子どものかわいさは見た目だけではない

子どものかわいさは見た目だけではない

子どもの性格に関する情報に影響されることを実証

2023-1-30社会科学系
人間科学研究科教授入戸野 宏

研究成果のポイント

  • 外見以外の特性(性格に関する情報)が、子どものかわいさや印象(心のあたたかさ、かしこさ)、その子どもを養護したいという気持ちに影響することを実証した。
  • 好ましい性格であると知らされると、かわいさが上がり、養護したい気持ちが高まった。
  • まったく同じ子でも、好ましくない性格であると知らされると、かわいさが下がり、養護したい気持ちが低下した。その悪影響は1週間後にも持続した。
  • 見た目だけではなく、性格についての情報も、子どもをかわいいと思う気持ちに影響する。

概要

京都大学教育学研究科 高松 礼奈 助教、楠見 孝 教授、大阪大学大学院人間科学研究科 入戸野(にっとの) 宏教授らの研究チームは、子どもの性格についての情報は、子どもに対するかわいさや印象の評価、養護したい気持ちに影響することを明らかにしました。

これまで海外の研究では、子どものかわいさ(cuteness)は見た目次第であると考えられてきました。しかし、これは私たちが子どもに抱く「かわいい」という感情とは一致していません。かわいさの認知に影響する見た目以外の要因についての検討は十分に行われていませんでした。

研究チームは、2つの実験を通じて、見た目が同じ子どもであっても、その子の行動や性格についての情報が与えられると、感じられるかわいさが変化し、養護しようとする気持ちにも影響することを実証しました。この結果は、見た目に関係なく、子どもの良い面を知ることが、子どもをかわいいと感じることにつながり、さらには養護したい気持ちを高めることを示唆しています。

本研究成果は、オンライン科学誌「PLOS ONE」に、1月18日に掲載されました。

20230130_2_1.png

図1.子どもの良い面を知ることで見た目に関係なくよりかわいいと感じられ養護したい気持ちが高まる。

研究の背景

赤ちゃんや子どもの幼い外見は、周囲の人にかわいいという感情を抱かせ、やさしくしたい・守りたいという気持ち(養護動機づけ)を高めると考えられてきました。これをベビースキーマ(赤ちゃん図式)効果といいます。しかし、そのベビースキーマ効果が最も強いはずの乳幼児が虐待されるケースは後を絶ちません。かわいいはずの子どもたちが、なぜ養護の対象外となるのか。この謎を解明するために、ベビースキーマ効果では考慮されていない外見以外の要因(ここでは性格に関する情報)がかわいさの認知や養護したい気持ちに影響するかどうかについて、2つの実験を行いました。

研究の内容

同じ子どもの写真に対して、異なる性格を表す行動の記述を提示することによって、かわいさや印象、養護動機づけが変化するかどうかを検証しました。実験1は、20〜40代の女性72名を対象にオンラインで行いました。図2に示すように、まず子どもの顔写真を提示し、かわいさと印象(心のあたたかさ、かしこさ)について評価してもらいました。そのあと、子どもの顔と性格情報(ポジティブ・ネガティブ・情報なし)を対にして提示しました。最後に、再びかわいさと印象について評価してもらい、養護したい気持ちの程度を尋ねました。

20230130_2_2.png

図2.実験手続き(ポジティブな性格情報を付与した条件の例)

実験の結果、かわいさと印象の評価は、外見は同じであっても好ましい(ポジティブな)性格を持った子どもに対して高くなり、好ましくない性格を持った子どもに対して低くなることが分かりました(図3)。さらに、好ましくない(ネガティブな)性格情報が与えられると、かわいさが低下し、その結果として、養護したい気持ちも低下することが示されました(図4)。

20230130_2_3.png

図3.性格情報を与えることで 子どもの顔のかわいさの評価が変わる(実験1)

20230130_2_4.png

図4.ネガティブな性格情報が与えられると子どものかわいさが低下し それによって養護したい気持ちが下がる(実験1)

実験2は、20〜40代の女性86名を対象にオンラインで行いました。性格情報の影響が、子どもの元の見た目のかわいさによって変わるかを調べるために、3群(低・中・高)を設けました。さらに、性格情報の影響が持続するかを調べるために、1週間後にも同じ項目について評価してもらいました。その結果、好ましい性格だと知らされると、もともとかわいさが高かった群を除いて、かわいさ、心のあたたかさ、かしこさが高く評価されました。反対に、好ましくない性格だと知らされると、これらの評価が下がりました。さらに、好ましくない性格情報を与えられた子どもは、元の見た目のかわいさとは関係なく、1週間後にもかわいさの評定が低いままでした(図5)。

20230130_2_5.png

図5.元のかわいさの程度によらず 性格情報によって かわいさの評価が変わる。ネガティブな性格情報の影響は1週間後も続く(実験2)。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本研究成果は、これまで見た目が重要であると考えられてきた子どものかわいさの認知について、外見以外の要因も関わること、特にネガティブな性格情報が与えられると悪い影響が持続することを示しています。見た目に関係なく、子どもの良い面を知ることは、よりかわいいと感じられることに寄与し、養護したい気持ちを高めることにつながると考えられます。

特記事項

本研究成果は、2023年1月18日(水)にオンライン科学誌「PLOS ONE」に掲載されました。

タイトル:“Personality descriptions influence perceived cuteness of children and nurturing motivation toward them(パーソナリティの記述は子どもの知覚されるかわいさと子どもに対する養護動機づけに影響する)”

著者名:Takamatsu, R., Kusumi, T., and Nittono, H. (高松 礼奈・楠見 孝・入戸野 宏)

DOI:https://doi.org/10.1371/journal.pone.0279985

本研究は、JSPS科研費 21K13669, 21H04897の助成を受けたものです。

参考URL

入戸野 宏 教授 研究者総覧
https://rd.iai.osaka-u.ac.jp/ja/a5bee7005ec582b7.html
研究室URL
https://cplnet.jp