世界記録を10倍更新!高出力レーザー光生成が可能に。
次世代超高強度レーザー技術の探求
研究成果のポイント
- 次世代エクサワット超高強度レーザーを生成するための新技術を提案。
- 従来の超高強度レーザーのボトルネックを打破し、レーザー装置には新たな大規模投資なしで実現。
- レーザー強度の世界記録を10倍以上増やすことができると期待されます。
概要
大阪大学レーザー科学研究所の李朝陽(Zhaoyang Li)助教、加藤義章招へい教授、河仲準二教授の研究グループは、超高強度レーザーを発生させる新しい技術を提案しました。 この技術では、従来の超高強度レーザーのボトルネックを打破することにより、レーザー装置に新たな大規模投資をせずに、現在の超高強度レーザーの世界記録(10ペタワット)を10倍以上超える超高出力レーザー光の生成が可能になります。これにより、次世代エクサワット超高強度レーザー実現への道筋が拓けます。
本研究成果は、英国科学誌「Scientific Reports」に、1月8日(金)19時(日本時間)に公開されました。
図1 エクサワット超高強度レーザー生成の概念図
研究の背景
1960年のレーザー誕生後、Qスイッチ、モード同期など、高ピークパワー・短パルスレーザー生成法が発明されました。しかし、短パルスレーザー光の増幅は、光学系(ミラー、レンズ、レーザー材料など)に損傷を生じるとの問題がありました。この問題を解決するために、1985年にG. Mourou教授がCPA(Chirped Pulse Amplification、2018年ノーベル物理学賞)法を発明しました。CPA法では、レーザー発振器から取り出された微小な出力の超短パルスレーザー光「パルス幅3〜30フェムト秒(fs)」を伸張器で時間的に延伸し、長パルス(1〜2ナノ秒)の状態で損傷を生じずにエネルギー増幅し、増幅後に圧縮器で再び元の超短パルスに圧縮します(図2)。これによりレーザーピーク強度を飛躍的に高めることが可能になり、昨年、CPA技術を使って、欧州連合と中国で10ペタワット(1016ワット)のレーザーが建設されました。しかし、レーザー増幅を用いたCPA技術だけでは、光学系の口径を技術的にこれ以上大きくできず、また、建設に巨額のコストがかかるため、これ以上のピークパワーの飛躍的な増大は困難な状況です。
レーザーパルスの時間幅を10フェムト以下に極短パルス化することは、ピークパワーを上げるための効率的な方法であり、同じパルスエネルギーであればレーザー装置のコストをほぼ変えることなくピークパワーを上げることが可能です。しかし、現在のレーザー材料による増幅では、極短パルス化に必要な超広帯域のエネルギー増幅ができないことがボトルネックとなっています。
光パラメトリック増幅の特性を活かした発明として、私たちは、広角非同軸光パラメトリックチャープパルス増幅法WNOPCPAの技術(OSA Continuum、DOI: 10.1364/OSAC.2.001125)(図2)を提案しました。レーザー材料よりも広帯域増幅が可能な光パラメトリック増幅(OPA)では、増幅部となる非線形結晶への励起光の入射角度によって利得帯域の中心波長がシフトします。このため、レンズを用いて励起光に角度傾斜をつけ非線形材料に入射させるだけで、帯域幅を広げることが可能です。さらに、同様の角度傾斜を持つ励起光を複数用意して各々の励起光の入射角を変えることにより、単一の場合に比べてはるかに広い帯域でレーザー増幅が可能となります。通常のCPAと比較すると、圧縮後のレーザーパルスは、パルス時間幅が1/2〜1/10に短くなります(最良の理論計算値:3fs)。
WNOPCPAからのレーザー出力を、非線形圧縮技術によって再び圧縮することができます(図3)。レーザー光を薄膜/薄プレートを通過させると、非線形効果によりスペクトル幅が大幅に広がり、生成された時間チャープ光をチャープミラーによって補正することで、更にパルス幅を短くできます。これにより、理論シミュレーションでは、レーザーのピークパワーを約5倍に増やすことができます。従来の非線形圧縮と比較して、WNOPCPAのスペクトルは、非線形スペクトル拡大効果をさらに強化できます。
図2 CPA技術の原理、WNOPCPAの原理と光学配置
図3 WNOPCPAからの出力の非線形圧縮
本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)
20世紀3大発明の一つと位置づけられるレーザー技術は21世紀に入り、基礎科学分野や医療・産業分野の両面で、社会への影響力をますます拡大しつつあります。1985年に発明されたCPA技術(Chirped Pulse Amplification、2018年ノーベル物理学賞)を利用して、最近、10ペタワット(1016ワット)の超高強度レーザーが実現されました。しかしCPA技術だけでは、レーザーのピークパワーをさらに高めることは技術的にも経済的にも難しくなっており、世界のパワーレーザーは新しい質的変革の時代を迎えつつあります。本研究グループによって発明された広角非同軸光パラメトリックチャープパルス増幅法(WNOPCPA)(OSA Continuum、DOI: 10.1364/OSAC.2.001125)は、レーザーパルスエネルギーを増大することでピークパワーを高めてきた従来の手法を、パルスの持続時間(パルス幅)を劇的に短くすることによってピークパワーを高める手法へと着眼点を変えたものです。これにより、同じパルスエネルギーで10倍以上のピークパワーを得ることが可能となります。WNOPCPA技術を非線形圧縮技術と組み合わせると、超高強度レーザーのピークパワーを更に向上できると期待されます。
特記事項
本研究成果は、2021年1月8日午後7時(日本時間)にNature Publishing社が発行する「Scientific Reports」誌(オンライン)に掲載されました。
題名:「Simulating an ultra-broadband concept for Exawatt-class lasers」
邦訳:「エクサワットクラスのレーザーの超広帯域コンセプトのシミュレーション」
著者:李 朝陽(Zhaoyang Li)、加藤 義章(Yoshiaki Kato)、河仲 準二(Junji Kawanaka)
DOI: 10.1038/s41598-020-80435-6
参考URL
用語説明
- 超高強度レーザー
パルス幅が非常に短く、パルスエネルギーが非常に高いレーザー。
- ペタワット
(英: Petawatt, 記号: PW)1015ワット。
- エクサワット
(英: Exawatt, 記号: EW)1018ワット。