ナノクレイゲル×BMP2で副作用のない良質な骨再生を実現

ナノクレイゲル×BMP2で副作用のない良質な骨再生を実現

次世代の骨再生治療!

2024-12-6生命科学・医学系
医学系研究科特任准教授海渡貴司

研究成果のポイント

  • 骨再生において、骨や軟骨の形成を促進するタンパク質BMP2に、ナノクレイゲル(NC)を混合して使用すると、炎症反応などの副作用がほとんど生じず、良質な骨再生が実現できることを解明
  • 従来、BMP2はコラーゲンスポンジ(CS)に含ませて投与されていたが、強い炎症反応などの副作用が課題となっていた
  • BMP2を用いた骨再生の安全性・効果が高まり、難治性骨折手術、脊椎固定手術などを受けた患者さんの早期回復への貢献に期待

概要

大阪大学大学院医学系研究科大学院生の古市拓也さん(博士後期課程)、海渡貴司特任准教授、岡田誠司教授 (整形外科学)らの研究グループは、骨再生において、骨や軟骨の形成を促進するタンパク質BMP2に、ナノクレイゲル(NC)を混合して使用すると、炎症反応がほとんど生じず、良質な骨再生が実現できることを明らかにしました。

BMP2は優れた骨形成作用を持ち、欧米では難治性骨折や脊椎固定手術において骨の癒合(ゆごう)を早くすることが報告される一方、炎症反応や過剰な骨形成などの副作用が問題となります。BMP2を安全に使用するには、これらの副作用を抑えつつ、効率的な骨再生を可能にする新世代の骨再生材料の開発が必要です。

今回、研究グループは、NCをBMP2と混合して生体内に移植すると、炎症反応をほとんど起こすことなく、軟骨形成に続いて、良質な骨を作ることを明らかにしました。この成果により、BMP2を用いた骨再生の安全性・効果が高まり、難治性骨折手術、脊椎固定手術などを受けた患者さんの早期回復に貢献することが期待されます。 

本成果は、2024年11月5日(火)に科学誌「Bioactive Materials」(オンライン)に掲載されました。

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図1. CSとNCの骨形成様式の模式図。CSではBMP2が早期に放出され、炎症反応を強く引き起こす。NCでは炎症反応がほとんど生じず、内部まで良質な骨形成が得られる。

研究の背景

BMP2は強力な骨形成作用を持つタンパク質で、欧米では難治性骨折や脊椎手術、巨大骨欠損の治療に使用されています。しかし、炎症反応などの潜在的な副作用リスクもあり、日本では使用が承認されていません。現在欧米では、コラーゲンが骨の主要な構成成分であることや、生体適合性の高さから、主にコラーゲンスポンジ(CS)にBMP2を含ませたものが使用されます。しかし、移植後早期にCSからBMP2が周囲に放出されることによる強い炎症反応や、意図しない場所での骨形成が起こることがあり、患者さんに不利益を与えてしまうケースが報告されています。

研究の内容

今回、研究グループは、CSの代わりにNCとBMP2を組み合わせることで、BMP2を周囲にほとんど放出することなく、BMP2に伴う炎症反応を抑え、意図した所にだけ良質な骨形成を行うことができる新世代の骨形成マテリアルとしてナノクレイゲルの効果を実証しました。

研究グループはまず、NCとBMP2を混合したものをマウスの筋膜下に移植することで、炎症反応の抑制効果と骨形成の促進作用を検証しました。CSを使用した場合、通常、BMP2の投与量に伴いCSの外側に炎症細胞が集積し「厚い炎症反応層」が形成されます。一方、NCを使用した場合、炎症性細胞はほとんど集積せず、NC内部への軽度の集積にとどまりました(図2)。また、驚くべきことに、BMP2の投与量を増やしても周囲への炎症の波及は生じませんでした。

