均等の間隔でねじれた長鎖分子導線を開発

均等の間隔でねじれた長鎖分子導線を開発

電気伝導特性の高効率化を実現!

2021-1-6工学系
産業科学研究所教授家裕隆

研究成果のポイント

  • 均等の間隔でねじれた数ナノメートルスケールの分子導線の開発に成功
  • ねじれにより分子内のエネルギー準位が均質に分割されたことにより、分子内の電気伝導特性が向上
  • 単分子エレクトロニクスや有機エレクトロニクスへの応用に期待

概要

大阪大学産業科学研究所の家裕隆教授らの研究グループは、一定間隔でねじれをもち、分子間の相互作用を排除する構造を持つ数ナノメートルスケールの完全被覆型分子導線の開発に成功しました。基礎工学研究科の夛田博一教授、山田亮准教授、大戸達彦助教らと共同で単分子の電気伝導測定を行い、一定間隔でねじれをもたせることで、分子内のホッピングサイトが均質化し、電気伝導特性が向上することを明らかにしました。

今回の結果により、単分子エレクトロニクスや有機エレクトロニクスに向けた材料開発が加速的に進展すると期待されます。本研究成果は、J. Am. Chem. Soc.紙に、12月22日(火)にオンライン公開されました。

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図1 本研究で開発した一定間隔でねじれを導入した数ナノメートルスケールの完全被覆型分子導線

研究の背景

一つの分子を通じた電気伝導は、通常、量子効果に基づくトンネル伝導が多く見られますが、分子の長さが数ナノメートルスケール以上になると、正孔などのキャリアが分子内に局在し、分子内の電子準位(ホッピングサイト)を飛び移りながら移動していくホッピング伝導※3が主要なメカニズムとなります。単分子エレクトロニクスや有機エレクトロニクスでは、長距離電気伝導において重要なホッピング伝導の高効率化の指針を得ることが、実用化に向けた重要な課題でした。これまでにホッピングサイトを均質に揃えることがホッピング伝導の効率化に有効と理論的に提案されていました。しかし、この仮説を検証するため必要な、(1) 数ナノメートルスケール、(2) 分子間相互作用を排除した完全被覆構造、(3) 分子長の精密な制御、を兼ね備えた分子の有機合成が困難であるため、実験的な研究は遅れています。これまでに、家教授らの研究グループでは、高い共役平面性を維持することがホッピング伝導の向上に有効であることを明らかとしていました。今回、高い共役平面性をもつ分子構造に『一定間隔でねじれ』を導入することで、理論モデルに相当する構造をもつ分子の合成に成功し、さらにホッピング伝導の効率が向上することを単分子レベルの電気伝導測定で初めて明らかとしました。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

今回の成果から、単分子エレクトロニクスの実現に向けた分子導線の開発のためには、“高い共役平面性”に加えて“ホッピングサイトの均質化”の指針がホッピング伝導に有効であることが明らかとなりました。本研究では単分子の電気伝導特性を明らかにするために、被覆部位を導入しており、単分子エレクトロニクスに向けた分子導線としての機能が期待されます。さらに、本研究で見出だされた“ねじれ”の導入は一般的な有機合成で簡便に実現できることから、有機エレクトロニクス応用に向けたπ共役ポリマーなどの有機半導体材料開発への応用も期待できます。

特記事項

本研究成果は、2020年12月22日(火)にJ. Am. Chem. Soc.紙(オンライン)に掲載されました。

タイトル:“Improving Intramolecular Hopping Charge Transport via Periodical Segmentation of π-Conjugation in a Molecule”
著者名:Yutaka Ie, Yuji Okamoto, Takuya Inoue, Takuji Seo, Tatsuhiko Ohto, Ryo Yamada, Hirokazu Tada, and Yoshio Aso
DOI: /10.1021/jacs.0c10560

参考URL

家裕隆教授 研究者総覧URL
http://www.dma.jim.osaka-u.ac.jp/view?l=ja&u=1502

SDGs目標

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用語説明

単分子エレクトロニクス

1974年にAviramとRatnerは有機単分子に電子素子としての機能を付与することができれば、“単分子エレクトロニクス”が可能になると提唱。単分子エレクトロニクスでは構造変換が自在に行える有機分子の特徴を活かせることからボトムアップのアプローチで素子構築が可能。

トンネル伝導

有機分子を金属電極で挟んだ単分子接合において、電荷が波としてすり抜けていく伝導機構。電気伝導度は温度に依存しないこと、および、電気抵抗の距離依存性が指数関数的であることが特徴。

ホッピング伝導

局在した電荷が分子内を移動する電荷注入型の輸送機構。熱活性型の伝導であるため温度依存が観測される。電気抵抗の距離依存性は直線的になることが特徴。