300℃超の高温に耐えうる抵抗変化型メモリ素子を アモルファス酸化ガリウムで実現!

300℃超の高温に耐えうる抵抗変化型メモリ素子を アモルファス酸化ガリウムで実現!

極限環境下での利用に期待

2023-1-30工学系
基礎工学研究科教授酒井 朗

研究成果のポイント

  • 抵抗変化型メモリ素子であるメモリスタを、300℃を超える高温下で動作させることに世界で初めて成功
  • アモルファス酸化ガリウムを利用することで、安定性よく確実に抵抗が変化するメモリスタを実現
  • 高温動作の集積回路を構成するメモリ素子や航空宇宙・耐放射線などの極限環境下にある人工知能に用いる脳型コンピュータ素子への応用に期待

概要

大阪大学大学院基礎工学研究科の佐藤健人さん(当時博士前期課程)、林侑介助教、正岡直樹さん(博士前期課程)、藤平哲也准教授、酒井朗教授の研究グループは、抵抗変化型メモリ素子であるメモリスタを高温で動作させることに世界で初めて成功しました。近年、高温動作が可能な集積回路の研究開発が進められているなかで、不揮発メモリは不可欠です。また、人工知能(AI)に使われる脳型コンピュータ素子を構成するシリコントランジスタの動作温度は200℃以下であり、より高温で動作する素子の開発が期待されていました。今回、ワイドギャップ半導体である酸化ガリウムから還元性アモルファス酸化ガリウム薄膜を生成してメモリスタを作製し、300℃以上の高温下でも安定したメモリ性能が得られることを実証しました。このような、高温動作が可能で環境耐性の高いメモリ素子は、航空宇宙や耐放射線などの極限環境下で利用することができます。

本研究成果は、英国科学誌「Scientific Reports」(オンライン)に、2023年1月30日(月)午後7時(日本時間)に公開されました。

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図1. 還元性アモルファス酸化ガリウムの電流-電圧特性 600Kの高温下でも1→4に従う逆8の字型ヒステリシスをもつ非フィラメント型の抵抗変化が観測できる

研究の背景

今日の情報社会を担うコンピュータの多くは、シリコントランジスタからなるロジック素子やメモリ素子の集積回路で構成されています。また、自動運転や画像認識などのアプリケーションを通じて浸透してきたAIのハードウェアでも、内部の脳型コンピュータ素子はシリコントランジスタで構成されています。これらは我々の生活を便利で豊かにしてくれますが、その動作温度は、シリコン半導体の物性値(主にバンドギャップ)から、200℃以下に限られるのが現状です。近年、高温下や航空宇宙・耐放射線などの極限環境下で動作する電子デバイスや回路を必要とするアプリケーションが増えています。このような事情から、シリコントランジスタに替わる新たなメモリ素子や脳型コンピュータ素子の開発が進められており、その一つが抵抗変化型メモリ素子「メモリスタ」です。特に、金属酸化物を利用したメモリスタでは数多くの研究がなされてきましたが、熱耐性を有するメモリスタは未達成で、その実現が期待されていました。

研究の内容

金属酸化物からなるメモリスタは、材料内部に存在する酸素空孔イオンによって導電性を示します。また、酸素空孔イオンは電圧印加によって移動するため、不揮発な抵抗変化を発現します。これまでメモリスタに利用されてきた酸化チタンや酸化タンタル、酸化ハフニウムといった材料では、電圧印加によって導電性を示す部分がフィラメント状に繋がることで抵抗が変化します。この「フィラメント型」メモリスタは高い抵抗比を実現できる一方で、フィラメントの形成位置やサイズなどが制御できないため、性能のばらつきや長期的な信頼性に改善の余地が残されています。

