体的に研究を遂行した点も重要な特色です。

本研究成果は、米国物理学会(American Physical Society)が刊行する物理学専門速報誌「フィジカル・レビュー・レターズ誌 (Physical Review Letters)」に12月20日(金)に掲載されました。

研究の背景

レーザー核融合の主流は「中心点火」方式と呼ばれ、国家プロジェクトレベルで推進されています。アメリカ合衆国のNational Ignition Facility、フランスのLaser Mega Joule、中国の神光III号のような超巨大レーザー装置が巨額を投じて建設され、実験が行われています。しかし、「中心点火」方式では、流体混合※6が原因で、当初の見込み通りに点火が起こらないという深刻な障壁に直面しており、未だ成功していません。

一方、国内のレーザー核融合研究は大学を中心とする学術研究であり、加えて、将来の核融合エネルギーの実現を見越して「中心点火」方式よりも小型レーザーで実現可能な、効率の良い方式の研究を探究しています。本研究チームが取り組むのが、高速点火方式であり、主流に替わりうる革新的な手法として注目されています。

図1に示すように「高速点火」方式では、まず①複数のナノ秒(10億分の1秒)レーザーを用いて核融合燃料を予め高密度に圧縮し、②ピコ秒(1兆分の1秒)の高強度レーザーで瞬間的に加熱することで、③核融合を点火し、燃料の大部分を燃焼させ、エネルギーを生み出します。

図1 高速点火方式によるプラズマ加熱の過程

研究の内容

本研究チームは、高速点火方式に地上最強級の磁石(S. Fujioka et al., Scientific Reports)を導入した「磁化高速点火」の原理を2018年に実証し、加熱効率を高めることに成功しました(S. Sakata et al., Nature Communications)。今回の研究では、過去の成果を更に発展させ、プラズマを最大で2200万度まで加熱し、200億気圧に相当する高圧力プラズマの生成に成功しました。

図2は本研究で明らかにしたプラズマの加熱の過程を示しています。圧縮された高密度核融合燃料の一部が、加熱レーザーによって直接加熱され、熱波が高速(秒速数千キロメートル)でプラズマ中に広がっていきます。この熱波を走らせるためには、レーザーでプラズマを加熱し続ける必要があります。LFEXレーザーの特徴である長時間照射(それでも1兆分の1秒)が加熱の鍵であることを、コンピューターシミュレーションが明らかにしました。2020年からは、加熱レーザーの照射時間を更に10倍伸ばし、より高温度かつ高圧力のプラズマを生成することで、核融合エネルギーの実現へ更に迫ります。

図2 ①プラズマ加熱の模式図.②コンピューターシミュレーションによるプラズマ加熱の再現

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

太陽は核融合によるエネルギーで輝いており、核融合エネルギーは地球上の全ての生命の源と言えます。僅か1gの燃料で石油8トンに相当するエネルギーを生み出せることから、人類のエネルギー問題を解決する究極のエネルギー源と目されています。この核融合エネルギーを地上で実現することは、半世紀以上続く人類の挑戦の一つです(参考:日本物理学会物理70の不思議「核融合エネルギー発電は実用化するか?」)。高速点火方式を用いたレーザー核融合研究は、平成15年の「今後の我が国の核融合研究の在り方について」(文部科学省基本問題特別委員会核融合研究ワーキンググループ報告)において、トカマク※7やヘリカル※8と共に、我が国の核融合重点化計画として位置づけられました。大阪大学レーザー科学研究所では核融合科学研究所と協力し、レーザーを用いた核融合研究を行っています。効率的なプラズマ加熱は、経済的な核融合発電の実現にとって必須であり、核融合発電の実現に向けた大きな前進です。また高温度かつ高密度なプラズマは高エネルギー密度プラズマと呼ばれ、その特性は星の内部と同等です。望遠鏡で観測するしかない遠くの星と同じ状態を実験室で作り出すことで、宇宙及び天体と関連する物理現象を実験室内で研究する学術的プラットフォームとしても発展も期待されます。

特記事項

本研究は自然科学研究機構核融合科学研究所との双方向型共同研究及びレーザー連携、及び大阪大学レーザー科学研究所の共同利用・共同研究拠点事業の下で実施されました。本研究の一部は、科学研究費補助金(24684044,25630419,15K17798,15K21767,15KK0163,16K13918,16H02245,17K05728)及び日本学術振興会特別研究員制度(14J06592,15J00850,15J00902,15J02622,17J07212,18J01627,18J11119,18J11354)、松尾学術振興財団の支援にて実施されました。

タイトル

"Peta-Pascal Pressure Driven by Fast Isochoric Heating with Multi-Picosecond Intense Laser Pulse"(日本語訳「数ピコ秒の高強度レーザーを用いた等積加熱で生成されたペタパスカル圧力状態」)