また、CSを用いるとCSの外側に意図しない骨(異所性骨化)が作られる一方、できた骨の内部は脂肪組織で満たされた「スカスカの骨」になりました。しかしNCでは、内部に均一な多くの軟骨が形成(図3)された後に、軟骨が骨に置き換わることで、内部まで骨がしっかりと詰まった「密で丈夫な骨」が、意図した場所にだけできることがわかりました。

加えて、ヒトの脊椎手術を模倣したモデルであるラットの脊椎固定術においても、NCを使用することで、密で丈夫な骨による骨癒合(隣接する背骨が骨でくっつくこと)が得られることが確認されました(図4)。

さらに、細胞を用いた実験ではNC自体にも細胞が軟骨や骨に変わり易くする作用(分化促進)があり、骨吸収をおこなう破骨細胞のはたらきを抑えることが明らかとなりました。

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図2. マウス筋膜下移植モデルの炎症反応層の比較。CSでは周囲に厚い炎症細胞層(黄点線で挟まれた層)が形成される。NCではほとんど形成されない。

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図3. マウス筋膜下移植モデルの骨形成過程の比較。CSでは内部に脂肪組織(白色)が多く、NCでは内部に均一で多量の軟骨組織(朱色)の形成が促進される。

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図4. ラット脊椎固定術モデルのCT画像。CSでは内部は骨組織で満たされないが、NCでは内部まで密で丈夫な骨が作られる。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本研究により、BMP2の長所を活かし弱点を克服することに成功し、実臨床でBMP2をより安全で効果的に使用できるようになる可能性が示されました。高齢化に伴い増加する骨粗鬆症を伴う骨折や加齢に伴う脊椎の変形など、骨を癒合させる治療の需要が高まっています。従来の方法では骨癒合の獲得が困難で長期間の治療を要していた症例に対して、NCとBMP2の組み合わせは、安全に骨癒合を獲得できる次世代の骨再生治療として期待されます。

特記事項

本研究成果は、2024年11月5日(火)に科学誌「Bioactive Materials」(オンライン)に掲載されました。

タイトル:“Nanoclay gels attenuate BMP2-associated inflammation and promote chondrogenesis to enhance BMP2-spinal fusion”
著者名:Takuya Furuichi1, Hiromasa Hirai1, Takayuki Kitahara1, Masayuki Bun1, Masato Ikuta1, Yuichiro Ukon1, Masayuki Furuya1, Richard O.C. Oreffo2, Agnieszka A. Janeczek3, Jonathan I. Dawson2, Seiji Okada1, Takashi Kaito*1(*責任著者)
所属:
1. 大阪大学 大学院医学系研究科 器官制御外科学(整形外科学)
2. Bone & Joint Research Group, Centre for Human Development, Stem Cells & Regeneration, Institute of Developmental Sciences, University of Southampton
3. Renovos Biologics Limited
DOI:https://doi.org/10.1016/j.bioactmat.2024.10.027

本研究は、日本学術振興会科学研究費助成事業(20K09479)、バイオサイエンスパートナーズ株式会社の支援を受けて行われました。

参考URL

医学系研究科 整形外科Hp
http://www.osaka-orthopaedics.jp/

用語説明

BMP2

BMP2(Bone Morphogenetic Protein-2)は、骨や軟骨の形成を促進する重要な成長因子である。骨芽細胞の分化を誘導し、骨折の治癒や骨再生に関与するほか、軟骨や結合組織の発達にも影響を与え、骨折治療や脊椎固定術などの再生医療に応用されている。

ナノクレイ

ナノサイズの層状ケイ酸塩粘土で、直径約25nm、厚さ約1nm の円盤状の粒子。水に溶解すると、高い粘度を持つ透明なゲルとなる。化粧品や医薬品、バイオメディカル分野などで使用される。表面の電荷の偏りと大きな表面積により、薬剤や成長因子の担体(ドラッグデリバリーシステム)として注目されている。