2014年11月19日

本研究成果のポイント

■多国籍の学生たちの共同作業による研究成果
■光によって異性化するユニットを組み込んだ超微細な“ひも”の一様形成に成功
■ナノメートルサイズの伸び縮みする超微細電線“光るひも”や“動くひも”として利用可能

リリース概要

大阪大学インターナショナルカレッジ※1 化学生物学複合メジャーコースのCheng Hoi Lok氏(当時工学部3年)、Tuchinda Wasin氏(工学部3年)、本学のFrontier Lab@Osaka Uプログラム※2 で学んだMichael T. Tang氏(当時カリフォルニア大学サンディエゴ校2年)からなる研究チームは、大阪大学インターナショナルカレッジ特任助教(現 九州大学学術研究員)の榎本一之氏、工学研究科応用化学専攻と共同で、光に応答して伸び縮みするナノメートルサイズの電線(ナノワイヤー※3 )を一様に形成する技術の開発に成功しました(図1に、作成されたナノワイヤーの原子間力顕微鏡写真を示します)。今後、自分自身で自由に形を変えるπ共役高分子で形成された電線(“光るひも”や“動くひも”)などへの応用が期待されます。

本研究成果は、独国Wiley-VCH Verlag GmbHのAdvanced Materials Interfaces誌のオンライン速報版で平成26年11月19日に公開されました。

本研究成果内容のユニークさもさることながら、本学の国際教育プログラムで学んでいる多国籍の学生たちによる成果という点でもきわめて稀な成果です。

研究の背景

光によって応答するナノ構造体は、“触らずに動かす”という根本的な面白さはもとより、光のエネルギーを直接運動エネルギーに変換するシステムや、光によって薬剤を体内の狙ったところへ放出するドラッグデリバリー機能などへの応用の可能性から盛んに研究が進められています。光によって構造が変化したり、それに伴って色や電気特性が変化する材料は数多く知られていますが、その多くは分子レベルの化学的な構造変化のおもしろさにとどまっていました。

一方で、粒子線(イオンビーム※4 )は、α線・β線・γ線※5 といった従来からの電離放射線と異なり、一つ一つの粒子(原子)が通過する軌道に沿って、「どのくらいのエネルギーを与えるか」をきちんと制御することが可能です。また、そのエネルギーを与える範囲も、軌道に沿った数10~100ナノメートルの範囲に限定できます。このような性質を利用して、イオンビームは高度先進医療におけるがん治療のための重要なツールとして、また、有用植物種を得ることを目的とした突然変異誘発のためのツールなどとして、利用が進められています。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本研究で形成された光で動く超微細な高分子から成る“ひも”(ナノワイヤー)は、上述の粒子線を用いて作製されました。一つ一つの粒子の飛跡に沿った直径数ナノメートルの円柱状の空間内で、高分子反応(架橋反応※6 )が引き起こされることで、さまざまな機能を有する高分子ナノワイヤーを作製することができます(図2)。高分子(プラスチック)の膜に粒子をあてて、溶媒で洗浄するだけという非常に簡便なプロセスで、長さ・太さ・数が完全にそろった数ナノメートルの太さのひもを誰でも作成することができるため、「こんな材料をナノ構造化してみたい」という目的を、かなり自由に実現することが可能です。

今回作成されたナノワイヤーは、分子形状が光照射によって可逆的に大きく変化するアゾベンゼンを組み込んだ共重合体がもとになっています。この高分子は、アゾベンゼン以外に、発光ポリマーとしての極めて高い性能を有するポリフルオレン、ナノ構造形成のための反応性と高分子の製膜性を同時に向上できる長鎖アルキル基、の3点を自由に組み合わせて設計しました。このように、もとになる物質の“機能”を組み合わせ、1次元ナノワイヤーを実現できることが重要なポイントです。シリコン基盤上に製膜したこのπ共役高分子(PFOAzo)に高エネルギー粒子を照射し、PFOAzoナノワイヤーの一様形成に成功しました(図3)。このびっしりと埋め尽くされたひもが、それぞれ一つの粒子が通った道筋を示しています。

得られたPFOAzoナノワイヤーを光で動かしてみたところ、紫外線を照射するとナノワイヤーがミミズのような湾曲を伴い収縮(断面半径rは8.1 ナノメートルから6.3 ナノメートルに減少)し、可視光を照射すると元に戻る光応答性を示しました(図4)。これは、トランス型のアゾベンゼンがシス型に、ついでシス型が元のトランス型に光異性化したことを反映しています。また、PFOAzoナノワイヤーからはπ共役フルオレン骨格が示す発光および電気伝導性がそれぞれ観察されています。

本研究成果では、可視光に含まれる一般的な光により、その形状が大きく変化するナノワイヤーの形成が示されました。偏光光源などの特殊な光を用いることなく、光エネルギーを吸収してナノワイヤーの軸に沿った運動に変換できる可能性を示しています。実際に基板表面に固定されたナノワイヤーを「触らずに」光により操作することで可逆的な運動ができる光応答性アクチュエーターなどのメカニカルデバイス作製や超微細電線としてオプトエレクトロニクスへの応用が期待されます。また、蛍光センサーやナノワイヤー表面の化学修飾によりDNA検出などの生物学領域への利用が考えられると同時に、その莫大な表面積により超高感度化の可能性を示しています。