著者名

松尾一輝1#, 東直樹1#, 岩田夏弥1, 坂田匠平1#, 李昇浩1#,城﨑知至2,澤田寛3,岩佐祐希1$,LAW Farley King Fai1%, 森田大樹1#,落合悠悟1*,小島完興1#,安部勇輝1$,畑昌育1,佐野孝好1,長友英夫1,砂原淳4,5,MORACE Alessio1,余語覚文1,中井光男1,坂上仁志6,尾﨑哲6,山ノ井航平1,乗松孝好1,中田芳樹1,時田茂樹1,河仲準二1,白神宏之1,三間圀興7,疇地宏1,兒玉了祐1,有川安信1,千德靖彦1, 藤岡慎介1

所属

1大阪大学レーザー科学研究所,日本
#当時 大阪大学 大学院理学研究科 物理学専攻 博士後期課程
$当時 大阪大学 大学院工学研究科 環境・エネルギー工学専攻 博士後期課程
*当時 大阪大学 大学院理学研究科 物理学専攻 博士前期課程
%当時 大阪大学 大学院理学研究科 国際物理特別コース 博士後期課程
2広島大学大学院工学研究科,日本
3ネバダ大学リノ校物理学科,アメリカ合衆国
4レーザー技術総合研究所,日本
5パデュー大学 極限環境物質研究センター,アメリカ合衆国
6自然科学研究機構,核融合科学研究所,日本
7光産業創成大学院大学

用語説明

※1 ペタワット
1秒間で消費されるエネルギー(単位ジュール)をワットという。世界中で消費されている電気は、約3テラワット(3兆ワット)であり、LFEXレーザーは、極めて瞬間的に、その1000倍のパワーを発生させることで、高い温度と圧力を実現する。

※2 LFEX(エルフェックス)レーザー
短いパルスで高出力が得られるレーザー装置、一瞬(1兆分の1秒=1ピコ秒)ではあるが、世界中の総発電量をはるかに上回る超高強度出力(2千兆ワット=2ペタワット)が得られる。高出力レーザー装置LFEXは日本の光技術の粋を結集した最先端装置であり、国内企業の技術競争力の向上に大きく寄与するとともに、国際的に高く評価されている。

※3 レーザー核融合
高出力レーザーを用いて重水素と三重水素の混合物を高密度に圧縮すると共に、高温度に加熱することで、核融合反応を起こし、エネルギーを得る手法。日本を始め、米国、仏国、中国、ロシア等で研究が行われている。

※4 プラズマ
固体、液体、気体に続く第4の物質状態(相)で電離気体とも呼ばれる。物質を構成する原子の一部または全部がイオンと電子に分離した状態。

※5 テスラ
磁束密度(~磁石の強さ)を示す単位。赤道における地磁気は31マイクロ・テスラ(1マイクロ・テスラは1テスラの100万分の1)。永久磁石は最大で1テスラ程度。

※6 流体混合
中心点火方式において、球殻状の核融合燃料を圧縮する過程で、球殻の表面の微小な凹凸の振幅が大きくなり、中心に形成された高温で低密度な点火部とその周囲を取り囲む低温で高密度燃料部が混ざり合う現象。流体混合によって点火部の温度が急激に下がることが、中心点火方式の成功を妨げている。高速点火方式では、流体混合が起こるよりも早く、低温燃料部の一部を加熱して点火部とするため、流体混合を回避出来る。

※7 トカマク
磁場の力を使って超高温の核融合プラズマを閉じ込める方式の一つ。現在建設中の国際核融合実験炉ITER(イーター)でも採用されている。量子科学技術研究開発機構のJT-60SA(建設中)が国内最大のトカマク装置である。ドーナツ型のプラズマの外部に設置したコイルが作る磁場とプラズマを流れる電流が作る磁場の足し合わせによって、安定にプラズマを閉じ込める。

※8 ヘリカル
磁場の力を使って超高温の核融合プラズマを閉じ込める方式の一つ。自然科学研究機構の大型ヘリカル装置(LHD)が国内最大の装置である。ねじれたコイルを周回させることで、超高温プラズマの閉じ込めに適した磁場を作る。トカマクとは違い、プラズマの閉じ込めにプラズマ中を流れる電流が必要ない。

研究者のコメント

我々が提案した「磁化高速点火」方式を用いて、アメリカ、フランス、中国等の巨大レーザー施設と比べ、1/5以下の規模の施設で超高圧力を実現しました。世界で最も効率的に核融合エネルギーを実現出来る可能性があり、今後も研究を進めて行きます。

参考URL

大阪大学 レーザー科学研究所 超高強度場科学グループHP
http://lf-lab.net

この組織の他の研究を見る

Tag Cloud

back to top