2012年9月14日

リリース概要

大阪大学大学院生命機能研究科発生遺伝学研究室の濱田博司教授らのグループでは、このたび、体の左右非対称性の形成において、繊毛をもつ細胞が繊毛を介して情報を伝達していることを、マウスを使った実験により明らかにしました。これは、体の左右が決まるしくみの全容解明に向けて大きな一歩となる成果です。

本研究は、Yale大学(アメリカ)、Algarve大学(ポルトガル)、Muenster大学(ドイツ)および埼玉大学脳科学融合センターの中井淳一教授、熊本大学発生医学研究所の佐々木洋教授、自然科学研究機構基礎生物学研究所の野中茂紀准教授との共同研究により行われました。

 

研究の背景と内容

私たちの体は外見上では左右対称ですが、内臓の形や配置などは左右非対称です。この体の左右非対称性は、まだ方向性をもたない受精卵が、胚発生により位置情報を獲得する過程において、左右の対称性が破られることで生じます。これまでマウスでは、受精後7.5日頃に現れるノード※1とよばれる組織に存在する繊毛が回転運動をし、それによって生じた左向きの水流(ノード流;【図1】)が、左右対称性を破るきっかけとなることがわかっていました。しかし、このノード流がどのような仕組みで受容されるかは不明でした。

本研究では、繊毛自身がノード流のセンサーであるという仮説に基づき、分子遺伝学などの手法を用いて、繊毛をつくるモータータンパクKif3a※2を欠損する変異マウスや、繊毛に存在するセンサー分子Pkd2※3を欠損したマウスを用いて、ノード流の作用機構の検証を行いました。その結果、繊毛を持たない変異マウスや、Pkd2が繊毛に存在できないマウスでは、ノード流が受容できなくなり左右が正しく決まらないことがわかりました【図2】。一方,ノード脇に繊毛が残っていれば、ノード流に反応しました。これらの結果は、ノード流がノードの脇にある繊毛によって受容されることを示唆します。

 

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

体の左右が決まるしくみの分子基盤について、近年当研究室や他の研究グループによる精力的な研究により多くが明らかになりましたが、依然いくつかの重要な部分が未解明のまま残されています。今回そのうちのひとつ、ノード流の受容機構の一端が明らかになり、左右決定の全容解明に向けて大きな一歩と言えます。

また、ノードの細胞に限らず多くの細胞は繊毛をもっていますが、近年この繊毛が生体において極めて重要な役割を果たしており、繊毛の機能が異常になることで様々な疾患が引き起こされることがわかってきています。今回の研究成果は、左右形成のしくみの理解にとどまらず、広く細胞機能の原理や医学研究においても大きなインパクトを与えうるものです。

 

特記事項

本研究成果は、平成24年9月13日(米国東部時間)に米国科学誌「サイエンス」のオンライン速報版で公開されます。
論文タイトル:Cilia at the node of mouse embryos sense fluid flow for left- right determination via Pkd2.

 

参考図

図1 受精後8日胚を走査電子顕微鏡により腹側から撮影した写真を示す。
真ん中のくぼみがノードで、この表面で左向きのノード流が観察される(赤矢印)。今回の研究で,ノードの脇にある繊毛が、ノード流を感知していることが判った。

図2 センサー分子Pkd2がノード繊毛に存在するとき(左上)、Nodal遺伝子が胚の左側で発現する(右上)。一方Pkd2が繊毛に存在しないとき(左下)は、発現せず左右が正しく決まらない(右下)。赤三角は繊毛、黒三角はノードの位置を示す。

 

用語解説

※1 ノード
胚発生の時期に一過的にあらわれる、胚の表面のくぼんだ組織。体の形成のシグナリングセンターとして働く。

※2 モータータンパクKif3a
微小管に沿って移動しながら様々な分子を運ぶタンパクのひとつで、繊毛の形成と維持に関わっている。

※3 センサー分子Pkd2
感覚受容に関わることが知られているチャネル分子のひとつ。腎臓細胞の繊毛にも存在し、正常な腎機能の維持に働くことがわかっている。

 

参考URL

http://www.fbs.osaka-u.ac.jp/labs/hamada/

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