世界初!水から水素を高効率で生成できる光触媒を開発

世界初!水から水素を高効率で生成できる光触媒を開発

太陽光広帯域利用による水素製造に期待

2017-5-29

成果のポイント

黒リン金ナノ粒子チタン酸ランタンの3つの材料からなる可視光・近赤外光応答型光触媒を開発、水から水素の高効率生成に成功
・これまで光触媒に可視光・近赤外光を利用することは困難だったが、黒リンを使用することで太陽光広帯域利用が可能になる
・水素社会において根幹となる、太陽光による水素製造の実現へとつながる

概要

大阪大学産業科学研究所の真嶋哲朗教授らの研究グループは、黒リンを用いた光触媒 を開発し、この光触媒を使用すると可視光・近赤外光 の照射によっても、水から水素生成が効率よく起こることを世界で初めて見出しました。

従来の光触媒では、太陽光の3-4%にすぎない紫外光を利用するため、水から水素への太陽光エネルギー変換効率 は低いという問題がありました。

今回、真嶋教授らの研究グループは、紫外・可視光のみならず近赤外光にも強い吸収をもつ層状の黒リン と、層状のチタン酸ランタン(La 2 Ti 2 O 7 ) を数層からなる超薄膜とし、これらと数ナノメートルのサイズの可視光にも吸収をもつ金ナノ粒子 との三成分からなる複合体を合成しました (図1) 。この複合体において、黒リンが可視光・近赤外光に応答する光増感剤 として働き、また、金ナノ粒子が可視光に応答する光増感剤として働き、励起電子がチタン酸ランタンに移動し、プロトンの還元により水からの水素生成が効率よく起こることを世界で初めて明らかにしました。

新しく開発した黒リン、金ナノ粒子、チタン酸ランタンの複合体を光触媒として使用することによって、太陽光からの広帯域波長光 を利用して、水からの水素製造が可能になりました。

図1 黒リン、チタン酸ランタン、金ナノ粒子からなる光触媒の電顕写真。

研究の背景

水素を、再生可能な自然エネルギーである太陽光と地球上に豊富に存在する水から効率的に製造できれば、現在の化石燃料社会から水素をエネルギー源とする水素社会への移行が現実のものとなります。

現在の太陽光エネルギー(主に太陽光電池)のコストは化石燃料に比較して高価なため、十分に広まっていません。そこで、太陽光エネルギーを利用して水素を高効率に製造できる光触媒の開発が望まれています。

今回、真嶋教授らは、黒リン、金ナノ粒子、チタン酸ランタンとの三成分からなる可視光・近赤外光応答型光触媒を開発し、水からの水素の高効率生成に成功しました。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本研究成果により、次世代エネルギーとして検討されている、水素を基本とするエネルギー社会(水素社会)において、その根幹となる、太陽光による水素製造の実現へつながること、同時に環境問題の解決にも大きく貢献することが期待されます。

特記事項

本研究成果は、平成29年1月12日(ヨーロッパ時間)にAngew. Chem. Int. Ed.に掲載 2017, 56, 2064-2068(Hot Paperとして掲載)。
タイトル:“Au/La 2 Ti 2 O 7 Nanostructures Sensitized with Black Phosphorus for Plasmon-Enhanced Photocatalytic Hydrogen Production in Visible and Near-Infrared Light”
著者名:M. Zhu, X. Cai, M. Fujitsuka, J. Zhang, and T. Majima

研究者のコメント

太陽光エネルギーを利用した光触媒(人工光合成とも呼ばれる)の研究は、エネルギー問題や環境問題に関連して、世界中の研究者によって活発に行われています。特に米国、韓国、中国での注目度は高く、度々の招待講演を行っています。

参考URL

大阪大学産業科学研究所 励起分子化学分野 真嶋研究室
http://www.sanken.osaka-u.ac.jp/labs/mec/index1

用語説明

黒リン

リンには、白リン(黄リン)・赤リン・紫リン・黒リンなどの同素体が存在する。黒リンは層状構造で、紫外、可視、近赤外光領域に幅広い吸収をもつ。

金ナノ粒子

ナノサイズの金ナノ粒子はその大きさ形状に対応した表面プラズモン共鳴による特有の可視光吸収を示す。この金ナノ粒子を金属酸化物半導体に付着した複合体では、金ナノ粒子の可視光照射により金ナノ粒子がプラズモン共鳴励起され、励起電子が半導体へ注入され、様々な還元反応が起こる。

チタン酸ランタン

チタン酸ランタン(La2Ti2O7):

La 3+ , Ti 4+ , OH - からの水熱合成法によって得られる。2次元ペロブスカイト層状構造で、紫外、可視光に吸収をもつ。

可視光・近赤外光

太陽光は様々な波長の光が混ざっていて、波長の短い順番に、エネルギーの大きい順番に、紫外光、可視光、近赤外光と呼び、それぞれは約4%、44%、52%の割合である。可視光は7つの色にわけられる。

光触媒

光を照射することにより触媒作用を示す物質。代表的な光触媒は、アナターゼ型酸化チタン(TiO 2 )であり、紫外光の照射によって水が分解して水素と酸素を発生する。また、有機物の酸化分解を起こし、二酸化炭素にまで分解できることから、環境浄化へ応用されている。

光エネルギー変換効率

入射する光子の数に対して、反応に利用された光子の割合を示す。現在の太陽光エネルギー変換効率は数%程度であり、さらなる向上が必要である。

光増感剤

光吸収によって得た励起エネルギーを、光吸収しない分子に移動すること(励起エネルギー移動)によって、光吸収しない分子の電子励起状態にし、自らは基底状態に戻る。あるいは、光吸収によって得た励起エネルギーによって、光吸収しない分子との間で、電子移動(または電荷分離)を起こし、光吸収しない分子を一電子酸化還元状態にする。

広帯域波長光

で説明したように、太陽光は外光、可視光、近赤外光など様々な波長の光が混ざっていて、それぞれは約4%、44%、52%の割合である。これらの様々な波長の光をあわせて、広帯域波長光と呼び、太陽光の様々な波長の光を使用することが、太陽光エネルギー変換効率を高める。