口の遺伝子データベースから「口ができる」メカニズム解明へ

口の遺伝子データベースから「口ができる」メカニズム解明へ

口唇裂・口蓋裂など形成異常の予防・治療に光

2013-4-18

リリース概要

胎生期において、左右の突起が顔の正中で接着し、癒合することにより、口と顔の中心部が形成されることが知られています。大阪大学大学院歯学研究科の阪井教授らの研究グループは、マウスの口蓋が完成する前後の口蓋突起の遺伝子発現のデータベースを作成し、その中から強く発現する細胞接着因子CEACAM1を発見しました。CEACAM1の発現を抑制すると口蓋の癒合が阻害され、遺伝子を欠如させると口蓋癒合が遅れます。CEACAM1の発現は、TGF beta(Transforming growth factor beta)という増殖因子によって調節されており、口や顔面の形成における口蓋突起の初期接着に重要な働きをしていることが明らかになりました。この研究成果は、口唇裂・口蓋裂などの形成異常を予防・治療するための研究が進展すると期待されます。

研究の背景

大阪大学歯学部附属病院は、開設当初より、口唇裂・口蓋裂治療に関わっておりました。2013年4月には、「口唇裂・口蓋裂・口腔顔面成育治療センター」を新しく設置し、臨床・研究・教育を世界的に先導する機関として充実を図っています。

さらに、歯学研究科・歯学部・附属病院は、口腔領域の国際的な研究機関として「口の難病」プロジェクトを展開しています。口唇裂・口蓋裂は遺伝的要因と環境的要因によって発症し、日本国内においても600人に1人の割合で生じる難病の一つです。本研究は、口蓋が完成する機構を明らかにすることにより、口唇裂・口蓋裂の発症の予防法を確立することを目標としています。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

口や顔ができるメカニズムとして、細胞接着に注目した研究です。発生、ガンの浸潤・転移、免疫、再生を含めた様々な生物学的現象にとって、細胞接着は重要な役割を占めます。接着が破たんすると、口腔・顎顔面形成に支障をきたし、口唇裂・口蓋裂が発症し、言語・摂食・嚥下をはじめ、口腔・顔面領域に様々な機能障害をもたらします。本研究により、口や顔の発生時期における細胞接着に対する重要性が認識され、口唇裂・口蓋裂などの形成異常を予防・治療するための研究が進展すると期待されます。

特記事項

「Regulation of the Epithelial Adhesion Molecule CEACAM1 is Important for Palatal Formation」というタイトルでPLoS ONEに4月17日(水)午後5時(米国東部時間)に掲載予定です。

参考図

図1 正常に癒合したマウスの口蓋を示す。癒合部では、緑色の上皮組織は消失している。

図2 CEACAM1を欠如したマウスの口蓋癒合が阻害されている様子を示す。癒合が完成せず、緑色の上皮組織が残存している。

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