2018年9月26日

概要

このたび、東京大学理学系研究科の北村成寿特任研究員(論文投稿時は国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)宇宙航空プロジェクト研究員)、名古屋大学宇宙地球環境研究所の小路真史特任助教、三好由純教授及び大阪大学大学院理学研究科の横田勝一郎准教授(論文投稿時は国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)宇宙科学研究所助教)らの国際研究グループは、NASAのMagnetospheric Multiscale(MMS)衛星編隊※1に搭載された低エネルギーイオン計測装置(FPI-DIS)※2を中心とした観測データの解析によって、地球近傍の宇宙空間で、異なるプラズマ粒子群(水素イオンとヘリウムイオン)が衝突せずにプラズマ波動※3を介してエネルギーを輸送している現場を捉え、エネルギー輸送率を直接計測することに成功しました。プラズマ波動を介して、異なるプラズマ間でエネルギー輸送が起きていることを実証したのは世界で初めてとなります。

本研究の成果は、2018年9月7日発行の米国科学誌サイエンスに掲載されました。

研究背景と内容

宇宙空間は完全な真空ではなく、プラズマと呼ばれる荷電粒子で満たされています。地球からの高度が数千から数万kmにも達すると、密度が非常に低くなり、荷電粒子同士はほとんど衝突しなくなります。このような無衝突状態は天体の近傍を除けば宇宙空間の普遍的な状態です。そのような中で、地球の周辺を例にとってみても、極地方でオーロラを光らせるのに十分なエネルギーをもつ電子や、衛星に障害を与えるほどの高エネルギー粒子など、エネルギーの高い荷電粒子も存在しています。無衝突状態で、どのようにして荷電粒子が高いエネルギーへと加速されるかはプラズマ物理の普遍的課題です。無衝突の状態では、プラズマ波動(電場や磁場の変化)による作用が、プラズマ同士のエネルギーのやり取りを担っている場合が多くあると考えられています。このようなプラズマ波動を介したプラズマ間でのエネルギー輸送は、理論・シミュレーションでの研究が進められていましたが、観測的に実証することはなされていませんでした。

米国NASAのMMS衛星編隊は、2015年9月1日に高度約6万kmにおいて、周期約15秒の電磁イオンサイクロトロン波動と呼ばれるプラズマ波動を観測しました。またMMS衛星編隊は、同時に、低エネルギーイオン計測装置(FPI-DIS)によって、過去に例のない高い時間分解能でのイオンの観測に成功しました。FPI-DISはJAXA、明星電気が開発に大きく貢献したもので、高い時間分解能で全方向から来たイオンを計測できるのが特徴です。これらのプラズマ波動とイオンのデータに対し、波動粒子相互作用直接解析の手法(WPIA)※4を適用し、およそ10~30キロ電子ボルトのエネルギーを持った水素イオンの一部と1キロ電子ボルト程度のヘリウムイオンに特徴的な不均一(ジャイロ非等方※5)が生じていることを検出しました。水素イオンのジャイロ非等方はサイクロトロン共鳴条件※6を満たす付近に集中しており、サイクロトロン共鳴によってエネルギーを失いつつある粒子が多く、その失った分のエネルギーが波動に供給されていることを示すものでした。一方、ヘリウムイオンは極めてジャイロ非等方が大きく、ほぼ全てのヘリウムイオンが波動からエネルギーを得る特性のジャイロ非等方になっている瞬間についても確認できました。この大きなジャイロ非等方の特徴などによって、非共鳴加速と呼ばれるタイプの加速がヘリウムイオンに働いていることを初めて示しました。

図1 波動粒子相互作用を観測するMMS衛星のイメージ(コピーライト:東京大学)

成果の意義

本研究によって、宇宙空間で水素イオンとヘリウムイオンという異なるプラズマ粒子群がプラズマ波動(電磁イオンサイクロトロン波動)を介してエネルギーをやりとりしている現場を捉えることに世界で初めて成功しました。これは、宇宙空間に普遍的に存在しているプラズマのエネルギー変化の素過程を検出したものであり、今後、他の種類のプラズマ波動やプラズマとのエネルギー交換過程も、直接かつ詳細な観測で実証していく可能性に道を開くものです。一例として、より高い周波数で似た特性を持つホイッスラーと呼ばれる周波数数キロヘルツのプラズマ波動は、人工衛星などに障害を引き起こす放射線帯の超高エネルギー電子を生成する重要なメカニズムと考えられています。現在、JAXAの「あらせ」衛星※7がこのホイッスラーおよび電子の観測を継続し、解析が進められています。

図2 観測されたジャイロ非等方の模式図(コピーライト:東京大学)
吹き出し内にプラズマ波動の電場成分の向きを上向きの矢印として表している。吹き出し内に並べたサイクロトロン運動をしているイオンのうち、運動方向が電場と同じ上向きの成分を持っているもの(電場の矢印の左側の粒子)は加速され、反対向き(電場の矢印の右側の粒子)のものは減速される。

