工学系

2018年8月24日

研究成果のポイント

・「硫化銀インジウム量子ドット」の表面を硫化ガリウムで覆って「コア/シェル構造」と呼ばれる二重構造とすることにより、カドミウムを含まずかつ色鮮やかな量子ドット蛍光体※1の合成に成功
・これまでのカドミウムフリー量子ドット蛍光体は発光の単色性に課題があった
・今後、より色鮮やかな液晶ディスプレイ、より自然光に近いLED照明等の開発に期待

概要

大阪大学大学院工学研究科・桑畑進教授、名古屋大学工学研究科・鳥本司教授の研究グループは、カドミウムを含まずかつ色鮮やかな量子ドット蛍光体の合成に成功しました。

量子ドット蛍光体は実用されている他の蛍光・りん光材料を凌ぐ、きわめて単色性※2の高い(スペクトル幅の狭い)発光を示すのが特徴で、色鮮やかさを重視する高価格帯の液晶ディスプレイを中心に、数年前より採用されてきました(図1、オレンジ)。しかしながら、従来の量子ドット材料は毒性の高いカドミウムやセレンを含む化合物であり、国際法の強化によって全面的に使用を禁止されることが決まっています。

桑畑教授、鳥本教授らの研究グループは、2008年に従来のカドミウム系量子ドットの代替材料として、I-III-VI族※3の3つの元素から構成されるカドミウムフリー量子ドットの発光に世界に先駆けて成功しましたが、発光の単色性は極めて悪いものでした(図2、赤)。その後、世界中の産学の研究グループが凌ぎを削って改良を試みましたが、量子ドット蛍光体にとって特に重要な単色性の問題を解決できずにいました。

今回、同研究グループは、I-III-VI族3元系量子ドットの一つである「硫化銀インジウム量子ドット」について、その表面を硫化ガリウムで覆って「コア/シェル構造」と呼ばれる二重構造とすることにより、従来よりも大幅に単色性の高い発光を得ることに成功しました(図2、緑)。そのきっかけとなった硫化ガリウムは、シェル(=殻)として用いることなど常識では考えられない、結晶性の悪いことで有名な材料でした。実際に、詳細な分析によって結晶性を全く持たない、非晶質※4材料であることが判明しています。

本研究成果は、英国ネイチャー・パブリッシング・グループの英国科学誌「NPG Asia Materials」に、平成30年8月7日(火)に公開されました。

図1 代表的な量子ドットであるセレン化カドミウムと、有機ELにも利用されるイリジウム錯体の発光スペクトル

図2 硫化銀インジウムコア量子ドットと、同量子ドットを硫化ガリウムでコーティングしたコア/シェル量子ドットの発光スペクトル

研究の背景

すぐれた特性をもつカドミウム系量子ドットはおよそ20年前に開発されて以降、蛍光色素として細胞・組織のイメージングに利用され、さらに数年前には青色LEDバックライト光源から光の3元色である緑と赤色の光を得るための波長変換材料として、広く液晶ディスプレイに搭載されるようになりました。従来型の無機蛍光体を搭載したモデルと比較すると色鮮やかさ・色再現性の高さはまさに「一目瞭然」であり、カドミウム系量子ドットの優位性が際立っていましたが、残念ながらその使用が禁止されようとしています。

カドミウム系量子ドットが発するスペクトル幅の狭い発光は「バンド端発光」、一方で硫化銀インジウムのような、3元系材料が発する幅広な発光は「欠陥発光」と呼ばれます。競合する他のグループは粒子内部に欠陥の原因を求めており、この分野の権威の一人である米国の研究者から、「3元系材料のスペクトル狭小化は不可能」とする論文が発表されました。そのような状況下、桑畑教授、鳥本教授らの研究グループは、欠陥発光の原因が粒子表面に起因するのではないかと考え、表面改質として一般的な方法を講じましたが、すぐに成果が得られたわけではありませんでした。

