工学系

2019年6月4日

研究成果のポイント

・構造的に捻じれがない数ナノメートルスケールの完全被覆分子導線の開発に成功
・高い共役平面性によって、ホッピング領域での単分子電気伝導特性が改善
・究極的ボトムアップアプローチの単分子エレクトロニクスへの応用に期待

概要

大阪大学産業科学研究所の家裕隆教授らの研究グループは、長さ1~10nm(ナノメートル)で構造的に捻じれがなく、かつ、ナノメートルスケールで所望の長さに制御した完全被覆分子導線※1の開発に成功しました。さらに、同大学院基礎工学研究科の夛田博一教授らと共同で、高い共役平面性※2の分子構造がホッピング伝導※3の電気伝導特性の改善に有効であることを単分子の電気伝導度測定により世界で初めて明らかにしました。今回の結果により、単分子エレクトロニクス※4の実現に向けた被覆分子導線の開発が加速的に進展すると期待されます。本研究成果は、米国化学会誌「The Journal of Physical Chemistry Letters」(オンライン)に、2019年5月31日(金)に公開されました。

図1 本研究で開発した数ナノメートルスケールの高い共役平面性をもつ完全被覆分子導線の構造と単分子電気伝導特性

研究の背景

現在主流のシリコン半導体エレクトロニクスではトップダウンのアプローチで微細化が行われています。一方、単分子エレクトロニクスでは分子をつなぎ合わせて電子デバイスを構築するボトムアップのアプローチにより、究極の微小デバイスが作製できると期待されています。これを実現するためには、ダイオードやトランジスタの役割を持つ分子素子だけではなく、分子素子間をつなぐ分子導線や接合部位などのコンポネントが不可欠となります。本研究では、分子導線について新たな知見を得ました。

構造の明確なオリゴチオフェン※5は、長い有効共役長や高い安定性など、優れた特性を有することから、導電性高分子材料に用いられるのみならず、単分子エレクトロニクスにおける分子導線に適したπ共役系の一つです。しかし、分子が長くなると分子が会合するため、長鎖オリゴチオフェン単分子の電気伝導機構を明らかにすることが困難でした。分子の会合を抑制するためには、オリゴチオフェンを嵩高い置換基で被覆することが不可欠となります。しかし、嵩高い置換基をオリゴチオフェンに結合させると、置換基の立体障害によりオリゴチオフェンがねじれてしまい、本来の特性が維持されないという問題がありました。これに対して、家教授らの研究グループでは新たに被覆用の置換基を開発し、共役平面性が保たれた数ナノメートルスケールの完全被覆オリゴチオフェンの開発に初めて成功しました。実際にこの分子の電気伝導度を測定し、過去に報告された歪んだ構造をもつ被覆オリゴチオフェン分子と比較したところ、とくに6nmをこえる長い分子では、高い電気伝導度を示していたことから、今回開発された分子が分子導線として優れていることが明らかとなりました。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

短い鎖長の分子の電気伝導はトンネル伝導※6であるのに対して、鎖長が長くなるとホッピング伝導にシフトすることが知られています。しかし、数ナノメートルスケール、かつ、構造の明確な単分散分子の有機合成が困難なことに起因して、ホッピング伝導領域で共役平面性が電気伝導に及ぼす影響はこれまで未解明でした。今回の成果から、単分子エレクトロニクスの実現に向けた分子導線の開発のためには、“完全被覆”に加えて“高い共役平面性”の指針がホッピング伝導に有効であることが明らかとなりました。

研究者のコメント

単分子エレクトロニクス実現のためには、“分子導線”“接合部位”等のコンポネントが不可欠です。今回の成果から、数ナノメートルスケールの完全被覆型分子導線の開発に大きな方向性が提示できたと考えています。

特記事項

本研究成果は、2019年5月31日(金)に米国化学会誌「The Journal of Physical Chemistry Letters」(オンライン)に掲載されました。

タイトル:“Highly Planar and Completely Insulated Oligothiophenes: Effects of -Conjugation on Hopping ChargeTransport”
著者名:Yutaka Ie, Yuji Okamoto, Takuya Inoue, Saori Tone, Takuji Seo, Yasushi Honda, Shoji Tanaka, See Kei Lee, Tatsuhiko Ohto, Ryo Yamada, Hirokazu Tada, and Yoshio Aso
DOI:10.1021/acs.jpclett.9b00747

用語説明

※1 完全被覆分子導線
単一分子で分子導線としての機能を発現させるためには、隣り合う分子の影響を排除する必要がある。これを実現するためπ共役部位を絶縁部位で完全に被覆した導線のことを示す。

※2 共役(きょうやく)平面性
芳香族分子の共役を伸長するとπ電子が非局在化するため、分子全体のエネルギーが低くなり安定化する。一方で分子が捻じれるとこの安定化の効果が減少する。この効果の有無を示す指標。

※3 ホッピング伝導
局在した電荷が分子内を移動する電荷注入型の輸送機構。熱活性型の伝導であるため温度依存が観測される。電気抵抗の距離依存性は直線的になることが特徴。

※4 単分子エレクトロニクス
1974年にAviramとRatnerは有機単分子に電子素子としての機能を付与することができれば、“単分子エレクトロニクス”が可能になると提唱。単分子エレクトロニクスでは構造変換が自在に行える有機分子の特徴を活かせることからボトムアップのアプローチで素子構築が可能。

※5 オリゴチオフェン
芳香族分子であるチオフェンを繰り返して結合させた分子。繰り返し数を明確に定義できる単分散構造の分子をオリゴチオフェンと呼ぶ。定義できない多分散構造の分子はポリチオフェンと呼ばれる。

※6 トンネル伝導
有機分子を金属電極で挟んだ単分子接合において、電荷が波としてすり抜けていく伝導機構。電気伝導度は温度に依存しないこと、および、電気抵抗の距離依存性が指数関数的であることが特徴。

参考URL

大阪大学 産業科学研究所 ソフトナノマテリアル研究分野
https://www.sanken.osaka-u.ac.jp/labs/omm/

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