原子スケールの熱流構造を可視化する解析技術を開発

原子スケールの熱流構造を可視化する解析技術を開発

熱輸送メカニズムのさらなる解明に期待

2022-3-25工学系
工学研究科助教藤原邦夫

研究成果のポイント

  • 従来は原子スケールの熱流を可視化する手段がなく、原子スケールの熱輸送状態を直感的に把握することができなかった。
  • 原子スケールでモデル化された熱流を3次元空間分布として可視化する数値解析技術を開発。
  • 原子スケールの熱流構造に基づく熱輸送メカニズムの解明や熱輸送制御が期待される。

概要

大阪大学 大学院工学研究科の藤原 邦夫 助教(JST さきがけ研究者兼務)、芝原 正彦 教授らの研究グループは、分子動力学法に基づき原子スケールの熱流構造を可視化する数値解析技術を開発しました。

原子スケールにおける熱輸送のメカニズム解明と制御は、新規熱輸送デバイスの創製、エネルギー利用の高効率化のために重要です。ですが従来は、原子スケールにおいて熱流を空間分布として可視化する手段がなく、原子スケールの熱輸送状態を直感的に把握することができませんでした。

本研究グループは、古典分子動力学法に基づき、単原子スケール以下の局所領域で定義される熱輸送量を算出できる数値解析手法を開発し、固体と液体の接する界面において、モデル化された熱流を単原子スケールで可視化することに成功しました。

原子スケールの熱流構造に基づき、熱輸送メカニズムの解明や熱輸送の制御が期待されます。また、半導体製造プロセスのような原子スケールのものづくりに必要な汎用的なシミュレーション技術になると期待されます。

本研究成果は、2022年3月25日(金)午前0時(日本時間)に米国科学誌「Physical Review E」のオンライン版で公開されました。

研究の背景

原子スケールにおける熱輸送のメカニズム解明と制御は、新規熱輸送デバイスの創製や、エネルギーの利用・変換・貯蔵に関する高度化・高効率化を達成し、持続可能な社会を実現するために重要です。特に固体と固体や、固体と液体等の界面は、熱が通過する際に熱抵抗となり、熱の輸送を妨げることから、近年の微細化した電子デバイスの放熱問題に関連して重要な制御対象です。しかし、原子スケールの複雑な熱輸送状態を理解することは一般的に困難であり、また原子スケールにおいて熱流を可視化する手段はこれまでになく、原子スケールの熱輸送状態の直感的な把握を可能とする技術開発が求められていました。

研究の内容

大阪大学 大学院工学研究科の藤原助教、芝原教授らのグループは、分子動力学法に基づき単原子以下のスケールで熱輸送量を特定することに着目しました。そして古典分子動力学法に基づき、単原子スケール以下の局所領域で定義される熱輸送量を算出できる数値解析手法を開発しました(図1)。

従来の研究より、原子スケールの熱輸送現象の解明のために、個々の原子・分子の挙動の効果を考慮可能な分子動力学法に基づく数値解析が非常に有効であることが明らかとなっています。しかし、原子スケールの熱流の空間的な構造はこれまでに分子動力学法を用いても明らかとなっておらず、原子スケールの空間において熱がどこをどの程度流れているのかは定量的に空間分布として特定されていませんでした。開発された解析手法は、原子スケールでモデル化された熱流を3次元空間分布として可視化することが可能です(図2)。本研究では計算モデルとして、Lennard-Jonesポテンシャルで相互作用する原子・分子を用い、熱流の可視化を行いました。その結果、固体と液体の界面において単原子スケールの局所で熱流を算出し、3次元的な空間分布として特定することに成功しました。

解析結果より、原子スケールにおいて温度勾配方向に対して一様でなく指向性を有する熱流の描像を明らかにし、巨視的な熱流と比較して単原子スケールではその数倍の熱流が生じていることが分かりました。また、原子スケールの熱流構造に基づき熱輸送機構を解明する新たな方法論を構築しました。

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図1. 固体-液体界面における2次元熱流構造(z:巨視的な温度勾配方向)
(a、b) 濡れ性が悪い場合。(c、d) 濡れ性が良い場合。JxJzはそれぞれx方向とz方向の熱流束を示している。濡れ性が良い場合に顕著な熱流が観測されていることが分かる。(論文とは異なる計算条件)

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図2. 固液界面内における3次元熱流構造(各z方向高さにおける断面で表示)
(a) 濡れ性が悪い場合。(b) 濡れ性が良い場合。濡れ性が良い場合に指向性を有する顕著な熱流が観測されていることが分かる。(論文とは異なる計算条件)

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

単原子スケールの熱流構造に基づき、原子スケールの熱輸送状態や熱輸送メカニズムのさらなる解明が期待されます。また、原子スケールのものづくりに必須となる、汎用的なシミュレーション技術になると期待されます。

特記事項

本研究成果は、2022年3月25日(金)午前0時(日本時間)に米国科学誌「Physical Review E」(オンライン)に掲載されました。

タイトル:“Thermal Transport Mechanism at Solid˗liquid Interface based on the Heat Flux Detected at a Sub-atomic Spatial Resolution”
著者名:Kunio Fujiwara and Masahiko Shibahara
DOI:https://doi.org/10.1103/PhysRevE.105.034803

なお、本研究は、JST戦略的創造研究推進事業 個人型研究(さきがけ)「単原子スケール非平衡熱輸送場の分子動力学解析」、日本学術振興会(JSPS)科学研究費助成事業の一環として行われました。

参考URL

藤原 邦夫 助教 研究者総覧
https://rd.iai.osaka-u.ac.jp/ja/2bf53f3685402f10.html

SDGsの目標

  • 07 エネルギーをみんなにそしてクリーンに
  • 09 産業と技術革新の基盤をつくろう

用語説明

分子動力学法

原子・分子間力に基づき、個々の原子・分子の挙動を時刻歴で追跡することが可能な数値解析手法。

古典分子動力学法

古典力学のみに基づく分子動力学法。

Lennard-Jonesポテンシャル

原子・分子間力を模擬する相互作用関数の中で、比較的単純なもの。