自然科学系

2019年10月29日

研究成果のポイント

・お椀形状分子スマネン※1の6置換体を配位子に用いることで、曲がったπ電子系※2に囲まれた3次元的な空間を持つ金属有機構造体(MOF)※3の開発に成功
・内部に規則正しく並んだ空孔を持つ化合物は、気体の貯蔵材や特定分子の分離用フィルターなど数多くの機能を持つため、精力的に研究が行われている。
・スマネンなどのバッキーボウル※4は、お椀構造同士で重なり合う力が強いために2次元のレイヤー構造になりやすく、巨大な3次元的空間を明確に構築した例はない
・曲がったπ電子系で囲まれていることに加え、分子を空間内に閉じ込め、かつ規則正しく並べるのに適した構造体であることから、不安定化合物の可視化や、ラジカル等の高活性化合物を配列させることによる新機能の発現に期待

概要

大阪大学大学院工学研究科の燒山佑美准教授、大学院生の長谷川卓己氏(博士前期課程)、櫻井英博教授らの研究グループは、フラーレンの一部を切り出したお椀形状をもつ分子「スマネン」を主骨格に利用することで、曲がった電子系に囲まれた3次元的な空間を持つ金属有機構造体(MOF)の開発に成功しました。

スマネンやコラヌレンなどのバッキーボウルは、平面構造を持つベンゼンやナフタレンとは異なり、湾曲したπ電子系を有しており、種々のユニークな性質を示すことが知られています。こうした構造・機能の面白さに着目して、これまでも機能性分子集合体の構築の構成成分として用いられてきました。しかし、これらはお椀構造同士で重なり合う力が強いために、2次元レイヤー構造を作りやすいという性質があります。今回、当研究グループは、高い対称性を有する分子HexP(図1)の柔軟性に着目し、金属イオンとの配位結合を組み合わせることにより、3次元的にスマネン骨格を組み上げることが出来ると考えました。その結果、Zn2+(亜鉛イオン)とCd2+(カドミウムイオン)といった結合角の異なる2種類の金属イオンを使い分けることで、美しいベルト状や球状の3次元的空間を有するMOFを初めて得ることに成功しました(図1)。これらの空間は曲がったπ電子系で囲まれていることから、空間内に取り込んだ分子の性質に対しどのような影響を与えるかに興味が持たれます。また、今回得られたMOFは分子を空間内に閉じ込め、かつ規則正しく並べるのに適した構造体となっており、これを利用した機能の発現が期待されます。

本研究成果は、米国科学誌「Journal of the American Chemical Society」に、10月13日(日)(日本時間)に公開されました。

図1 6置換スマネンHexPと2種類の金属イオンZn、Cdがつくるベルト状および球状の空間。

研究の背景

内部に規則正しく並んだ空孔を持つ化合物は、気体の貯蔵材や特定分子の分離用フィルター、またリサイクル可能な触媒としての利用など数多くの機能を持つことから、精力的に研究が行われています。特にMOFはその構成成分である有機物配位子と金属イオンとの組み合わせによって、構造・機能を様々にデザインすることができるという特徴を持っています。一方、スマネンやコラヌレンに代表されるフラーレンの部分構造を有するお椀状分子バッキーボウルは、ボウル反転運動に伴う骨格の柔軟性と、物性のソースとして魅力的な「曲がったπ電子系」をもち、置換基導入により性質を変えることも可能であることから、MOFも含めた機能性分子集合体の有用な構成成分といえます(図2)。しかし、これらの誘導体はお椀構造同士で重なり合うことで、2次元のレイヤー構造を作りやすいという性質があり、バッキーボウルによる3次元空間を明確に構築した例はありませんでした。

今回、当研究グループは、6つのピリジル基を有するスマネン誘導体HexPを配位子に用い、特定の角度で有機物配位子を結びつけることのできるZn2+とCd2+イオンとの配位結合を組み合わせることで、お椀構造同士の重なり合いを抑制できると考えました。更に、HexP配位子の持つ柔軟性により、集合体構築で生じるひずみを軽減させることで、スマネンの曲面構造が明確に反映された美しいベルト状や球状の3次元的空間を有するMOFを初めて得ることに成功しました。