論文情報

雑誌名:Science
論文タイトル:Direct measurements of two-way wave-particle energy transfer in a collisionless space plasma
著者:北村成寿(東京大学)、北原理弘(東北大学)、小路真史(名古屋大学)、三好由純(名古屋大学)、長谷川洋(JAXA)、中村紗都子(京都大学)、加藤雄人(東北大学)、齋藤義文(JAXA)、横田勝一郎(大阪大学)、D. J. Gershman (NASA)、A. F. Vinas(NASA, American Univ.)、B. L. Giles(NASA)、T. E. Moore(NASA)、W. R. Paterson(NASA)、C. J. Pollock(Denali Scientific)、C. T. Russell(UCLA)、R. J. Strangeway(UCLA)、S. A. Fuselier (Southwest Research Inst., Univ. of Texas, San Antonio)、J. L. Burch(Southwest Research Inst.)
DOI:10.1126/science.aap8730

用語説明

※1 Magnetospheric Multiscale(MMS)衛星編隊
NASAが地球の磁気圏で発生する「磁気リコネクション」と呼ばれる、磁場のつなぎ替わりによって、磁場のエネルギーが荷電粒子に輸送される現象の研究を主目的として打ち上げた4機編隊の衛星で、三角錐の形のフォーメーションを組んで観測を行う。今回の研究で使用した時期には約160km程度の間隔で編隊飛行を行っていた。
https://mms.gsfc.nasa.gov/

※2 低エネルギーイオン計測装置(FPI-DIS: Fast Plasma Investigation-Dual Ion Spectrometer)
10電子ボルト(eV)から30キロ電子ボルト(keV)のエネルギーを持つイオンを0.15秒という過去に例のない時間分解能(20倍以上)で観測するイオン観測器。各衛星の四方に搭載し、全天全方位をカバーする。JAXA(齋藤義文教授、横田勝一郎助教(現:大阪大学大学院理学研究科准教授))、明星電気がFPI-DIS全16台の設計・製作・単体環境試験・初期性能確認試験を担当し、MMS計画に大きく貢献した。

図3 FPI-DIS コピーライト:JAXA

※3 プラズマ波動
プラズマに特有の電磁波動。今回扱う電磁イオンサイクロトロン波動は、その一種で背景の磁場に対して左回り(イオンのサイクロトロン運動と同じ向き)をし、イオンのサイクロトロン周波数より下の周波数のみに存在できるという特徴を持つ。

※4 波動粒子相互作用直接解析の手法(WPIA)
荷電粒子とプラズマ波動の回転位相まで分解して比較し、エネルギー授受を定量的に解析する手法。「あらせ」衛星での電子と電子サイクロトロン波動(ホイッスラーモード波動とも呼ばれる)の相互作用の研究に向け日本がリードして手法確立や実証を行ってきており、今回はより低周波でMMS衛星のイオン計測器で可能な範囲であったイオンと電磁イオンサイクロトロン波動との相互作用に適用した。NASAのTime History of Events and Macroscale Interactions during Substorms(THEMIS)衛星のデータを用いて、水素イオンと電磁イオンサイクロトロン波動間のエネルギー輸送は、名古屋大学小路真史特任助教によって初の実証がなされており(http://www.isee.nagoya-u.ac.jp/2017/09/20170915_isee_1.pdf)、それを本解析で、さらに詳細かつ高時間分解能に進展させ、イオン加速まで含めた一連のエネルギー輸送にも有用な手法であることを実証した。

※5 ジャイロ非等方
サイクロトロン運動している荷電粒子は、波動の影響等を受けていなければサイクロトロン運動の回転位相にほぼ均等に分布するが、この分布に偏りが生じた場合をジャイロ非等方と呼ぶ。このジャイロ非等方によって波動の電場で減速される粒子と加速される粒子の量に差ができた場合に、波動とエネルギーを交換する。今回の場合は、水素イオンは減速される回転位相側に粒子が多く、ヘリウムはほとんどの粒子が加速側の位相に集まっているというジャイロ非等方が見られた。粒子が波動によって減速されるとその分の運動エネルギーが波動に渡される。

※6 サイクロトロン共鳴
サイクロトロン運動している荷電粒子の回転周波数と、プラズマ波動の回転周波数および回転方向とが一致した状態。サイクロトロン共鳴状態では、荷電粒子から見た波動の電場の向きが進行方向に対して一定になる。正の電荷を持つイオンの場合、電場の向きが進行方向に近ければ引っ張られて加速し、反対向きに近ければ減速する。その際に波動と粒子の間でエネルギーを交換する。サイクロトロン波動の場合、波動の周波数は荷電粒子のサイクロトロン周波数とは異なるが、粒子の運動によって粒子から見た周波数がドップラーシフトし、共鳴速度と呼ばれる速度付近でこの共鳴条件が満たされる。

※7 「あらせ」衛星
JAXAが2016年12月20日に打ち上げた地球周回のジオスペース探査衛星で、地球周囲の放射線帯に存在する高エネルギー粒子が宇宙嵐に伴い増減を繰り返す過程や、宇宙嵐自体がどのように発達するのかを明らかにすることを主な目的としている。名古屋大学宇宙地球環境研究所には、JAXAと名古屋大学との共同運営によるサイエンスセンターが設置されている。
http://www.isas.jaxa.jp/missions/spacecraft/current/erg.html

参考URL

大阪大学 大学院理学研究科 宇宙地球科学専攻
http://www.ess.sci.osaka-u.ac.jp/index.html

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