今後の予定

今後は、アゾベンゼンの高速光異性化のための分子設計と、その構造変化による蛍光量子収率の向上と吸収・蛍光波長の調節を図り、光メカニカルデバイスへと展開していく予定です。また、光・熱・pHなど異なる刺激に応答する高分子を一様な長さ・太さでつなぎ合わせたブロックワイヤーの作製が考えられ、さまざまな刺激に応答する高機能性ナノワイヤーを作製していく予定です。

国際教育のなかで

大阪大学では、平成22年度より、文部科学省「国際化拠点整備事業(グローバル30)」の一環として、学部英語コースであるインターナショナルカレッジを設置し、そのもとで、化学・生物学複合メジャーコースの運営を行ってきました。今回の研究成果は、このプログラムの第1期・第2期生が、それぞれ卒業研究として始めた研究をもとにしています。加えて、大阪大学が永年運営してきた、Frontier Lab@Osaka Uと呼ばれる海外の協定校との交換留学プログラムにより来日した学生が、学部2年生でありながら、国内外のさまざまな研究機関との連携と協力を仰ぎながら、研究成果の核となる重要な光応答特性に関する実験を強力に進めました。

これらの教育プログラムにより受入れた留学生が、今回の成果に見られる優れた研究成果を挙げたことは、本学の教育プログラムの質の高さを証明するものと言えます。また、今回の研究チームを構成するメンバーの国籍は全て違っており、多国籍の学生たちが力を合わせて達成した成果として、極めて珍しい例といえます。

原論文情報

Hoi Lok Cheng,1, 2 Michael T. Tang,3 Wasin Tuchinda,1, 2 Kazuyuki Enomoto,*,1,2 Atsuya Chiba,4 Yuichi Saito,4 Tomihiro Kamiya,4 Masaki Sugimoto,4 Akinori Saeki,1 Tsuneaki Sakurai,1 Masaaki Omichi,1 Daisuke Sakamaki,1 and Shu Seki1, 2

1 Department of Applied Chemistry, Graduate School of Engineering, Osaka University, 2-1 Yamadaoka, Suita, Osaka 565-0871, Japan
2 International College, Osaka University, 1-2 Machikaneyama-cho, Toyonaka, Osaka 560-0043, Japan
3 Department of Nanoengineering, Warren College, University of California San Diego, 9500 Giliman Dr., La Jolla, CA 92093-0018
4 Japan Atomic Energy Agency, Takasaki Advanced Radiation Research Institute, 1233 Watanuki-machi, Takasaki, Gunma 370-1292, Japan

“Reversible Control of Radius and Morphology of Fluorene-Azobenzene Copolymer Nanowires by Light Exposure”

独国Wiley-VCH Verlag GmbH, Advanced Materials, DOI: 10.1002/admi.20140045

参考図

図1 直径10ナノメートル程度の伸縮性ナノワイヤーで埋め尽くされた表面の原子間力顕微鏡像

図2 単一粒子ナノ加工法による高分子ナノワイヤーの作製

図3 PFOAzoナノワイヤーの原子間力顕微鏡像及び蛍光顕微鏡写真像(挿入図は現像前)

図4 PFOAzoナノワイヤーの光異性化前後の原子間力顕微鏡像(左図:トランス体、右図:シス体)

用語説明

※1 インターナショナルカレッジ
平成22年8月に、本学が文部科学省「国際化拠点整備事業(グローバル30)」により、学部に設置した英語コース。留学生に魅力的な水準の教育を提供するとともに、留学生と切磋琢磨する環境の中で、国際的に活躍できる高度な人材の育成を図ることを通じ、本学の国際競争力を強化することをその目的としている。

※2 Frontier Lab@Osaka Uプログラム
本学が提供している留学生プログラムの1つ。理学部、基礎工学部、工学部、情報科学研究科及び関連部局に所属する特定分野の「研究室」に、外国人学生を一定期間(最長1年間)受け入れ、主として当該研究室で提示する研究テーマを学ばせ、本学理工系研究科の特徴である「研究室」において、指導教員のもと、先端的な研究テーマについて実際に研究を行い、成果をあげるとともに、研究実施上の各種スキルを身につけさせることを目的としている。

※3 ナノワイヤー
ナノは10-9の単位で、ナノワイヤーは10億分の1メートルから1000万分の1メートル程度の太さで、電気やエネルギーを輸送できるひも状の構造体。

※4 イオンビーム
イオンとは正または負の電荷をもつ原子あるいは分子のこと。ビームとは、粒子や電磁波が一方向に進むエネルギーの流れ。今回は、オスミウムやキセノンといった比較的大きい原子のイオンを、加速器の中で500 MeV程度(5億ボルト)まで高速に加速した高エネルギーのイオンビームを、フラーレンフィルムに照射している。

※5 α線・β線・γ線
放射線には粒子の種類、エネルギーによって分類された呼び方がある。α線は、ヘリウムの2価イオンが高速に並進運動するもの、β線は高速の電子線、γ線は原子核から放出される波長が1000億分の1メートルより短い電磁波のこと。他にもX線、中性子線、宇宙放射線(ニュートリノなど)がある。

※6 架橋反応
高分子に放射線を照射すると、生じたラジカル同士の反応で高分子同士がつながりあって溶媒にとけなくなる(高分子がより大きくなる)架橋反応が進行するものがある。

参考URL

研究室ウェブサイト
http://www.chem.eng.osaka-u.ac.jp/~cmpc-lab/research/index.html

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