核融合炉・宇宙船に必要な機能材料を日米の大学で共同研究開始!

核融合炉・宇宙船に必要な機能材料を日米の大学で共同研究開始!

極限状態の科学をシステマチックに研究し、5年間でその成果を集約

2013-1-29

リリース概要

この度、大阪大学大学院工学研究科 電気電子情報工学専攻 高強度レーザー工学領域の羽原英明准教授(日本側代表)と米国Purdue University, Ahmed Hassanein教授(米国側代表)は、【レーザー及び磁場核融合炉に関する極限重相状態の科学】に関する共同研究を本格的に始動させます。キックオフ会議は、平成25年1月28日(月)(現地時間)に、Purdue Universityにおいて米国国立科学財団(National Science Foundation, NSF)からの担当者も参加し、関係者が一同に揃い、ワークショップ開催として実施されました。

本研究は、独立行政法人日本学術振興会(Japan Society for the Promotion of Science, JSPS)が国際共同研究教育パートナーシッププログラム(PIREプログラム)として採択した研究の一つです。PIREプログラムは学術研究活動のグローバルな展開に対応するために、海外の学術振興機関との連携のもと、我が国の大学等の優れた研究者が海外の研究者と協力して行う共同研究を推進するための事業であり、かつ国際的研鑽機会の充実を通じた若手研究者及び大学院生の育成を目的とした国際共同研究事業です。

当該共同研究は、5年間(2012-2017)にわたり実施し、アメリカ側では、ロシア、アイルランド、ドイツの大学及び研究機関との共同研究を含んでおり、極限状態における核エネルギーシステムと材料に関する教育・研究に関する一大国際共同研究教育パートナーシップが構成されることになります。

共同研究の背景

核融合炉の内部の壁や宇宙船の外壁は、プラズマ状態に曝された極限状態となります。こうした材料の耐力の向上は、設計上非常に重要な要因となります。本共同研究では、こうした極限状態を様々なレーザー装置を用いて実験室モデルでの研究を展開し、材料システムとしての耐力向上の条件を確立することをめざします。これにより、レーザーの高機能性を十分に活用することができ、格段の進展を図る事が可能となります。図は、炭素プラズマ同士の衝突をレーザー実験でモデル化したデータ像です。

このような二つのプラズマ流の衝突は核融合炉壁近傍で起こりえると想定されています。具体的には核融合炉壁に流れ込む高いエネルギー密度をもったプラズマと、プラズマ化した壁表面材料(プラズマ機能層)の衝突です。大阪大学では、この衝突によって壁に流れ込むプラズマの持つエネルギーが緩和され、壁の損傷を効率よく低減できる可能性について提案し、その原理実証に向けて実験的・理論的研究を行っています。最近の実験から、二つのプラズマ流の衝突によってプラズマの進行方向が曲げられ、衝突過程でエアロゾルが生成されることを明らかにしました。また、エアロゾルの中にカーボンナノチューブが含まれていることを発見しました。事前に想定した通りのプラズマ流同士が衝突していることを示す結果に加え、カーボンナノチューブや球状のエアロゾル形成によってプラズマの衝突効率が飛躍的に上昇することが明らかになりました。これにより、固体壁にプラズマ流が到達する前に、そのエネルギーがプラズマ機能層によって吸収されえることが実験的に示されました。この結果は、極限状態における固体の耐力向上の効率的な手法としてプラズマ機能層の利用が期待できることを示しています。このような極限環境下で利用可能な機能材料開発の重要性を共有し、このたび、この分野における専門家として大阪大学とPurdue大学日米双方の研究者が共同研究し、若手研究者、大学院生の国際的研鑽のプロジェクトを立ち上げることとなりました。米国側は、米国国立科学財団、日本側は、独立行政法人日本学術振興会が支援を行います。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

極限状態に曝される材料の耐力向上の条件を確立することは、核融合炉設計に加え、宇宙船等の設計のために非常に重要な目標です。本研究により、固体材料が損傷を受ける値を超えた熱負荷に耐えられる材料システム(材料とプラズマ機能層による熱負荷吸収機能)確立への筋道が明らかとされれば、極限環境下の材料開発は全く新しい次元を迎えることが期待されます。またこうした極限状態の科学は、これまでシステマチックには研究されてきませんでした。この分野を日米双方の国際共同研究で5年間集中的に進展させることは、我が国の科学技術向上のリーディングポジションを維持する上でも非常に重要となることでしょう。この共同研究において育成される若手研究者らは、将来さらに研究を発展させる際の重要な人材となります。最終的には、幅広い極限環境条件(物質が曝されるプラズマ密度や温度)において、衝突に伴うエネルギー授受能力を実験・理論・シミュレーションの多方面から突き止め、その機能発現への筋道を明らかにすることで、プラズマによる高耐力な材料システムに関する新しい学術体系を確立することをめざします。

5年間の研究計画

初年度:実験室規模のレーザーを用いることで生成されるプラズマの温度、密度などの特性評価を行います。特性評価済みのプラズマを次年度以降に極限環境を形成するための源として使用します。実験は大阪大学とPurdue大学の装置を用いて行います。

2年度:プラズマによる材料損傷とプラズマ機能層での熱負荷吸収の計測手法を確立し、プラズマ機能層による熱負荷吸収の様子を計測します。同時に、シミュレーションコードの開発を進めます。

3年度:プラズマ衝突に伴うエアロゾル形成の理解をすすめ、この効果を含めてプラズマ機能層での熱負荷吸収の最適条件を実験的に明らかにします。

4年度:より高いエネルギー密度プラズマに曝される環境を大規模な高エネルギーレーザー生成プラズマにより実現し、プラズマ機能層の働きを調べます。大型レーザー装置で生成される十分高温・高密度なプラズマとプラズマ機能層の相互作用では、放射損失による効果が無視できなくなると考えられ、実際の核融合炉環境に近い極限環境を模擬することができます。

5年度:実験的に得られた知見を含めた物理モデル、シミュレーション開発を行います。これらもとに、核融合炉や宇宙船が曝される極限環境における材料損傷およびその防御のためのプラズマ機能層の働きを調べる環境を整え、材料耐力向上のための筋道を明らかとすることをめざします。

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