2016年5月24日

本研究成果のポイント

・ハイパワーレーザーで生成した超高圧超高温の極限状態で、絶縁体化合物※1 である物質が瞬時に液体金属※2 になり、その際の振る舞いを表す状態方程式※3 を発見。
・再現が難しい巨大惑星深部に対応する超高圧・超高温の環境を本学のレーザー施設(激光XII号)※4 で再現。
・系外巨大惑星※5 内部構造の解明やレーザー加工のスマート化※6 へ繋がる貴重な成果。

リリース概要

大阪大学大学院工学研究科の尾崎典雅准教授、兒玉了祐教授、および熊本大学パルスパワー科学研究所の真下茂教授らは、米ハーバード大学のW. Nellis 博士、米サンディア国立研究所のM.Knudson 博士、スウェーデン・ウプサラ大学のR.Ahuja 教授らとの共同研究で、大阪大学レーザーエネルギー学研究センターのハイパワーレーザー激光XII号(図1)などを用いて、1千万気圧※7 、1万度といった超高圧力・超高温度下で絶縁体化合物が瞬時に液体金属状態となることを明らかにしました。

レーザーショック※8 という“光の集中性”を利用した方法によって、1千億分の1秒※9 という極めて短い時間で化学結合が切断され、同時に原子間の距離が急激に縮み、超高圧超高温の原子スープ※10 とも呼べるような液体金属状態が生成されます。そして、圧力と温度の上昇に伴って、化合物の構成元素や化学結合の種類に起因するいわゆる“物質の個性”は徐々に失われていくこと、そして最終的に多くの液体金属の振る舞いが非常に単純な共通の方程式(状態方程式)に従うことを明らかにしました。

この超高圧高温の液体金属に関する研究成果は、レーザープロセス(加工)のスマート化から、太陽系内外の巨大惑星内部や、核融合ターゲットプラズマ※11 の振る舞いの理解などに繋がる重要なものになります。本研究成果は、平成28年5月19日(木)18時(日本時間)に英国Nature Publishing Group のScientific Reports誌にて公開されました。

図1 ハイパワーレーザー照射の瞬間の様子
直径2メートル程度の真空容器の内部で起きる物質の反応を観察する(大阪大学レーザーエネルギー学研究センター)

研究の背景

私たちの住む地球の中心部(図2)には300万気圧・5,000度の液体の鉄合金が渦巻いていると考えられています。木星の深部は3,500万気圧・20,000度にも達し、水素の液体金属が存在します。このような超高圧高温の物質は、物理学の世界ではWarm Dense Matter※12 と呼ばれ、単純な固体や液体でもなく、また理想的なプラズマでもない複雑な状態であるため、その特徴や振る舞いの理解がまだ十分ではありません。惑星内部構造の謎の解明のためだけでなく、これからの物質科学や材料工学の発展を目指して、世界中で研究が行われています。

図2 NASAによる地球内部のイメージ図
中心は固体の鉄合金( Solid inner core )、その外側が液体の鉄合金( Liquid outercore)

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

これまで極めて複雑と思われてきた高エネルギー物質状態を、より単純に分類したり理解したりできることが証明されたことにより、高出力レーザープロセスのさらにスマートな制御による加工の効率化や、太陽系外で次々に見つかる巨大惑星の内部構造や進化過程の解明、レーザー核融合発電実現に向けた高密度プラズマの振る舞いの予測などにも繋がる有用な知見であると考えられます。

特記事項

本研究成果は平成28年5月19日(木)18時(日本時間)に英国のNature Publishing Group のScientific Reports誌にて公開されました。

掲載誌:Scientific Reports(出版元:Nature Publishing Group)
題名:Dynamic compression of dense oxide (Gd3Ga5O12) from 0.4 to 2.6 TPa: Universal Hugoniot of fluid metals
邦訳:高密度酸化物の400万から2600万気圧までのダイナミック圧縮:液体金属のユニバーサルユゴニオ

