自然科学系

2018年1月24日

研究成果のポイント

・高強度レーザーによるイオン加速において、加速電場に加え強磁場が同時に発生していることを明らかにした。
・レーザー加速中の強磁場発生のメカニズムを理論的に解明し、10万テスラ※3級の強磁場の兆候を実験で観測することに初めて成功した。
・レーザー駆動イオン加速の効率を上げるためのレーザー照射条件に対する指針を示した。

概要

大阪大学レーザー科学研究所(所長兒玉了祐)の千徳靖彦教授と、同先導的学際研究機構、同大学院工学研究科、エコールポリテクニーク(フランス)、欧州XFEL(ドイツ)、応用物理学研究所(ロシア)、サンディア国立研究所(米国)、原子力・代替エネルギー庁(フランス)との国際共同研究チームは、超高強度レーザーによるイオン加速において、加速電場の励起時に非常に強い自己生成磁場が発生し、磁場がイオン加速に影響を与えることを明らかにしました(図1)。強磁場発生のメカニズムを理論的に明らかにするとともに、10万テスラ級磁場の兆候を実験で捉えることに世界で初めて成功しました。本成果は将来医療応用等が期待される100メガ電子ボルト※4を超えるエネルギーを持つイオン源の開発に向けて、必要なレーザー条件に対して指針を与えるものです。

高強度レーザーを厚さ数ミクロンという極薄金属板に照射すると、金属板に付着する不純物の中に存在するプロトン(水素イオン)が、他のイオンよりも優位に加速され飛び出します。これはプロトンの電荷と質量の比が、他のイオン種よりも大きいためであり、このような加速をレーザー駆動イオン加速と言います。現在、プロトンのエネルギーは数10メガ電子ボルトを安定的に達成しています。癌治療などの医療応用や非破壊検査といった応用に利用できるとされる100メガ電子ボルトのエネルギーに、あと少しで到達できるとされ世界各国で活発に研究が行われています。

しかしながら、レーザーのエネルギーを上げても、プロトンのエネルギーが50メガ電子ボルト程度で飽和してしまい、その理由がわからず研究は足踏み状態にありました。本研究成果は「なぜレーザー加速によるプロトンエネルギーが飽和してしまうのか?」という疑問に答えを出すとともに、今後のレーザー駆動イオン加速の効率を上げるための重要な知見を提供し、100メガ電子ボルト以上のプロトンエネルギーを達成するための指針を与えるものです。本研究成果により、今後、レーザー駆動イオン加速の研究が益々活発になるものと期待されます。

本研究成果は、スプリンガー・ネイチャー社が発行するオープンアクセスジャーナル「NatureCommunications」誌に1月18日19時(日本時間)に掲載されました。

図1 数値シミュレーションで明らかにしたレーザー照射により発生する強磁場分布(a)。ターゲット裏面で記録したプロトンの分布(b)。強磁場で屈折してリング状に分布しているのが見える。

研究の背景

パルス幅サブピコ秒の極短パルス高強度レーザーを薄膜金属に照射すると、メガ電子ボルトを超えるエネルギーを持つプロトンが発生することが2000年代初めごろから確認されていました[例:A.Mackinnon, 千徳靖彦 et al. Physical Review Letters 88, 215006 (2002)]。プロトンは金属薄膜に付着する不純物に存在し、レーザー照射により金属面に発生した強い静電場により加速されます。プロトンのエネルギーはレーザーテクノロジーの発展とともに上昇し、数10メガ電子ボルトは安定的に達成されるようになっています。医療などへの応用が展開できる100メガ電子ボルトを超えるエネルギーを持つプロトンを発生するのが、現在の世界的な研究者の目標となっており、しのぎを削っています。

エネルギーを向上するための一つのアプローチとして、レーザーエネルギーを集光極限まで集中し、レーザー強度を1020W/cm2(光の持つ光子圧力がギガバールを超える)以上にしたマイクロフォーカスレーザーによるレーザー駆動イオン加速があります。しかしながら発生したプロトンのエネルギーは、50メガ電子ボルト程度で飽和してしまいました。

本研究は実験と理論の両面から、エネルギー飽和の原因が、加速電場とともに発生する強磁場によるプロトンの発散にあることを突き止めました。また、レーザーを小さなスポットへ集中することが磁場をより強くし、イオン加速への影響が大きくなることを明らかにしました。磁場の成長のメカニズムが明らかになったことで、磁場の影響を抑える指針が得られ、この方法のイオン加速研究が進むことが期待されます。

