2016年6月9日

本研究成果のポイント

・舌がん※1 に対する放射線治療の副作用を防止する装置を世界で初めて開発し、臨床応用することに成功
・これまで舌がんの治療は、副作用を伴う可能性から放射線治療ではなく、切除手術を選択する患者が多数
・舌などの機能と形態を温存できる放射線治療を安心して選択可能に

リリース概要

大阪大学大学院歯学研究科の村上秀明准教授らの研究グループは、舌がんに対する放射線治療の副作用を防止する装置を開発し、患者に臨床応用することに、世界で初めて成功しました。

これまで舌がんに対する放射線治療は、治療効果は切除手術と変わらないものの、副作用を心配し放射線治療を受けない患者が9割以上を占めています。

本研究グループは、副作用を起こす放射線を遮へいするためにマウスピースの様な装置(図)を開発し、舌がんに近い身体部位に副作用が発生しない程度に放射線量を低減することに成功しました。

本成果により、舌の機能と形態を温存できる放射線治療を安心して選択できる可能性が高まることが期待され、放射線治療直後の歯科治療も可能になります。

本研究成果は、5月29日に米国科学誌「PLOSONE」に掲載されました。

図 舌と歯の間に装置(舌の表面の白いボタンのようなもの)を装着した様子

研究の背景

元大臣の甘利さんやギタリストの村治さんが罹患したことでも有名になった「舌がん」は、日本では1年間に約1万人が罹患し、3-4千人の方が命を落とす疾患です。治療法は、日本では副作用などを心配し放射線治療に抵抗のある方が多いため、切除手術が最もよく選択され、舌の機能や形態を損なうケースが多いのが現状です。

放射線治療は外部照射と組織内照射※2 に大別され、組織内照射では照射範囲に近接する部位以外には副作用は発生しません。しかし、舌がんは歯肉や顎骨と隣接するため、組織内照射を行う場合、歯肉の潰瘍や、顎骨の壊死など、身体の外観に大きな影響を及ぼすこともあります。

これらの副作用を避けるために、舌と歯肉の間に放射線を遮蔽する物質(鉛など)を挿入する試みはありましたが、その物質は放射線照射前のCT撮影に悪影響を及ぼし、照射が一週間ほど連続する低線量率組織内照射※3 では、物質を連続して継続的に挿入することは事実上不可能でした。そこで、大阪大学医学部で導入されている、照射時間が1回数分ですむ高線量率組織内照射※3 を、舌がんの治療に用いることで、遮蔽物質を挿入することが可能になり、上記の問題を解決するに至りました。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本研究成果により、舌がんの治療において、機能と形態を温存できる放射線治療の選択の可能性が高まることが期待されます。また従来、放射線治療後は、抜歯などの歯科処置が一切出来ませんでしたが、今後はすべての歯科処置が制限なく可能になると考えています。

特記事項

・本研究成果は、2016年5月29日に米国科学誌「PLOS ONE」(オンライン)に掲載されました。

タイトル: Preventing Complications from High-Dose Rate Brachytherapy when Treating Mobile Tongue Cancer viathe Application of a Modular Lead-Lined Spacer
著者名: Murakami S, Verdonschot RG, Kakimoto N, Sumida l, Fujiwara M, Ogawa K, Furukawa S.

・6月下旬にデンマーク・コペンハーゲン大学で開かれる頭蓋顔面治療学会にて、本成果を講演する予定です。
・本研究は、科学研究費補助金の課題研究「舌癌に対する小線源放射線治療時の下顎骨線量低減装置の開発」の一環として行われました。
・本研究成果は日本歯科放射線学会の学会賞を受賞しました。

用語説明

※1 舌がん
口腔がんで最も頻度が高い。全がんの約1%。発見が他のがんより早いことが多く、5年生存率は6割を越える。

※2 組織内照射
がん病巣に直接または間接的に放射性物質(イリジウムなどのラジオアイソトープ)を設置して、がん病巣に放射線照射する放射線治療のひとつ。入院下での小手術が必要であるが、副作用が隣接部位以外に生じないことが特長。

※3 低・高線量率組織内照射
従来の低線量率組織内照射法では舌がんの治療に1週間程度連続的に照射する必要があったが、高線量率組織内照射法では1回数分の照射を8-10回繰り返す。治療時間の短縮のみならず、分割照射として生物学的効果が高く、術者の被曝も皆無となった。大阪大学では、ロボットを用いた遠隔後装填方式の高線量率組織内照射法を採用。

研究者のコメント

舌がんの放射線治療に携わった初期の頃、舌がんが治って喜ぶ患者さんから「ありがとう」と言ってもらえ満足していました。それから8年後、下あごの骨が放射線によって腐ってしまい、下あごの骨を半分くらい切除する手術を受けてもらいました。その時に、患者さんから「以前にありがとう、と言った言葉を取り消させて欲しい」と言われました。

その時から、副作用の出ない舌がんの放射線治療の方法をずっと考えておりました。この度、開発した装置を20名の舌がん患者に応用し、全員に急性の副作用が出現しないことを確認したため、発表するに至りました。

参考URL

大阪大学歯学部・大学院歯学研究科HP
http://www.dent.osaka-u.ac.jp/index.html

この組織の他の研究を見る

Tag Cloud

back to top