自然科学系

2017年6月13日

本研究成果のポイント

・パワーレーザーショック超高圧法※1とX線自由電子レーザー(XFEL)施設SACLA※2によるX線回折イメージング※3により、材料の超高速破壊現象のフェムト秒(10-15秒)露光原子レベル観察に世界で初めて成功
・独自のパワーレーザーシステムで秒速5kmもの超高速衝突時に相当する材料の破壊を再現
・宇宙構造物や航空機など、極限環境・極端条件下での構造物設計や新高耐力材料開発の進展に期待

概要

大阪大学大学院工学研究科の尾崎典雅准教授、Bruno Albertazzi研究員(現仏エコールポリテクニーク)、兒玉了祐教授(レーザー科学研究所所長兼任)、理化学研究所の矢橋牧名グループディレクター、犬伏雄一研究員(JASRI)らを中心とする日仏英露の国際研究グループは、理化学研究所放射光科学総合研究センター(石川哲也センター長)のX線自由電子レーザー(XFEL)施設SACLAを用いて、秒速5kmもの超高速衝突の際に材料が破断的に破壊していく様子を原子レベルで観察することに世界で初めて成功しました(図1)

超高速で飛翔する物体が材料に衝突した際、衝突面とは反対側の面に、より甚大な損傷が見られるなど、特徴的な破壊現象が起こります。このような超高速応力に起因するダイナミックな材料破壊を直接見ることは、その極短時間性から、これまで極めて困難でした。本研究グループはパワーレーザーショック超高圧法とSACLAを用いたX線回折イメージングによって、超高速破壊現象をフェムト秒の時間分解能※4でかつ原子レベルで直接観察することに成功し、材料の結晶構造中にサブミクロンレベルの亀裂が急激に集中して発生することで、高速衝突に特有の破断破壊に至ることを明らかにしました。

本手法により、超高速応力印加時における材料破壊挙動の超高速原子レベル観察とともに、破壊応力※5などの機械力学的特性の定量的評価が可能になり、宇宙構造物など極限環境下で使用される材料のための安全性向上や先進高耐力材料開発などが促進されると期待されます。

本研究成果は、平成29年6月3日(土)午前3時(日本時間)に米国科学振興協会AAASのScienceAdvancesにてオンライン公開されました。

図1 実験体系とX線回折イメージの模式図。
金属箔ターゲットにパワーレーザーを集光照射し(図中下側)、材料内部に衝撃波が駆動される。材料の裏面側からX線自由電子レーザーを照射し、裏面に現れる超高速破壊を観察する。パワーレーザーとXFELの時間間隔を少しずつ変化させて実験を繰り返し、フェムト秒露光のX線回折スナップショットを繋げた連続画像を取得できる。

研究の背景

材料に衝撃的な力を加えると、スポール破壊※6に代表される破断・破砕的な破壊が生じます(図2)。このとき衝撃が与えられた場所とは異なる場所でしばしば深刻な破壊が生じ、例えば構造物の内部にはより甚大な被害が生じることが知られています。このような超高速の破壊現象はその超高速性ゆえにミクロな知見を直接得ることは困難でした。従来は、実験後の試料の断面の破壊損傷痕を観察することで、破壊の開始や進展のメカニズムを推量する研究が行われてきました。しかし、動的な応力下における破断強度は構造体に用いられる材料の重要な特性のひとつにもかかわらず、超高速域の定量的なデータはほとんど得られていませんでした。

図2 上は典型的なスポール破壊した材料の断面。材料の裏面(下側)に大きな損傷が見られる。下は地球軌道上の宇宙ゴミの分布。秒速10kmを超えるものも存在し、衝突時の大きな被害が憂慮されている。

本研究成果が社会に与える影響

本研究成果は、超高速衝突時の動的な破壊の開始や進展をミクロな視点で観察できることを実証したもので、宇宙ステーションや航空機などの安全性向上や新高耐力材料の開発促進につながるなど、人と社会の安心と安全に資する重大な研究成果と言えます。

