治療抵抗性急性骨髄性白血病に対する 臍帯血移植の有用性を評価
HLA一致血縁者からの移植と比べて予後が良好に
研究成果のポイント
- 治療抵抗性急性骨髄性白血病に対する臍帯血移植の有用性を、日本全国の移植施設が構築する造血細胞移植に関する情報を集積したデータを用いて評価。
- 標準的とされる白血球の型であるヒト白血球型抗原(HLA)一致血縁者からの同種造血幹細胞移植と比べて臍帯血移植の予後が良好であることを示した。
- 非寛解期急性骨髄性白血病への同種造血幹細胞移植後の予後の向上のためのエビデンスとして国内外のガイドラインの改訂にも影響を与えると期待される。
概要
大阪大学大学院医学系研究科の大学院生の下村良充さん(博士後期課程)、祖父江友孝教授(環境医学)、愛知がんセンター、JSHCT急性骨髄性白血病ワーキンググループ柳田正光医長らの研究グループは、非寛解期急性骨髄性白血病の標準的なドナーとされているHLA一致血縁者間移植と臍帯血移植を比較し、臍帯血移植が予後の向上と関連することを明らかにしました。
難治性・再発性急性骨髄性白血病(R/R AML)は予後が悪く、同種造血幹細胞移植が唯一の根治治療の選択肢です。しかし、完全寛解状態ではない非寛解期に同種造血幹細胞移植を受けた場合には、再発のリスクが高いことが知られています。
これまで、様々な疾患、状態における同種造血幹細胞移植における適切なドナーソースの報告はあるものの、非寛解期急性骨髄性白血病に限った研究は限られていました。そのため、非寛解期急性骨髄性白血病に対しては、一般的に標準とされているHLA 一致血縁者からの同種造血幹細胞移植が標準的とされていました。
本研究では、一般社団法人日本造血細胞移植データセンター(JDCHCT)/日本造血・免疫細胞療法学会(JSHCT)が運営し、日本全国の移植施設が構築する移植登録一元管理プログラム(TRUMP2)のデータを用いて、非寛解期急性骨髄性白血病患者においてHLA一致血縁者からの移植と臍帯血移植それぞれの同種造血幹細胞移植後の無増悪生存期間を比較しました(図1)。その結果、臍帯血移植が無増悪生存期間の向上と関連することを明らかにしました。これにより、より適切なドナーの選択が可能になることが期待されます。
本研究成果は、米国科学誌「Leukemia」に、11月24日(水)に公開されました。
図1. 造血幹細胞移植後の無増悪生存期間
臍帯血移植群(赤)の方が、HLA一致血縁者間移植群(黒)よりも有意に無増悪生存期間が長い
研究の背景
難治性・再発性急性骨髄性白血病(R/R AML)の予後は悪く、5年間の全生存率は10%以下とされています。これらの患者さんにとって、同種造血幹細胞移植は唯一の根治治療の選択肢です。しかし、同種造血幹細胞移植を受ける予定のR/R AML患者のうち、理想的な病状、すなわち完全寛解状態で同種造血幹細胞移植を受けることができる患者は約25%に過ぎません。 一方、完全寛解状態ではないのに同種造血幹細胞移植を受けた残りの患者(非寛解期)は、再発リスクが高いことが分かっています。これらの患者では、造血幹細胞移植のアプローチは、腫瘍根絶のために移植片対白血病効果にほとんど依存していると考えられています。このような疾患群に対する研究は限られており、他の疾患、状態で標準とされているHLA一致血縁者からの同種造血幹細胞移植が標準的とされていました。一方で臍帯血移植は、代替ドナー移植法であり、迅速な入手が可能であるという点でHLA一致血縁者ドナーと同様の利点があり、緊急の造血幹細胞移植が可能です。 さらに、臍帯血移植は他のドナー法に比べて、様々な条件下でAML患者に対してより強力な移植片対腫瘍効果を誘発する可能性がありました。しかし、非寛解期急性白血病患者の臍帯血移植に関する研究はほとんどありませんでした。
研究の内容
研究グループでは、JDCHCTのTRUMP 2を用いて、非寛解急性骨髄性白血病の臍帯血移植の予後への影響をHLA一致血縁者間移植と比較することを目的としました。2009年1月から2018年12月までに臍帯血移植(1738例)またはHLA一致血縁者間移植(713例)を受けた非寛解R/R AMLの成人患者2451例を対象としました。5年間の無増悪生存期間と臍帯血移植の予後への影響を、傾向スコアマッチング解析を用いて評価しました。5年無増悪生存期間は、臍帯血移植群で25.2%(95%信頼区間[CI]:21.2~29.5%)、HLA一致血縁者間移植群で18.1%(95%CI:14.5~22.0%)でした(P=0.009)。調整後のハザード比(HR)は0.83(95%CI:0.69-1.00、P=0.045)で、これは非再発死亡の増加(HR: 1.42、1.15-1.76、P=0.001)よりも再発率の減少(HR:0.78、95%CI:0.69-0.89、P<0.001)が顕著であったためであることが判明しました。
