雲内粒子塊の高速高密度観測により地上降雨量の定量的な予測に成功

雲内粒子塊の高速高密度観測により地上降雨量の定量的な予測に成功

2024-10-11
工学研究科教授牛尾知雄

研究成果のポイント

  • 高速高密度3次元観測が可能な気象用二重偏波フェーズドアレイレーダにより地上降雨量の定量的な予測が可能なことを示した
  • 地上からのレーダ観測によって、強い上昇気流によって持ち上げられる雲内粒子の塊を可視化した
  • 外気温が0度以下の高高度のデータを利用して、地上降雨量との関連性を調査した
  • 高高度の雲内粒子の塊が、地上降雨量と高い関連性があることを示唆した

概要

電気通信大学宇宙・電磁環境研究センターの菊池博史准教授、情報・ネットワーク工学専攻/宇宙・電磁環境研究センターの芳原容英教授と、大阪大学工学研究科電気電子情報通信工学専攻の牛尾知雄教授を中心とする共同研究グループは、関東を観測している気象用二重偏波フェーズドアレイレーダによる降雨観測によって、外気温が0度以下になる高高度の雲内粒子の塊の観測と地上降雨量との関連性を明らかにすることに成功しました。高速かつ上空の高密度観測が可能な気象用二重偏波フェーズドアレイレーダを用いた観測結果を解析することによって、日本の夏季の非常に発達した積乱雲が作り出す高高度の粒子の塊が地上降雨量と関連があり、地上に豪雨が降り注ぐ数分前に検知できる可能性について示しました。今後は、予測が難しい短時間豪雨を時空間的に、より詳細に予測できることが可能になることが期待されます。

この研究成果は、米国時間(東部標準時)2024年7月25日に、学術論文誌「IEEE Access」に掲載されました。

研究の背景

夏季の積乱雲は非常に発達した場合、高度15km程度まで発達します。気象レーダは雲の内部を常時観測することができる唯一の方法であり、これまで気象予報等に多大な貢献をしています。一方で、上述のような非常に発達した夏季の積乱雲は数分で高度が上昇するため、現在の気象レーダネットワークでは、観測することが困難でした。そこで、気象用二重偏波フェーズドアレイレーダが新たに開発され、非常に高頻度に上空の雲の状況が観測できるようになってきました。しかし、高高度(本研究では環境温度が0度以下の高度)のレーダデータが実際に地上に降り注ぐ降雨予測等にどの程度、貢献できるのか定量的に評価した例はありませんでした。

研究の手法

本研究では、30秒ごとの全天観測が可能な気象用二重偏波フェーズドアレイレーダ(MP-PAWR:マルチパラメータフェーズドアレイレーダ)のデータを用いて、日本の夏季に発生した積乱雲の解析を行いました

研究の成果

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図1. 気象用二重偏波フェーズドアレイレーダによって3次元観測された夏季積乱雲
(a)レーダ反射因子,(b)反射因子差,(c)比偏波間位相差

図1は2020年8月22日に観測された積乱雲です。積乱雲は高度12km程度まで発達し、雲内内部に強い降水コアが存在するのがわかります。また、強い降水コアに着目すると、高高度(黒点線の上部)の一部で上空に伸びるように発達しています。これは強い上昇気流によって、雲内粒子(大きな雨粒や雹や霰など)が塊になって持ち上げられていることを意味します。

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図2. 上空の気象レーダパラメータと地上降雨の時間変化(体積)
(a)地上付近のレーダ反射因子,(b) 上空のレーダ反射因子
(c) 上空の反射因子差,(d) 上空の比偏波間位相差

図2は上空の気象レーダパラメータと地上降雨の体積の時間変化を示しています。各々(a)、(b)、(c)及び(d)は地上降雨量、上空のレーダ反射因子、反射因子差、比偏波間位相差の時間変化を示しています。上空の気象レーダパラメータは地上降雨に先駆けて増減を繰り返していることがわかります。その他、関東上空で発生した2つの積乱雲を解析したところ同様の傾向があることがわかりました。つまり、通常は雨滴以外の粒子(霰、雹、雪や氷晶)が多数を占める外気温が0度以下になる高度5,000m以上のレーダデータを用いて、地上降雨量を数分から数十分予測できる可能性を示しています。これは、積乱雲内の大量の粒子が高高度まで一度持ち上げられ、その後落下することを示しており、高高度に達する大量の粒子の体積は地上に降り注ぐ降雨量と強い相関があることを示しています。

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図3. MP-PAWRでとらえられた降水コアが地上に落下する様子

図3にMP-PAWRが30秒ごとにとらえた降水コアの様子を示します。すべての気象レーダパラメータで、地上に降水コアが到達する約5分から10分程度前に上空で降水コアが捉えられていることがわかります。積乱雲は上昇気流によって降水コアが持ち上げられたのち、下降気流に沿って下降し豪雨をもたらします。その様子が、非常に明確に捉えられています。より詳細な評価を行ったところ、3つの積乱雲すべてで、降水コアが地上に達する5分から11分前に上空での降水コアを検知していました。さらに地上降雨量を正確に予測できる可能性を示しました。

今後の期待

今後、MP-PAWRで観測される詳細な積乱雲の3次元構造から、豪雨が降り注ぐ場所や降雨量をより正確に予測できる技術の開発が期待されます。このような短時間豪雨は現在の気象モデルを用いた方法では予測が難しいとされているため、高速高密度な観測データを有効に利用した予測手法を開発する必要があります。

特記事項

【論文情報】
論文雑誌名:IEEE ACCESS
タイトル:Time altitude variation of 30-second-update full volume scan data for summer convective storms observed with X-band dual polarized phased array weather radar
著者:Hiroshi Kikuchi, Yasuhide Hobara, and Tomoo Ushio
DOI:https://ieeexplore.ieee.org/document/10609378

本研究は、日本学術振興会科学研究費補助金(22K04121)の補助により行われました。

用語説明

MP-PAWR

さいたまMP-PAWRは、内閣府のSIP「レジリエントな防災・減災機能の強化(2014年~2018年)」の施策で開発され、国立研究開発法人情報通信研究機構・国立大学法人埼玉大学・国立研究開発法人防災科学技術研究所・日本気象協会の4者協定に基づいて国立研究開発法人情報通信研究機構によって運用されています。