特記事項

本研究の成果は、平成29年6月2日(金)午後2時(米国東部標準時間)(日本時間6月3日(土)午前3時)に米国科学振興協会AAAS刊行のオンラインジャーナルScience Advancesに掲載されました。
題名:「Dynamic fracture of tantalum under extreme tensile stress」
邦訳:「極限的引張応力下におけるタンタルの動的破壊」
著者:B. Albertazzi, N. Ozaki, V. Zhakhovsky, A. Faenov, H. Habara, M. Harmand, N.J. Hartley, D.K. Ilnitsky, N.Inogamov, Y. Inubushi, T. Ishikawa, T. Katayama, T. Koyama, M. Koenig, A. Krygier, T. Matsuoka, S. Matsuyama,E.E. McBride, K. P. Migdal, G. Morard, H. Ohashi, T. Okuchi, T. Pikuz, N. Purevjav, O. Sakata, Y. Sano, T. Sato, T.Sekine, Y. Seto, K. Takahashi, K. A. Tanaka, Y. Tange, T. Togashi, K. Tono, Y. Umeda, T. Vinci, M. Yabashi, T.Yabuuchi, K. Yamauchi, H. Yumoto and R. Kodama

本研究成果は、日本学術振興会の研究拠点形成事業(A.先端拠点形成型)「X線自由電子レーザーとパワーレーザーによる極限物質科学国際アライアンス」、文部科学省委託事業のX線自由電子レーザー重点戦略研究課題「XFELとパワーレーザーによる新極限物質材料の探索」、および大阪大学国際共同研究促進プログラム日仏連携「光・量子ビーム技術による高エネルギー密度物質探査に関する日仏連携研究」に基づくものです。

また本研究成果は、仏エコールポリテクニークからもプレス発表されました。

用語解説

※1 パワーレーザーショック超高圧法
パワーレーザーを集光照射すると、物質の表面が瞬時に蒸発し爆発的に膨張します。この膨張の反作用として、物質そのものがロケットのように推進力を得ます。この推進力で加速される物質の速度が音速の領域を超えると、物質内部に衝撃波(ショック)が駆動され超高圧が生成されます。

※2 X線自由電子レーザー(XFEL)施設SACLA
世界に2つしかないX線自由電子レーザー(XFEL:X-ray Free-Electron Laser)施設のひとつで、理化学研究所と高輝度光科学研究センター(JASRI)が共同で建設しました。加速器の中で電子の固まりを正確な制御の下で一斉に振動させ、その電子の固まりからX線レーザーを発生させるX線発生装置。SPring-8 Angstrom Compact free-electron LAser の頭文字を取ってSACLAと命名されました。

※3 X線回折イメージング
原子が周期的に並んでいる物質にX線を入射させると、X線の波長と入射角に依存した位置に強いX線の散乱が観測されます。この現象をX線回折といい、このX線の回折パターンを記録(イメージング)することで物質内部の原子の並び方を調べることができます。

※4 フェムト秒の時間分解能
フェムト秒は10-15秒のことです。この極めて短い時間にしか光らないX線レーザーをフラッシュ光源として用いると、高速で動く原子を止まったように撮像できます。

※5 破壊応力
材料が破壊するときに必要な単位面積当たりの力(応力)。単位は圧力と同じです。

※6 スポール破壊
圧縮波である衝撃波が材料の自由面で反射すると、圧縮とは反対の引張波が生成します。この引張波と衝撃波の終端が相互作用して引張応力が最大となり、材料の破壊応力を超えると破断的破壊が生じます。これにより、しばしば材料裏面で深刻な破壊が生じ、超高速の破片が飛び散るなどの特徴的な現象が起きます。このような破壊現象を総称してスポール破壊と呼びます。

参考URL

大阪大学大学院工学研究科 電気電子情報工学専攻 電気電子システム工学部門先進電磁エネルギー工学講座 高エネルギー密度工学領域
http://www.eie.eng.osaka-u.ac.jp/ef/

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