これに対して本研究では、「非フィラメント型」、つまりフィラメントを形成させずに酸素空孔イオンの分布を制御することで抵抗変化を引き起こす材料に着目しました。今回、ワイドギャップ半導体としても知られている酸化ガリウムを、パルスレーザー蒸着法を用いて数十nm厚の還元性アモルファス薄膜に生成し、白金上部電極と酸化インジウムスズ下部電極で挟んだキャパシタ型メモリスタを作製しました。この還元性アモルファス酸化ガリウム(a-GaOx)メモリスタの電流-電圧特性を計測したところ、上部電極への正/負電圧の印加に応じて出力電流が変化する「逆8の字形ヒステリシス特性」が得られ、メモリ機能を有することがわかりました(図1)。これは、電子を供給して正に帯電した酸素空孔イオンが負電圧印加で上部電極側へ引き寄せられたときに低抵抗状態に、正電圧印加で同電極側から引き離されたときに高抵抗状態になる特性です(図1挿絵参照)。また、それらの状態は滑らかに遷移しており、このメモリスタが酸素空孔イオンの分布状態が変化する「非フィラメント型」であることを示しています。さらに、温度を上昇させて計測したところ、600K(327℃)の高温下でも非フィラメント型の特性が現れ、そのメモリ機能は長時間安定して保持されていました。

これらの結果から、a-GaOxメモリスタが他の金属酸化物メモリスタと比較してもトップクラスの優れた熱耐性を備えていることが明らかになりました。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

今回開発したa-GaOxメモリスタは、300℃以上の高温下においても安定した特性変化を示す非フィラメント型の抵抗変化型メモリ素子として機能します。また、ここで用いている酸化ガリウムはアモルファス構造であることから、下地基板を選ばすに素子構造を多層に積層できるため、3次元集積回路化にも適しています。高温下や航空宇宙・耐放射線などの極限環境下において動作させるメモリ集積回路やAIハードウェアに用いる脳型コンピュータ素子への応用が期待されます。

特記事項

本研究成果は、2023年1月30日(月)午後7時(日本時間)に英国科学誌「Scientific Reports」(オンライン)に掲載されました。

タイトル: “High-temperature operation of gallium oxide memristors up to 600 K”
著者名: Kento Sato, Yusuke Hayashi, Naoki Masaoka, Tetsuya Tohei, and Akira Sakai
DOI: https://doi.org/10.1038/s41598-023-28075-4

なお、本研究はJSPS科研費JP19K04468、P20H00248、JP21K18723の助成を受けて行われました。

参考URL

SDGsの目標

  • 07 エネルギーをみんなにそしてクリーンに
  • 09 産業と技術革新の基盤をつくろう
  • 12 つくる責任つかう責任
  • 13 気候変動に具体的な対策を

用語説明

メモリスタ

レジスタ、インダクタ、キャパシタにつぐ、第四の受動素子。素子が可変な抵抗(レジスタ)値を不揮発に記憶(メモリ)していることからこのように呼ばれる。素子に電圧を印加することによって、その抵抗値が可逆的に変化するので、その機能から抵抗変化型メモリ素子とも解釈できる。

不揮発メモリ

データを記憶させるメモリ素子のうち、外部給電がなくても記憶内容を保持することができるタイプのもの。抵抗変化型メモリは不揮発メモリの一つで、セル面積が小さく高密度化に適している。

脳型コンピュータ素子

脳の神経網構造を模した人工ニューラルネットワークのハードウェアを形作るうえで基幹となる素子。主に神経細胞で生ずる活動電位の発振を司るニューロン素子と神経細胞間の信号伝達を司るシナプス素子に大別される。特にシナプス素子にはメモリ機能が必要とされる。

還元性アモルファス酸化ガリウム薄膜

膜中の酸素が不足した状態で非晶質な(アモルファス)構造を有する酸化ガリウム薄膜。単結晶β酸化ガリウムは4.5~4.9 eVのバンドギャップをもつことからワイドギャップ半導体と呼ばれており、アモルファスで成膜した場合でも最大で4.1 eVのバンドギャップを有することが報告されている。