2015年9月9日

本研究成果のポイント

・次世代の省エネ材料などに期待される窒化ガリウム(GaN)表面の欠陥濃度変化可視化に成功
・レーザーテラヘルツエミッション顕微鏡(LTEM)が、ワイルドキャップ半導体の品質評価への新手法として有用であることを示唆
・次世代の光デバイス、超高周波デバイス、エネルギーデバイス開発のブレークスルーをもたらすことを期待

概要

大阪大学レーザーエネルギー学研究センターの川山巌准教授らのグループは、株式会社SCREENホールディングス※1 と共同で、レーザー照射によって発生するテラヘルツ波を計測し可視化するレーザーテラヘルツエミッション顕微鏡(LTEM)※2 により、窒化ガリウム(以下GaN)の表面に存在する欠陥濃度の変化を可視化することに成功しました。

GaNに代表されるワイドギャップ半導体※3 は、青色LEDなどの光デバイスとして広く普及しており、次世代の省エネルギーパワーデバイス材料や次世代太陽電池材料としても期待されています。しかし、その結晶品質はシリコン(Si)などの従来の半導体材料に比べ十分とは言えず、パワーデバイスへの普及を妨げる要因となっています。そのため、ワイドギャップ半導体において、欠陥や転位の少ない高品質な結晶育成技術の確立が求められており、新たな評価技術の開発が重要です。

この発見は、LTEMがワイドギャップ半導体の品質を評価する新たな手法として有用であることを示しているだけでなく、次世代の光デバイス、超高周波デバイス、エネルギーデバイス開発のブレークスルーをもたらすことが期待されます。

本研究成果は、英国のオンライン科学雑誌『Scientific Reports』(9月9日付け)に掲載されました。

a.半導体表面からのテラヘルツ放射の概念図 b.GaN表面における欠陥濃度が低い領域と高い領域のバンド構造の比較
aに示すように、GaNなどの半導体表面近傍では、表面ポテンシャル※4 の影響によりエネルギーバンドが曲がっており、光励起されたキャリアがこのバンドの曲がりにより加速され、その結果としてテラヘルツ波が放射されていると考えられます。今回の欠陥によるテラヘルツ波放射強度の変化は、bに示すように、表面付近の欠陥にトラップされた電子によりエネルギーバンドがより大きく曲がり、その結果としてキャリアがより大きく加速されることが原因と考えられます。このことは、LTEMがワイドギャップ半導体表面の欠陥濃度や表面ポテンシャルの分布を計測手法として有効であることを示しています。

研究の背景

大阪大学レーザーエネルギー学研究センターでは、テラヘルツ波を用いた機能性材料・デバイスの評価手法の開発を進めており、これまでに超伝導電流、強誘電体ドメイン構造および半導体集積回路の電界分布などの可視化に成功しています。近年はSCREENホールディングスと共同でLTEMを用いた太陽電池の検査技術を共同開発し、実証機開発に成功するなど、その実用化に向けた研究開発も着実に行われています。

GaNに代表されるワイドギャップ半導体は、青色LEDなどの光デバイスとして広く普及していますが、次世代の省エネルギーパワーデバイス材料や次世代太陽電池材料としても期待されています。しかし、その結晶品質はSiなどの従来の半導体材料に比べ十分とは言えず、信頼性が重要視されるパワーデバイスへの普及を妨げる要因となっています。そのため、ワイドギャップ半導体において、欠陥や転位の少ない高品質な結晶育成技術の確立が求められています。また、デバイス開発も精力的に行われていますが、GaNの大きな表面ポテンシャルにより、ノーマリーオフ動作※5 が困難であることが大きな課題となっています。このような、ワイドギャップ半導体結晶およびデバイスにおける課題を解決するためには、新たな評価技術の開発が重要です。

ワイドギャップ半導体の欠陥の評価手法としては、励起された正負のキャリアの再結合による発光(ルミネッセンス)により結晶中に含まれている欠陥を分析する方法(エレクトロルミネッセンス、フォトルミネッセンスなど)が広く行われています。しかし、今後さらに結晶品質を向上させるためには、ルミネッセンスの伴わない非輻射再結合に関わる欠陥の検出も必要であると考えられています。

研究の内容

GaN結晶表面に紫外線フェムト秒(1フェムトは1,000兆分の1秒)レーザーパルスを照射することにより、テラヘルツ波が発生します。今回、LTEMを用いて発生したテラヘルツ波の強度分布を調べました(図1) 。その結果、テラヘルツ波放射強度の高い領域と低い領域が存在することがわかりました。

