レーザーが咲かせる氷の花

レーザーが咲かせる氷の花

氷の結晶を狙った時間・場所に発生させるための新技術

2023-5-11工学系
工学研究科教授吉川洋史

研究成果のポイント

  • レーザー照射により、狙った時間・場所に様々な形状の氷結晶を発生させる新技術を開拓(図1)。
  • 氷の結晶は水を冷却することで形成するが、通常はランダムな時間・場所に発生するため、氷の結晶が発生する瞬間を正確に捉えることは困難であった。
  • 本レーザー技術を用いることで、氷の結晶が関与する様々な自然現象・生命現象のメカニズム解明や関連工業分野の発展が期待できる。

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図1. レーザー照射により氷の結晶が発生する様子。
黄色矢印の位置に0 msのタイミングで集光照射した。スケールバー:上段5 mm、下段200 μm。

概要

大阪大学大学院工学研究科の吉川洋史教授、大学院生の高橋秀実さん(博士後期課程:日本学術振興会特別研究員DC1)、奈良先端科学技術大学院大学 先端科学技術研究科の細川陽一郎教授らの研究グループは、レーザー技術を駆使することで、様々な形状の氷結晶の発生を精密に時空間制御できることを明らかにしました。

氷の結晶化は、我々が日常的に目にする自然現象であり、そのメカニズムを解明することは様々な科学・工業分野における重要課題です。しかし、通常の結晶化現象はランダムに起こるため、氷の結晶が発生する時間や場所を予測して精密計測することは原理的に困難であり、氷結晶化のメカニズム解明における大きな壁となっていました。

研究グループは、氷点下の水(過冷却水)の微小空間を極短時間だけレーザーにより刺激することで、氷の結晶が発生する時間・場所を精密に制御できることを見出しました。さらに本手法を駆使することで、様々な形の氷結晶が発生する瞬間を、マイクロ秒・マイクロメートルオーダーの高い時空間分解能で捉えることに成功しました。これにより、氷結晶化の詳細なメカニズムに迫ることが可能になり、氷が関与する様々な自然科学分野(例:気象学、地球・惑星科学、低温生物学)や工業分野(例:食品・細胞・臓器の冷凍保存)の発展への貢献が期待されます。

本研究成果は、米国化学会の速報誌「The Journal of Physical Chemistry Letters」に、5月8日(月)21時(日本時間)に公開されました。なお本論文は同誌のSupplementary Cover Artにも選ばれています(下図)。

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本論文のSupplementary Cover Art
レーザー照射で氷の結晶が発生しているイメージ

研究の背景

水を冷却して氷が形成する現象(氷の結晶化)は、様々な基礎科学・工業分野における重要な研究対象です。例えば、樹枝状や針状など、雪の結晶に代表される氷の多様な形状は、古くから多くの研究者を魅了しており、温度や圧力など様々なパラメータに対する依存性や、気象・気候状況との相関が調べられてきました。また、寒冷地における動物・植物は、凍ることを防ぐ特殊な物質(例:不凍タンパク質)を含んでいるケースが多々あり、氷の結晶化が生命維持メカニズムに深く関与しています。また氷の結晶化を制御することは、食品・細胞・臓器などの生ものを長期冷凍保存する上でも必要不可欠です。しかし、単に水を冷却するだけでは、氷の結晶化が起こる時間や場所を正確に予測することは不可能であり、さらに氷のような一成分系の結晶化(融液系の結晶化)は高速に進行するため、特に大容量(バルク)の水の中で氷の結晶が発生する瞬間を精密に計測することは困難でした。

研究の内容

本研究グループでは、氷点下の水(過冷却水)中に、超短パルスレーザーを集光照射して刺激することで、集光領域の近傍から氷の結晶化が始まることを見出しました(図1)。このようなレーザーを用いた氷結晶化の時空間制御は、純水だけでなく、寒冷地の植物からの抽出液や、不凍タンパク質を添加した水溶液など、様々な溶液条件で実現可能であり、溶液条件に応じた様々な形状の氷結晶が発生することがわかりました(例:図2, 第3回JSAPフォトコンテスト優秀賞, 河野, 細川 応用物理 2015年84巻2号p.101)。また興味深いことに、最適条件ではわずか1発のレーザー照射のみで氷の結晶を発生させることが可能であり、これによりマイクロ秒・マイクロメートルオーダーという極めて高い時間空間分解能で氷の結晶化挙動を光学顕微計測することに成功しました(図3)。