今回の発見の鍵は、量子ドットコア表面を覆うシェルとして、結晶性の悪い硫化インジウムや硫化ガリウムを用いた点に尽きます。「結晶である量子ドットの表面を整えるのは、結晶性のよい材料である」というのは量子ドット研究者の間で常識となっており、他の材料が顧みられることはありませんでした。実際、電子顕微鏡による詳細な分析によって硫化ガリウムは結晶性が悪いどころか非晶質(アモルファス)であることが判明し、この小さな「非常識」はより一層意義深いものとなりました。

図3 硫化銀インジウム/硫化ガリウムコア/シェル量子ドットの構造、発光メカニズムおよび室内光のもとで明るく発光している様子

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

今回の発見によって、カドミウムフリー量子ドットが単色性と発光量子収率※5の両面でカドミウム系量子ドットに迫る性能を獲得しました。量子ドット蛍光体ならではの優れた発光特性を、毒性の心配をすることなく享受できるようになり、色鮮やかなディスプレイや照明の実現とともに、蛍光イメージングの分野で生命科学の研究にも貢献することが大いに期待されます。将来的にはディスプレイの発光部位にこれらの材料を組み込むことにより、一層のエネルギー変換効率向上と高い色再現性を実現することが期待されます。

特記事項

本研究成果は、英国ネイチャー・パブリッシング・グループの英国科学誌「NPG Asia Materials」に平成30年8月7日(火)に公開されました。
タイトル:“Narrow band-edge photoluminescence from AgInS2 semiconductor nanoparticles by the formation of amorphous III–VI semiconductor shells”
著者名:Taro Uematsu, Kazutaka Wajima, Dharmendar Kumar Sharma, Shuzo Hirata, Takahisa Yamamoto, Tatsuya Kameyama, Martin Vacha, Tsukasa Torimoto, and Susumu Kuwabata

なお、本研究は、日本学術振興会 科学研究費助成事業及び日亜化学工業株式会社との共同研究により行われました。

用語説明

※1 量子ドット蛍光体
半導体を10ナノメートル(1憶分の1メートル)以下のサイズにすると、紫外光など波長の短い光を吸収して別の色に発光する「蛍光体」としてふるまうようになる。セレン化カドミウムなどが代表的。他の蛍光色素に比べ、きわめて単色性の高い発光を示すため、数年前から色鮮やかさを謳う一部の液晶ディスプレイに採用されている。

※2 単色性
空に浮かぶ虹のように、光を波長によって分離した際、どの波長成分がどの程度含まれているのかを示すのが図1図2の発光スペクトルである。人間の目には450ナノメートル付近が青、540ナノメートル付近が緑、650ナノメートル付近が赤として認識され、そのスペクトル幅が狭いほど「鮮やかな色」として感じられる。

※3 I-III-VI族
元素の周期律表におけるⅠ族、Ⅲ族、Ⅵ族の材料を組み合わせて作られる化合物で、半導体の特性を有する。最も有名な化合物はCuInSe2(略称:CIS)で、太陽電池に利用されており、CIS薄膜太陽電池と呼ばれている。

※4 非晶質
「ガラス質」とも呼ばれる材料の一形態であり、塩や多くの金属のように構成元素が規則正しく配列した結晶に対して、ランダムに配列した状態のこと。文字通り「ガラス」が代表的存在。

※5 発光量子収率
蛍光体の性能指標の一つであり、「光の粒子説」に基づいて、100個の光子を吸収した際に何個の光子を放出できるかをパーセントで表したもの。100パーセントに近いほどエネルギー効率に優れ、実用的な蛍光材料とされているもので60~70パーセント以上。

研究者のコメント

3元系量子ドットの発光の単色性向上については、大学・ベンチャー企業を含む米国・中国・韓国の複数のグループが数年来取り組んでいたが、一向に成果が上がらなかった。多くのグループが幅広なスペクトルの原因を数ナノメートルの粒子内部の欠陥だと考えていたが、我々はむしろ粒子表面に問題があるのではないかと考え、いくつかの材料でコーティングを試みたところ、偶然にカドミウム系のような鋭い発光を観測することに成功した。

参考URL

大阪大学 大学院工学研究科 応用化学専攻 応用電気化学領域
http://www.chem.eng.osaka-u.ac.jp/~elechem/

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