2012年12月28日

リリース概要

大阪大学大学院生命機能研究科発生遺伝学研究室(濱田博司教授)は、このたび、体の左右非対称性の形成において、微小な水流が遺伝子産物の安定性をコントロールする結果、左右非対称な遺伝子発現が起こることを、マウスを使った実験により明らかにしました。胚発生期における体液の流れは、様々な局面で遺伝子発現をコントロールする事が知られていますが、水流という物理的な力を細胞内の遺伝子発現量へと伝達するメカニズムは大部分が未解明です。本研究は、体の左右が決まるしくみの全容解明に向けて大きな一歩となるとともに、体内の液体の流れを遺伝子発現に変換する機構の一部を明らかにしたものです。

本研究は、理化学研究所 望月敦史主任研究員、齋藤大助研究員、早稲田大学 高松敦子教授、Algarve大学(ポルトガル)との共同研究により行われました。

 

研究の背景と内容

私たちの体は、外見上は左右対称ですが、内臓臓器の形態と配置は左右非対称です。臓器の左右非対称性は、形態上対称である受精卵が、胚発生中になんらかの位置情報を獲得し、左右の対称性が破られることでつくられます。これまでマウスでは、受精後7.5日頃に現れるノードとよばれる組織において、個々の細胞がもつ繊毛の回転運動により生まれる、左向きの水流(ノード流;図1)が、左右対称性を崩す最初のイベントである事がわかっていましたが、水流の具体的な働き方は不明でした。

今回、本研究では水流の働き方を知るために、水流に反応してノードの左右で非対称性に発現する遺伝子Cerl2に注目し、そのメッセンジャーRNA (mRNA)を蛍光イメージングで観察しました。その結果、水流を受けるノード細胞の表面において、水流がCerl2 mRNAの崩壊を促進することで左右非対称性を作りだしていることが判りました(図2)。さらにトランスジェニック胚の解析を行う事により、Cerl2遺伝子の3'側非翻訳領域の塩基配列が、水流からのシグナルに反応している事を発見しました。また、水流が生じるCerl2 mRNAの左右非対称性は、最初は非常に小さく曖昧であるが、他の遺伝子であるWnt3が小さな左右非対称性を大きく安定なものへと増幅している事を、実験とコンピューターシミュレーションから明らかにしました。

 

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

体の左右が決まるしくみのメカニズムは、近年多くの研究により明らかになってきていますが、依然いくつかの重要な部分が未解明のまま残されています。今回はそのうちのひとつ、ノード流を遺伝子発現の非対称性へ変換する機構が明らかになり、左右決定の全容解明に向けた大きな一歩と言えます。

また、細胞が水流を感知し遺伝子発現量の変化を起こす現象は、ノードの細胞に限らず、血管細胞や尿細管細胞など、体の多くの細胞に観察されます。 今回の研究成果は、左右形成のしくみの理解にとどまらず、水流のシグナルを伴う様々な生理現象の理解と病態理解へとつながるものです。

 

特記事項

本研究成果は、平成24年12月28日(日本時間)にイギリス科学誌「Nature communications」で公開されます。

論文タイトル:Fluid Flow and Interlinked Feedback Loops Establish Left-Right Asymmetric Decay of Cerl2 mRNA

 

参考図

図1 受精後8日胚を走査電子顕微鏡により腹側から撮影した写真を示す。真ん中のくぼみがノードで、この表面で左向きのノード流が観察される(赤矢印)。


図2 ノード脇では水流の影響でCerl2が左右非対称に発現する(左のパネル、緑色に見えるのがCerl2のmRNA)(R,右;L,左)。ノードの各断面図を見ると(右のパネル)、左側の細胞表面付近ではCerl2 のmRNAが減少している事がわかる(黒抜き矢頭)。 右側の細胞では細胞表面と細胞内全体にCerl2 mRNAが存在する(白矢頭)。

 

参考URL

http://www.fbs.osaka-u.ac.jp/labs/hamada/

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