一方で、大阪大学レーザー科学研究所では、マルチピコ秒のパルス長で、数10ミクロンの大きなスポット径を持つLFEXレーザーを活用し、マイクロフォーカス法とは別のアプローチでイオン加速を研究しています。LFEXレーザーの場合、マイクロフォーカス法に比べて、レーザー強度で比べた場合、格段に加速効率が高くなることが明らかになり、その結果は2017年1月に発表されています[A. Yogo, K. Mima,N. Iwata et al., Scientific Reports 7, 42451 (2017)]。LFEXレーザーのような大きなスポット径の場合、発生する磁場が弱く、磁場の影響がほとんどないことが推察されます。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

レーザー駆動イオン加速器は、その加速場の強さから、コンパクトなサイズで高エネルギーイオンを発生することが可能であり、高エネルギー粒子源の一つとして、世界中で活発に研究が行われています。本研究の成果により、レーザー照射中に成長する強磁場の影響を抑えることで、加速長を伸ばすことができ、結果としてイオンのエネルギーを大幅に改善できる可能性が示されました。レーザー駆動イオン加速の一層の発展が期待されます。強磁場発生のメカニズムと10万テスラという強磁場で磁化した高エネルギープラズマ中の物理は、宇宙プラズマとの関連性からも興味深く、強磁場中の原子過程など宇宙プラズマの素過程を調べることにも貢献すると期待されます.

特記事項

本研究成果は、2018年1月18日19時(日本時間)にSpringer Nature社が発行する「NatureCommunications」誌に掲載されました。

タイトル:"Self-generated surface magnetic fields inhibit laser-driven sheath acceleration of highenergyprotons"(日本語訳 「自己生成磁場のレーザー駆動プロトン加速への影響」)

著者名:中堤基彰(元LULI研究所、現欧州XFEL、大阪大学先導的学際研究機構特任准教授)1,2,4, 千徳靖彦(現大阪大学レーザー科学研究所教授、元ネバダ大学リノ校教授)3,5, A.Korzhimanov6, S.N. Chen1,6, S. Buffechoux1, A. Kon3,7,10, B. Atherton8, P. Audebert1, M.Geissel8, L. Hurd1,11, M. Kimmel8, P. Rambo8, M. Schollmeier8, J. Schwarz8, M.Starodubtsev6, L. Gremillet9, 兒玉了祐(大阪大学レーザー科学研究所長、大阪大学工学研究科教授)3,4,7 & J. Fuchs1,6

所属:1 エコールポリテクニーク LULI研究所、フランス
2 欧州 XFEL、ドイツ
3 大阪大学 レーザー科学研究所、日本
4 大阪大学 先導的学際研究機構、日本
5 ネバダ大学リノ校 物理学科、アメリカ
6 応用物理学研究所、ロシア
7 大阪大学 工学研究科、日本
8 サンディア国立研究所、アメリカ
9 原子力・代替エネルギー庁、フランス
10 高輝度光科学研究センター、日本
11 クレムソン大学 天文・物理学科、アメリカ

国際共同研究の実施に際しては、日本学術振興会の国際共同研究加速基金(帰国発展研究JP15K21767)等の助成を頂きました。

用語説明

※1 レーザー駆動イオン加速
極短パルス超高強度レーザーを用いて極薄金属板を加熱し、薄膜表面で発生する静電場により、主にプロトンを加速する。近年、炭素や重金属などの他イオンの加速も含め、世界各国で積極的に研究が行われている。医療などの応用へ展開するため100メガ電子ボルト以上のプロトンを発生するというのが目標になっている。

※2 高エネルギー密度科学
レーザーのように、短時間の内に大きなパワーが得られる装置を利用して、星の内部に匹敵する高い圧力(=高いエネルギー密度)を有する物質・プラズマを生成し、その内部状態の挙動や内部で起こる反応を観測することで、プラズマから放出されるX線や粒子の利用を目指す学際的な研究領域。レーザー核融合や実験室宇宙物理も、高エネルギー密度科学に含まれる。

※3 テスラ
磁場の強さの絶対値を示す単位。赤道における地磁気は31マイクロ・テスラ(1マイクロ・テスラは1テスラの100万分の1)。強力なネオジウム磁石は1テスラ程度の強さを有する。

※4 電子ボルト
粒子等のエネルギーを示す単位。1電子ボルトは、1ボルトの電位差で加速された電子が得るエネルギーに等しい。約1.602x10-19ジュール。1メガ電子ボルトは1電子ボルトの100万倍。

参考URL

大阪大学 レーザー科学研究所 高エネルギー密度輻射プラズマ理論グループ
http://www.ile.osaka-u.ac.jp/research/thr/

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