\これまでにない形の高分子材料!/ 表と裏が別構造!?「二面性ラダーポリマー」を開発

\これまでにない形の高分子材料!/ 表と裏が別構造!?「二面性ラダーポリマー」を開発

キラリティを利用して向きをそろえる新しい高分子合成法とスピン選択機能

2026-9-11工学系
工学研究科招へい教員石割 文崇

研究成果のポイント

  • 主鎖に沿った面の表側と裏側で異なる化学構造を持つ「二面性ラダーポリマー」を開発し、高い耐熱性と自己集合性、さらに最大約90%のスピン選択性を実現
  • 分子のキラリティを利用することで、これまで困難だった重合時のモノマーの向き(表裏)をそろえながら重合する新しい高分子合成法に成功
  • 分子を規則的に配置するための超分子足場としての機能や、表裏に導入する化学構造を多様化することで、用途に応じて両面の機能を設計できる新しい高分子材料群への発展に期待

概要

大阪大学大学院工学研究科の大学院生の室谷一晴さん(博士後期課程)、石割文崇招へい教員(兼・東京都立大学 准教授)、佐伯昭紀 教授の研究グループは、主鎖に沿った面の表側と裏側で異なる化学構造を持つ「二面性ラダーポリマー」を開発しました。

ラダーポリマーは、主鎖がはしご状に連結された高分子であり、高い剛直性や耐熱性を示す材料として注目されています。一方、構成単位(モノマー)の表裏をそろえながら重合し、主鎖の両面に異なる化学構造を規則的に配置することは困難でした。

研究グループは、分子の右手・左手のような性質であるキラリティを利用することで、モノマーの向きをそろえながら重合する新しい合成法「キラリティ支援合成」を提案し、二面性ラダーポリマーの選択的な合成に成功しました。得られたポリマーは、分子同士が規則的に集まる自己集合性を示し、その自己集合構造は350°Cに加熱しても保持される高い熱安定性を示しました。さらに、キラルな二面性ラダーポリマーは、電子のスピンを選択的に通すCISS効果を示し、最大約90%という高いスピン選択性を発現しました。

本成果は、表と裏で異なる機能を担う高分子や、分子を規則的に配置する超分子足場、将来のスピントロニクス材料の設計につながる新しい高分子合成指針を示すものです。

本研究成果は、英国科学誌「Nature Communications」に、8月3日に公開されました。

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図1. 本研究の概要。ホモキラルな二面性モノマーを「キラリティ支援合成」により連結することで、A面とB面で異なる化学構造を持つ二面性ラダーポリマーを合成した。得られたポリマーは、らせん状に自己集合し、高い耐熱性とスピン選択性を示す。

研究の背景

高分子は、軽量性、加工性、柔軟性などの特徴を持つことから、日用品から電子材料まで幅広く利用されています。高分子はもともと、長い鎖がつながった「紐状の分子」として発展してきましたが、近年では、らせん状、環状、二次元・三次元状など、多様な形状を持つ高分子や分子集合体が開発されています。このような新しい形状の開拓は、従来の紐状高分子にはない物性や機能の発現につながり、材料科学に新たな展開をもたらしてきました。

その中でも、主鎖に沿って二本以上の結合で連結された「ラダーポリマー」は、はしご状の剛直な骨格を持つ特殊な高分子です。通常の高分子とは異なり、主鎖まわりの自由回転が抑えられるため、高い熱安定性や特徴的な電子・光学物性、自己集合性を示すことが期待されています。

一方、これまでに合成されてきたラダーポリマーの多くは、主鎖の表側と裏側に同じ化学構造を持つものでした。もし、表側と裏側に異なる構造を規則正しく配置できれば、両面に異なる相互作用や機能を持たせた、新しい高分子材料を設計できます。しかし、そのためには、表裏の向きを持つモノマーを、すべて同じ向きにそろえながら長くつなぐ必要があり、その実現は困難でした。

そこで研究グループは、分子の右手・左手に相当するキラリティを利用すれば、モノマーの向きを制御しながら重合できると考え、「二面性ラダーポリマー」の開発に取り組みました。

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図2. キラリティ支援合成の概念図。対称面を持つ非キラルな二面性モノマーでは、連結時の表裏の向きがランダムとなり、二面性ラダーポリマーは形成されない。一方、片方の鏡像体のみからなるキラルな二面性モノマーを幾何選択的に連結すると、モノマーの向きがそろい、二面性ラダーポリマーが形成される。互いに鏡像関係にあるモノマーからは、表裏が反転したラダーポリマーがそれぞれ得られる。

研究の内容

今回、研究グループは、表側と裏側に異なる置換基を持ち、さらに右手と左手のようなキラリティを有する二面性モノマーを設計しました。このモノマーを連結して前駆体となる高分子を合成した後、主鎖をはしご状に固定する反応を行うことで、「二面性ラダーポリマー」の合成に成功しました(図2)。

表裏のあるモノマーを通常の方法で連結すると、それぞれの向きが不規則になり、表側と裏側の構造がそろった高分子を得ることは困難です。実際、モノマーに対称面が存在する、すなわちキラルではない二面性モノマーでは、表裏のそろった二面性ラダーポリマーを合成することはできません。一方、対称面を持たないキラルな二面性モノマーについて、右手型または左手型のどちらか一方だけを用い、重合反応における幾何学的な制約を利用して連結していくと、モノマーの向きが自然にそろい、二面性ラダーポリマーが形成されます。研究グループは、この新しい合成戦略を「キラリティ支援合成(Chirality-Assisted Synthesis)」と名付けました。これは、表裏のあるレゴブロックを同じ向きにそろえて組み立てるように、分子のキラリティを手掛かりとして構成単位の向きを制御する方法です。この合成の考え方は、研究グループが公開したレゴブロックにより解説したYouTube動画(https://youtu.be/NvgQtiM-T8s)でも直感的に理解できます。