図2 バッキーボウルの1つであるスマネンの構造とその性質。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

今回得られたベルト状および球状の空間は、スマネン骨格に起因する曲がったπ電子系で囲まれており、カーボンナノチューブやフラーレンの内部に似た環境になっていることが推測されます(図3)。こうした巨大な曲面π空間内に様々な分子を閉じ込めることで、その性質がどのように変化するのか興味が持たれます。また、一般的なMOFにおける空孔の入り口のサイズは、分子を出し入れすることが十分可能な大きさですが、例えば球状の空間では、大きなところで直径約14Åと、フラーレンの直径(約7Å)よりも大きい一方、その入り口は直径約2Åと、ヘリウム原子の動的分子径※5(2.6Å)よりも小さい値となっています。こうした特徴から、今回得られたMOFは分子を空間内に閉じ込め、かつ規則正しく並べるのに適した構造体となっています。従って、X線結晶構造解析による不安定化合物の可視化や、ラジカル等の高活性化合物を配列させることによる機能の発現が期待されます。

図3 空間充填モデルで表したベルト状(左)および球状(右)空間。結晶中ではそれぞれの空間が規則正しく並んでいる。

特記事項

本研究成果は、2019年10月13日(日)(日本時間)に米国科学誌「Journal of the American ChemicalSociety」(オンライン)に掲載されました。
タイトル:“Formation of Large Confined Spherical Space with Small Aperture Using Flexible Hexasubstituted Sumanene”
著者名:Yumi Yakiyama, Takumi Hasegawa, and Hidehiro Sakurai
DOI: 10.1002/jacs.9b07902

なお、本研究は、文部科学省科学研究費助成事業 新学術領域研究「π造形科学」(JP26102002)の一環として行われました。

用語説明

※1 スマネン
バッキーボウル※4と呼ばれるC60フラーレンの一部を切り取った形に相当するお椀形状のπ共役化合物のうち、6員環を中心とする最小構造を持つ分子。分子の上下に曲がったπ電子を有しており、室温下でのお椀構造の反転運動(ボウル反転)や、固体中での一次元積層構造に基づく異方的電導特性などの興味深い性質を示すことが知られている。大阪大学の櫻井、平尾らによって初めて合成された。

※2 π電子系
π結合を作っている電子が分子内で広く共役することによって形成されるπ軌道を有する分子系・構造のこと。分子が持つ色や電気伝導、発光特性に大きく関係している。

※3 金属有機構造体(MOF)
有機物配位子と金属イオンとの配位結合によって構築される多孔性の配位ネットワーク高分子。配位子部分と金属イオンの組み合わせに応じて精密に構造・機能をデザインできる上、ガス吸着、特定分子の分離、センサーや不均一系触媒としての利用など、数多くの応用が期待されることから、世界中で精力的な研究が行われている。

※4 バッキーボウル
フラーレン類の部分構造、またはカーボンナノチューブのキャップ構造に相当するお椀構造を持つπ共役化合物の総称。6員環と5員環から成る。単にフラーレンやカーボンナノチューブの最小単位であるということのみでなく、お椀構造に基づく特異な性質を有することから注目が集まっている。

※5 動的分子径
気体中で別の分子と衝突する可能性を加味した分子径であり、気体の分離や透過を議論する際に用いられる。気体中の分子の平均自由行程(粒子が衝突することなく移動する平均距離)に関連しており、一般に原子の電子殻の大きさで定義される原子径から計算される分子径よりもずっと大きい。

参考URL

大阪大学 大学院工学研究科 応用化学専攻 物質機能化学コース 物理有機化学領域 櫻井研究室
http://www.chem.eng.osaka-u.ac.jp/~sakurai-lab/

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