図1 GaN表面のLTEM像

また、LTEM像と、従来手法のフォトルミネッセンスにより得られた像を比較すると、格子欠陥に起因する発光の強度の分布とテラヘルツ波放射の強度分布に強い相関があることがわかりました(図2)。

図2 GaN表面におけるフォトルミネッセンス(PL)とテラヘルツ波放射強度分布

さらに励起レーザー波長を変化させて測定して得られた結果から、テラヘルツ波の放射にはバンドギャップエネルギー以上のエネルギーを持つ励起光が必要であることが確認できました。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

今回の研究は、LTEMを用いることにより、GaN表面の欠陥濃度の変化を測定できること初めて明らかにしたものです。今回測定した欠陥は従来手法でも観測できるものですが、従来手法では検出できない、発光を伴わない非輻射性の欠陥の検出も原理的には可能です。また、この手法では局所的な表面ポテンシャルの変化を非接触で検出可能であるため、デバイス評価技術としても応用可能であり、パワーデバイス開発において問題となっている、デバイスのノーマリーオフ化などにも貢献できると考えています。このように、本手法はワイドギャップ半導体の新たな評価手法となり、次世代の光デバイス、超高周波デバイス、エネルギーデバイス開発のブレークスルーをもたらすことが期待されます。

特記事項

本研究成果は、英国のオンライン科学雑誌『Scientific Reports』(9月9日付け)に掲載されました。

【論文タイトル】Visualization of GaN surface potential using terahertz emission enhanced by local defects(Scientific Reports 5, 13860 (2015))
【著者】Yuji Sakai, Iwao Kawayama, Hidetoshi Nakanishi, Masayoshi Tonouchi

用語解説

※1 株式会社SCREENホールディングス
大日本スクリーン製造の半導体製造装置、印刷・プリント基板関連装置、FPDなどのファインテック装置事業の分社化を機に2014年に現在の商号に変更。半導体洗浄装置やCTP装置、液晶パネル製造装置など、多くの世界トップシェア製品を持つ事業会社をはじめ、国内外に展開する46社のグループ会社を統括する。表面処理技術、直接描画技術、画像処理技術といったコア技術をベースに、4つの新規領域(エネルギー、検査・計測、ライフサイエンス、プリンテッドエレクトロニクス)の事業化を積極的に展開している。1943年設立。

※2 レーザーテラヘルツエミッション顕微鏡(LTEM)
大阪大学レーザーエネルギー学研究センター・斗内研究室にて開発された、テラヘルツ波応用解析装置。約100フェムト秒という極めて短い時間のレーザーパルスを半導体、超伝導体、強誘電体などの材料やデバイスに照射することにより、発生するテラヘルツ波を検出し、その分布を可視化できる顕微鏡。(1フェムトは1,000兆分の1秒)

※3 ワイドギャップ半導体
相対的に大きなバンドギャップエネルギーを持つ半導体を指す。従来の半導体であるシリコン(1.12 eV)や砒化ガリウム(1.42 eV)に比べてGaNは約3.4 eVと倍以上大きい。他に炭化ケイ素(SiC)、窒化アルミニウム(AlN)やダイヤモンドなども代表的なワイドギャップ半導体である。

※4 表面ポテンシャル
半導体表面における電位を指すが、表面特有のダングリングボンドや波動関数のしみ出しのため、バルク(半導体内部)でのポテンシャルと一般的に異なっている。

※5 ノーマリーオフ
ワイドギャップ半導体は、通常その大きな表面ポテンシャルのため、ゲート電圧オフの状態でもデバイスに電流が流れる、いわゆるノーマリーオン動作し、パワーデバイスにおいては安全上の問題となっている。そのため、電圧を印可した時のみデバイス動作をするノーマリーオフ動作を目指した開発が進められている。

参考URL

SCREENホールディングスと共同の共同研究プレス発表(3月6日発表)
SCREENホールディングスと大阪大学 テラヘルツ技術を活用した太陽電池評価システムの装置化に成功 ~福島再生可能エネルギー研究所に設置し、最先端の太陽電池研究開発に貢献~
http://resou.osaka-u.ac.jp/ja/research/2015/20150306_1

大阪大学レーザーエネルギー研究センター 斗内研究室
http://www.ile.osaka-u.ac.jp/research/THP/index.html

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