2018年8月28日

研究成果のポイント

・半導体量子ドットを使い、量子ネットワークのための量子中継技術の開発を推進<長距離化の問題を解決して、絶対に安全な情報通信の実現を目指す>
・単一光子から単一電子への変換効率を向上させる手法を提案。表面プラズモン効果を使い50倍程度変換効率を増大させることが可能に<量子情報通信実用化の課題解決への道>

概要

大阪大学産業科学研究所の大岩顕教授らの研究グループは、量子力学の原理で盗聴されたことが検知できる量子暗号通信※1や量子ネットワーク※2をファイバー網で実現するため、量子通信を長距離化する量子中継※3技術の研究開発を推進しています。量子通信では長距離化が最重要課題ですが、まだ方式や有力なデバイスは確立していません。本研究グループは、半導体量子ドット※4中の電子スピン※5を使って、この量子中継技術の実現を目指しています。現在、光子から電子スピンへの量子状態の正確な変換や、光子対から電子スピン対へのもつれ変換の実現に取り組んでいます。量子中継では、ダイヤモンド窒素-空孔中心のスピンなど有力な競合候補がありますが、光子から量子ビットへの変換効率の向上は、量子通信の伝送レートに大きく影響する共通して重要な課題の一つです。

大岩教授らの研究グループは、量子ドット上にブルズアイ型の表面プラズモンアンテナ※6を作製することにより、光子が効率よく量子ドットへ集光され、約50倍以上効率よく、量子ドット中の単一電子へ変換できることをシミュレーションで明らかにし、表面プラズモンアンテナが光子から電子への変換効率を大幅に向上する有効な方法であることを初めて提案しました。

本研究の関連する成果は、日本国科学誌「Japanese Journal of Applied Physics」に2017年1月に公開されました。(DOI:10.7567/JJAP.56.04CK04)今回は、本研究に関する動向についてご紹介いたします。

図1 量子ドットを用いた長距離量子通信の概念図

図2 表面プラズモンアンテナを有する光子-電子スピンインターフェース

研究の背景

今後、IoTの発展などにより、社会で扱う情報量は、爆発的に増え、個人情報など情報の秘匿は極めて重要になります。これを解決するには盗聴されない通信技術が必要となり、量子暗号通信が絶対に安全な情報通信手段と期待され、研究開発が進んでいます。しかし既存ファイバー通信網での長距離化に課題があり、まだ実用に至っていません。この解決法の一つが量子中継技術で、その基盤技術の一つが光子と固体中の量子ビットの間の量子情報の変換ですが、その方式やハードとしての量子ビットも決まっていません。そこで研究グループは半導体量子ドットの電子スピンが量子中継の有力なハードであることを示し、量子中継の有効な方式を提案することで、近年の量子コンピュータ開発と同様に量子情報通信実用化の研究を加速させることを目指しています。様々な技術課題がありますが、その一つが、光子から量子ビットへの変換効率です。これは最終的な量子情報の伝送レートにかかわります。しかし量子ビットは一般的には大きさが小さいため光子1個と効率よく結合させることは容易ではなく、共通の課題の一つでした。

大岩教授らの研究グループは、半導体基板の表面から100nm程度の深さに電界で形成された量子ドットの上に、表面プラズモンアンテナを作製して表面プラズモン効果を利用することで、効率よく量子ドットへ光子を照射できる方法を提案し、シミュレーションから効率上昇を実証しました。これは、ブルズアイ型の表面プラズモンアンテナを用いて、アンテナの中央に位置する量子ドットへ効率よく光を集める一種のレンズの効果により、効率よく光子を量子ドットへ照射できるというもので、シミュレーションではプラズモンアンテナがない従来の素子に比べ50倍以上の高率上昇が見込めることがわかりました。併せて、半導体量子ドットの電子スピンを用いた量子中継技術の開発についても、今回ご紹介します。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本研究により、量子ドット中の電子スピンを使った量子通信の基盤技術が実現できれば、量子通信の実現を一気に加速させ、絶対に安全な情報通信技術と安全な社会に貢献することができます。また研究グループが提案した表面プラズモンアンテナは、半導体量子ドットで特に有効ですが、その他の量子ビットにも適応できるので、長距離量子情報通信における伝送レートの向上に広く応用され、安全で安心な社会の基盤技術に貢献することが期待されます。

特記事項

本研究の関連成果は、2017年1月に日本国科学誌「Japanese Journal of AppliedPhysics」(オンライン)に掲載されました。
タイトル:“Design of bull's eye structures on gate-defined lateral quantum dots”
著者名:Rio Fukai, Tomohiro Nakagawa, Haruki Kiyama and Akira Oiwa

なお、本研究は、JST戦略的創造研究推進事業CREST研究、科学研究費補助金基盤研究(S)の一環として行われました。

用語解説

※1 量子暗号通信
量子力学の原理で安全性が保障された絶対に安全な暗号通信の方法。

※2 量子ネットワーク
量子力学の原理で通信を行うネットワーク網のこと。通常の通信網としてだけでなく、量子コンピュータを接続して量子暗号化された情報で演算処理を行うこともできるとされている。

※3 量子中継
光子が持つ量子状態は光ファイバー中では100km程度で減衰してしまう。量子情報は、通常の光通信のように増幅はできない。そこで量子テレポーテーションなど量子力学の原理により中継して量子情報通信を長距離化する技術。

※4 量子ドット
電子をナノメートルサイズの箱のような微小空間に閉じ込めることにより、量子力学で記述される離散的な電子状態を持つ。原子との類似性から人工原子とも呼ばれる。半導体中ではゲート電圧を用いて電気的に形成することが可能である。

※5 電子スピン
電子が示す、上向きと下向きに対応する磁石のような性質。古典力学的には電荷を持つ電子の自転運動によって理解される。単一の電子スピンの状態は量子力学に従うので、量子情報に応用できる。

※6 表面プラズモンアンテナ
金属と誘電体の界面(表面)において、自由な電子の集団振動(プラズモン)の伝搬に伴って生ずる電磁波を利用し、光を集め、伝搬させ、局在化させることができる金属構造のこと。本研究ではブルズアイ構造と呼ばれる微小開口の周囲に同心回折格子構造を用いている。

参考URL

大阪大学 産業科学研究所 量子システム創成研究分野
http://www.sanken.osaka-u.ac.jp/labs/qse/

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