本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)
本研究成果により、非寛解期急性骨髄性白血病に対してより適切なドナー選択が可能になります。さらに、非血縁急性骨髄性白血病に関する治療、診療のガイドラインの改訂が期待されます。
特記事項
本研究成果は、2021年11月24日(水)に米国科学誌「Leukemia」(オンライン)に掲載されました。
タイトル:“Comparing Cord Blood Transplantation and Matched Related Donor Transplantation in Non-remission Acute Myeloid Leukemia”
著者名:Yoshimitsu Shimomura1,2*, Tomotaka Sobue2, Shigeki Hirabayashi3, Tadakazu Kondo4, Shohei Mizuno5, Junya Kanda4, Takahiro Fujino6, Keisuke Kataoka7, Naoyuki Uchida8, Tetsuya Eto9, Shigesaburo Miyakoshi10, Masatsugu Tanaka11, Toshiro Kawakita12, Hisayuki Yokoyama13, Noriko Doki14, Kaito Harada15, Atsushi Wake16, Shuichi Ota17, Satoru Takada18, Satoshi Takahashi19, Takafumi Kimura20, Makoto Onizuka15, Takahiro Fukuda21, Yoshiko Atsuta22, 23, Masamitsu Yanada24
所属:
1. 神戸医療センター中央市民病院血液内科
2. 大阪大学 大学院医学系研究科 社会医学講座環境医学
3. 九州大学医学研究院プレシジョン医療学
4. 京都大学血液腫瘍内科
5. 愛知医科大学血液内科
6. 京都府立大学血液腫瘍内科
7. 慶応大学血液内科
8. 虎の門病院血液内科
9. 浜の町病院血液内科
10. 東京都健康長寿医療センター
11. 神奈川がんセンター血液内科
12. 熊本医療センター血液内科
13. 仙台医療センター血液内科
14. 駒込病院血液内科
15. 東海大学血液腫瘍内科
16. 虎の門病院分院血液内科
17. 札幌北楡病院血液内科
18. 群馬県済生会前橋病院白血病治療センター
19. 東京大学医科学研究所血液腫瘍内科
20. 日本赤十字社近畿ブロック調整部
21. 国立がんセンター造血幹細胞移植科
22. 一般社団法人日本造血細胞移植データセンター
23. 日本造血細胞移植データセンター
24. 愛知医科大学造血細胞移植進行寄付講座
DOI:https://doi.org/10.1038/s41375-021-01474-0
用語説明
- 完全寛解状態
病気の症状や徴候の一部またはすべてが軽快した状態、あるいは見かけ上、消滅して正常な機能にもどった状態。急性白血病においては、治療後血液中の白血病細胞が消失し、骨髄中の芽球が5%以下となった状態のことを指す。
- 移植片対白血病効果
移植後に体内に残存している白血病細胞はドナー細胞から見れば異物であり、免疫反応で攻撃することが知られている。これを移植片対白血病効果と呼ぶ。
- 傾向スコアマッチング解析
患者を登録する研究において、何らかの治療や薬剤の有効性を評価しようという場合に、行為をされた群とそうでなかった群の間で登録患者の特徴が大きく異なっている場合があり、これらの違いは解析結果にも影響を与える。この患者背景の違いを小さくする統計的手段として、様々な背景因子を傾向スコアという患者背景を要約した一つの指標に変換し、同じようなスコアを持つ患者を各群でマッチさせ、患者背景を揃えた上で目的とする治療や薬剤の効果を評価しようとするもの。