2014年5月16日

リリース概要

大阪大学大学院基礎工学研究科の劉楊(日本学術振興会特別研究員)、境慎司准教授、田谷正仁教授らの研究グループは、ヒト肝臓由来の細胞を高密度で埋め込んだコラーゲンのゲル内に、直径0.01~0.05ミリメートル程のヒト血管細胞で構成される流路が複雑につながった毛細血管網状のネットワーク構造を再現し、そのネットワーク内に培養液を流通させることに成功しました。肝臓やすい臓などの大きな臓器を生体外で作ることに直結する成果であり、今後の発展が期待されます。

本研究成果は2014年5月20日から東京大学で開催される組織工学に関する国際シンポジウムInternational Symposium on 3D Tissue Fabricationで発表されます。

研究の背景

ES細胞やiPS細胞を細胞源とした移植用の組織や臓器の作製に関しては、目的の細胞に効率よく分化させるための有望な方法が多数報告されています。一方で、目的のものに分化した細胞から組織や臓器を作ることに関しては、それらを構成する細胞へ酸素や栄養分を供給するためのライフラインとなる培養液を連続的に送液可能な血管網の構築が難しく、肝臓やすい臓のような厚みのある組織を生体外で作製しようとする場合の非常に大きな障壁となっていました。

研究の内容

研究グループは、血管が無くても酸素や栄養分が不足しない直径0.3ミリメートル程度の大きさの球状の組織を大量に作り、その一つ一つの表面に血管を構成する血管内皮細胞を層状に貼り付けました。それと同時に、直径が0.3ミリメートル程度のゲルのチューブ表面に血管内皮細胞を層状に成長させたものを用意しました(図1)。このゲルチューブをコラーゲンゲルに埋め込む際に、その周囲に球状の組織体を高い密度で配置したところ、それぞれの構造物の表面にあった血管内皮細胞が自発的に再配置し、血管内皮細胞が内表面を構成する管(直径0.01~0.05ミリメートル)がつながった毛細血管網に類似したネットワークを形成することを見出しました(図2)

その後、細胞に損傷を与えない穏和な条件のもとでゲルチューブを分解し、それにより生じたトンネル状(主管)の構造の部分に培養液を送液したところ、培養液は主管とつながった毛細血管網類似の細管ネットワーク内を流れ、主幹から離れた位置にある球状組織体にも酸素や栄養分を供給できることが明らかになりました(図3)。得られる構造体のイメージを木に例えると、「幹」がゲルチューブの分解により形成した主管、「枝」がその幹から伸びる毛細血管類似の細管、枝の先にある「葉」が球状組織ということになります。(下図参照)

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

機能的な組織を高い密度で含む構造体を作製するために必要な、培養液を連続的に送液できるネットワーク構造を再現できたことは、生体外で厚みのある組織や臓器を作ることにつながるものであり、組織・臓器の移植を必要としている患者数を考えると社会的にも非常に大きな意義を有していると考えられます。

特記事項

本研究成果は、International Symposium on 3D Tissue Fabrication(5月20日, 21日, 東京大学コンベンションホール)にて発表されます。本研究は日本学術振興会より助成を受けたものです。

参考図

図1 血管内皮細胞を外表面に層状に貼り付けた球状のヒト肝臓由来細胞組織(左)とゲルチューブ(右)。
右のゲルチューブをコラーゲンゲル中に埋め込んだあとに分解すると、トンネル状の構造ができる。

図2 コラーゲンゲルに埋め込んだ血管内皮細胞を外表面に層状に貼り付けた球状のヒト肝臓由来細胞組織表面から血管内皮細胞が自発的に形成した流路ネットワーク。

図3 写真中の入口より培養液を送液する前(左)、後(右)の構造体の写真。左図の黒い丸の物体はヒト肝臓由来細胞の塊。
直径約3マイクロメートルの粒子を含む培養液が血管内皮細胞が自発的に形成した流路ネットワークを流れていったため、送液後は広範囲が黒くみえる。なお、血管内皮細胞を外表面に貼り付けていないヒト肝臓由来細胞の塊を使った際には、粒子が広がっていく様子は見られなかった。

参考URL

大阪大学大学院基礎工学研究科 化学工学領域 生物プロセス工学講座 田谷研究室
http://www.cheng.es.osaka-u.ac.jp/tayalabo/home.html

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