得られた二面性ラダーポリマー(図3a)は、溶液中や薄膜中で分子鎖同士が規則的に集まる自己集合性を示しました(図3b)。特に、キラリティがそろったポリマーでは明瞭なキラルな集合構造が形成され、この自己集合構造は350°Cに加熱した後も保持されました。このことから、剛直なラダー骨格を利用することで、非常に熱安定性の高い分子集合体を構築できることが示されました。さらに、薄膜における電子輸送を調べたところ、キラリティがそろった二面性ラダーポリマーは、電子のスピンを選択的に通すCISS効果を示し、最大約90%の高いスピン選択性を示しました(図3a,c)。この値は、研究グループがこれまでに開発したキラル二面性非ラダーポリマーやキラル電子輸送材料で得られた約70%のスピン選択性を上回るものでした(2024 年 9 月 13 日プレスリリース:https://resou.osaka-u.ac.jp/ja/research/2024/20240913_1)、(2025 年 11 月 12 日プレスリリース:https://resou.osaka-u.ac.jp/ja/research/2025/20251112_1)。

また、はしご状に固定する前の前駆体ポリマーと比較しても、ラダー化後にはスピン選択性が大きく向上しました。これらの結果は、分子のキラリティに加えて、剛直な主鎖構造と規則的な自己集合構造が、優れたスピン選択機能の発現に重要であることを示しています。

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図3. 二面性ラダーポリマーの自己集合構造とCISS特性. (a) これまでに研究グループが報告してきたキラル二面性物質のCISS効果によるスピン選択性のまとめ。キラル二面性物質のうち、ラダー構造を持つ二面性ラダーポリマーが最も高いスピン選択性を示した。(b) 二面性ラダーポリマーの自己集合構造とCISS効果の模式図。(c) ホモキラルな(S,S)体の二面性ラダーポリマー薄膜のCISS特性。最大約90%の高いスピン選択性を示した。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本研究では、主鎖の表側と裏側で異なる化学構造を持つ「二面性ラダーポリマー」という、これまでにない新しい形の高分子材料を合成することに成功しました。高分子材料の機能は、化学組成だけでなく、その形状や構造にも大きく左右されます。本成果は、分子のキラリティを利用して構成単位の向きをそろえることで、高分子の「表」と「裏」を設計するという新しい材料設計指針を示すものです。

また、得られた二面性ラダーポリマーは、規則的な自己集合構造を形成し、その構造を350°Cに加熱した後も保持しました。さらに、電子のスピンを選択的に通す高いCISS効果も示しました。今後、表側と裏側に異なる相互作用や機能を持たせることで、分子を規則的に配置する超分子足場、耐熱性機能材料、界面材料、スピントロニクス材料などへの展開が期待されます。

本成果は現時点では基礎研究段階ですが、新しい形の高分子をつくるための合成原理を示した点に意義があります。今後、表裏に導入する化学構造を多様化することで、用途に応じて両面の機能を設計できる新しい高分子材料群へ発展する可能性があります。

特記事項

本研究成果は、2026年8月3日(月)に英国科学誌「Nature Communications」に掲載されました。

タイトル:“Bifacial ladder polymers enabled by chirality-assisted synthesis that exhibit self-assembly and chirality-induced spin selectivity”
著者名:Fumitaka Ishiwari, Kazuharu Murotani, Akinori Saeki
DOI:10.1038/s41467-026-76059-5

なお、本研究は、JST戦略的創造研究推進事業 さきがけ「自在配列」JPMJPR21A2、CREST「未踏物質探索」JPMJCR23O2、ERATO 「山本量子キラル変換プロジェクト」JPMJER2503、JST創発的研究支援事業JPMJFR246J、JSPS 科研費 基盤研究B 23H02013、学術変革領域B「ラダーポリマー」研究JP25H01409、「超セラミックス」JP23H04626、などの一環として行われました。

参考URL

佐伯昭紀教授 研究者総覧
https://rd.iai.osaka-u.ac.jp/ja/9edffb14f50a9e1f.html

SDGsの目標

  • 09 産業と技術革新の基盤をつくろう

用語説明

ラダーポリマー

主鎖に沿って二本以上の結合で連結された、はしご状の剛直な骨格を持つ高分子。通常の高分子より主鎖の自由回転が抑えられるため、高い熱安定性や特徴的な電子・光学物性、自己集合性を示すことが期待される。

キラリティ

鏡に映した像が元の像と重なり合わない、右手と左手のような関係を「キラル」という。この性質を「キラリティ」と呼び、右手型と左手型の分子は互いに鏡像異性体である。どちらか一方の鏡像異性体だけからなる状態を「ホモキラル」という。

超分子足場

機能性分子を、位置や向きを制御しながら規則的に並べるための分子レベルの足場。分子単独では得にくい構造や機能を引き出すために利用される。

CISS効果

Chirality-Induced Spin Selectivity。キラルな分子や物質に、電子スピンの向きがランダムな電流を通過させると、キラルな分子や物質のスピンフィルター効果により、通過後にスピン偏極電流が得られる効果。スピントロニクス素子への応用の他に、酸素発生や酸素還元など様々な応用が検討されている。