ナノ粒子の中で内側の金属と外側の金属が入れ替わる様子をリアルタイムに捉えることに成功

ナノ粒子の中で内側の金属と外側の金属が入れ替わる様子をリアルタイムに捉えることに成功

おはぎを作っていたら大福ができた?

2022-3-2工学系
基礎工学研究科准教授中村暢伴

研究成果のポイント

  • 金ナノ粒子の表面をパラジウムでコーティングしようとすると、逆に金でコーティングされたナノ粒子が形成される様子を捉えることに成功
  • 圧電体の共振を利用した独自の計測手法を開発し、リアルタイム計測を実現
  • 高感度水素センサ用材料の開発などにつながる成果であり、カーボンフリーな社会の実現に貢献

概要

大阪大学大学院基礎工学研究科の中村暢伴准教授、大学院生の松浦弘治さん(博士前期課程)、石井明男講師らの研究グループは、金ナノ粒子の表面にパラジウムをコーティングすると、コーティングをしている最中に内部の金と表面のパラジウムが入れ替わり、表面が金でコーティングされたナノ粒子が形成される様子をリアルタイムに捉えることに成功しました。

2種類の金属を混ぜてナノ粒子を作ると、一方の金属で表面がコーティングされたナノ粒子が形成されることがあります。組み合わせる金属によって、どちらの金属が表面をコーティングするかについては、これまでも研究されてきましたが、同じ金属の組み合わせであっても作製方法によって表面をコーティングする金属が異なることがあり、どちらの金属が表面をコーティングするかについては十分に理解されていませんでした。

今回、中村准教授らの研究グループは、ナノ粒子が形成される様子をリアルタイムに観察する手法を開発しました。この手法を用いて2種類の金属からなるナノ粒子の形成過程を観察したところ、金とパラジウムで構成させるナノ粒子では、最初に金ナノ粒子を作製して表面をパラジウムでコーティングしようとすると、コーティングしている最中に金が表面に拡散してナノ粒子の表面をコーティングする様子を捉えることに成功しました(図1)。これは、おもちをあんこでくるんでおはぎを作っていたのに、出来上がったものはあんこをおもちでくるんだ大福だったようなものです。ナノ粒子の中の金属と外の金属が入れ替わることはこれまでにも報告されていましたが、本研究で初めてリアルタイムに検出することに成功しました。この研究成果は触媒や水素センサなどの開発への貢献が期待されます。

本研究成果は、Physical Review Bにおいて、3月2日(水)午前1時(日本時間)に公開されました。

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図1. ナノ粒子をコーティングしようとすると、内側と外側の原子が入れ変わることがある。

研究の内容

2種類の金属を使ってナノ粒子を作製すると、両者が混ざった構造や、一方の金属が内部に集まり他方の金属が表面をコーティングする構造などになることが知られています。これらの構造は、金属の組み合わせによって異なるだけでなく、ナノ粒子の作製方法によっても異なります。ナノ粒子は触媒や水素ガスセンサの材料として使われますが、それらの性質は表面をコーティングする金属によって変化します。したがって、所望の性質をもったナノ粒子を作製するには、表面をコーティングする金属を選択する技術が必要になります。しかしながら、そもそもどのような過程を経てナノ粒子が形成されるかをリアルタイムに観察することは困難でした。

この問題を解決するために、本研究ではナノ粒子の形成過程をリアルタイムに観察する手法を開発しました。これは、圧電体の共鳴振動を利用するこれまでにない手法です。また、分子動力学法による原子スケールでのシミュレーションも行いました。これらの手法を用いて、金属原子を基板上に堆積させてナノ粒子を作製する際に、2種類の金属がどのようにナノ粒子を形成するかを調べました。具体的には、図2に示すようにある金属原子(金属A)を平板(基板)の上に堆積させてナノ粒子を作製した後に、その上に別の金属原子(金属B)を堆積させて層状のナノ粒子を作製しました。すると、パラジウムと銀を組み合わせたナノ粒子では、先に堆積させた金属Aがナノ粒子の内部に存在し、後に堆積させた金属Bが表面をコーティングしたナノ粒子が形成されました。ところが、最初に金を堆積させ、その上にパラジウムを堆積させると、金がナノ粒子表面をコーティングするように拡散することが分かりました。図3には分子動力学シミュレーションで得られた金・パラジウムナノ粒子の内部組織を示しています。このように、本研究ではナノ粒子の作製過程で内部と外側の金属が入れ替わる様子を検出することに初めて成功しました。この現象は、金が他の金属に比べてナノ粒子内部や表面を拡散しやすいことが原因だと考えられます。

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図2. Auナノ粒子をPdでコーティングしようとすると、AuとPdが入れ替わる

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図3. シミュレーションで得られたナノ粒子の内部組織

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

金属ナノ粒子は触媒や水素ガスセンサの基盤材料として使われていますが、表面をコーティングする金属が変わると、その性質も変化します。そのため、ナノ粒子の表面がどのような構造になっているかを理解することは重要な研究課題です。本研究で開発した手法を用いると、金属ナノ粒子が形成されるプロセスをリアルタイムに観察することが可能になり、任意の表面構造を有したナノ粒子の作製も可能になると考えられます。本研究の成果は、優れた性質をもったナノ粒子の開発に貢献し、カーボンニュートラルな社会の実現に貢献すると期待されます。

特記事項

本研究成果は、2022年3月2日(水)午前1時(日本時間)にPhysical Review Bに掲載されました。

タイトル:“Restructuring in bimetallic core-shell nanoparticles: Real-time observation”
著者名:N. Nakamura, K. Matsuura, A. Ishii, and H. Ogi

なお、本研究は科学研究費助成事業(18H01883、20K21145)の支援を受けて行われました。

参考URL

中村暢伴 准教授 研究者総覧
https://rd.iai.osaka-u.ac.jp/ja/c8e7ef1788069a17.html

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