本研究成果は、日本学術振興会の研究拠点形成事業「X線自由電子レーザーとパワーレーザーによる極限物質科学国際アライアンス」、および文部科学省委託事業のX線自由電子レーザー重点戦略研究課題「XFELとパワーレーザーによる新極限物質材料の探索」の一環で行われました。

用語解説

※1 絶縁体化合物
電気を通しにくい物質の総称です。一方、金属は電気を通しやすいので伝導体、良導体などと呼ばれます。

※2 液体金属
水銀や、溶融した金属は液体金属状態です。ここでは超高圧と超高温により、極限的な液体金属を生成しています。

※3 状態方程式
物質における圧力、温度、体積などを関係づける方程式のことです。物質の状態によって式の形は変化します。高校の課程で登場する理想気体の状態方程式は最も基礎的なもののひとつです。

※4 ハイパワーレーザー激光XII号
大阪大学が所有する世界でも有数の大型レーザーです。宇宙物理や惑星科学、極限物質科学、核融合科学、そしてこれらを含む分野横断的学問である高エネルギー密度科学がこのレーザーを用いて展開されています。

※5 系外惑星
太陽系の外にある惑星。観測技術の進歩により、1990年代以降、1000以上の系外惑星が見つかっています。

※6 レーザー加工のスマート化
高出力レーザーにより材料の切断や溶接、機能性向上などが行われていますが、その材料表面に液体金属状態が生成されます。これまで複雑と思われてきた液体金属の振る舞いに非常に単純な法則が見出されうること、そしてその振る舞いがどういうときに単純になり、どういうときに複雑になるのか、などが明らかになることは、これまで切断しにくかったものを容易に切断できるようになるなど、レーザー加工技術を材料の種類に最適化させたり、より高度に制御したりすることに役立つはずです。

※7 1千万気圧
私たちの暮らす地表は1気圧の圧力です。マリアナ海溝の超深海(海底約10,000メートル)が約1000気圧、地球の中心が350万気圧程度とされています。

※8 レーザーショック
高出力のパルスレーザーを物質表面に集光照射すると、物質が爆発的に蒸発・プラズマ化します。その反作用によって、物質内部にショックウェーブ(衝撃波)と呼ばれる圧力や温度、エネルギーを伝える波が形成されます。このレーザーで生成されたショックウェーブのことをレーザーショックと呼び、またこれを使って物質を高圧高温にする方法をレーザーショック圧縮法と呼びます。

※9 1千億分の1秒
10ピコ秒(10ps)。一秒間に地球を7周半できる光が、数ミリしか進めないほどの短い時間です。

※10 原子スープ
化合物を構成する原子間の化学結合が切れ、原子がぎゅうぎゅうに詰まった高圧高温状態になります。その際、各元素固有の大きさや`化学反応のしやすさ`の違いが無視できるようになった状態を指しています。

※11 核融合ターゲットプラズマ
燃料となる水素を封入した球状のターゲットにハイパワーレーザーを照射して爆発的な圧縮を起こし、高温高密度のプラズマを形成して核融合反応に至らせるのがいわゆるレーザー核融合です。またレーザー照射の初期段階には、この燃料球ターゲット表面に固体-プラズマ中間体が形成されます。この過程を通して形成される様々なプラズマを総称して核融合ターゲットプラズマと呼んでいます。

※12 Warm Dense Matter
直訳すると``暖かく高密度な物質``ということになりますが、暖かいといっても1000度から数10万度の温度の範囲を指します。このような高温度にもかかわらず固体程度の密度を有する複雑な物質状態の総称です。日本語ではしばしば``固体-プラズマ中間体``とも呼ばれます。

参考URL

大阪大学工学部 大学院工学研究科 電気電子情報工学専攻 兒玉研究室HP
http://www.eie.eng.osaka-u.ac.jp/ef/kyoju.html

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