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図2. レーザーで発生させた様々な形状の氷結晶
第3回JSAPフォトコンテスト優秀賞

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図3. レーザーで発生した氷結晶サイズの時間変化

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本研究成果により、様々な溶液条件における氷結晶の形成過程を精密に調べることが可能になり、氷結晶化の詳細なメカニズムの解明に貢献できると考えられます。さらに得られる氷の結晶化メカニズムは、氷が関与する様々な自然科学分野(例:気象学、地球・惑星科学、低温生物学など)や工業分野(例:食品・細胞・臓器の冷凍保存など)の発展に繋がることが期待できます。またこれまで同研究グループは、同様のレーザー結晶化手法を用いて、医薬品化合物、タンパク質、エレクトロニクス材料などを対象に、従来法では難しい構造・形状・サイズ・品質の結晶を得ることに成功してきました(例:Nature Photonics, 10 (2016) 723-726, Chemical Society Reviews, 43 (2014) 2147-2158.など)。本研究はレーザーによる結晶化制御の高い汎用性と有用性を示すものでもあり、網羅的な条件探索のみに縛られない、レーザーを用いた論理的なモノづくりのアプローチとして今後さらに発展していくことが期待されます。

特記事項

本研究成果は、2023年5月8日(月)21時(日本時間)に米国化学会の速報誌「The Journal of Physical Chemistry Letters」(オンライン)に掲載されました。

タイトル:“Spatiotemporal Control of Ice Crystallization in Supercooled Water via an Ultrashort Laser Impulse”
著者名:Hozumi Takahashi, Tatsuya Kono, Kosuke Sawada, Satoru Kumano, Yuka Tsuri, Mihoko Maruyama, Masashi Yoshimura, Daisuke Takahashi, Yukio Kawamura, Matsuo Uemura, Seiichiro Nakabayashi, Yusuke Mori, Yoichiroh Hosokawa(*責任著者), and Hiroshi Y. Yoshikawa(*責任著者)
DOI:https://doi.org/10.1021/acs.jpclett.3c00414

なお、本研究は、JSPS・科研費(22H00302, 22H05423, 20K21117, 22120010, JP18H05493, 22120003, 22J21666)、 JST・SPRING (No. JPMJSP2138)、武田科学振興財団、上原記念生命科学財団、内藤記念科学振興財団、天田財団、大阪大学レーザー科学研究所の共同利用・共同研究の支援のもとに実施されました。また、植物抽出液を用いた実験は、岩手大学の高橋大輔研究員(現埼玉大学)、河村幸男准教授、上村松生教授らの協力を得て行われました。

参考URL

用語説明

超短パルスレーザー

フェムト秒~ピコ秒程度の極めて短い時間でパルス発振するレーザー光源。本レーザーをレンズを用いて集光照射することで、光エネルギーを時間的・空間的に凝縮することが可能になり、3次元空間の微小領域に極短時間の刺激を与えることができる。また一般的に、レーザーのパルス時間幅が短いほど照射領域での温度上昇が抑えられることが知られている。

レーザー結晶化手法

レーザーを外部刺激として用いて結晶化を制御する手法全般のこと。これまで同研究グループは、超短パルスレーザーの集光照射を外部刺激として用いて、液体から固体の結晶核が発生する現象(核発生現象)や、結晶が溶質を取り込みながら成長する現象(結晶成長現象)を制御できることを示してきた。特に有機・生体物質は、それを構成する分子間の相互作用が弱いため、温度や濃度などを制御する通常法のみでは所望の結晶を得ることが難しいことが多々あり、本手法の活用が期待されている。