半導体式ガスセンサのデバイス構造を一新
複数のガス種を同じ材料で検出。混合ガスセンサへの応用と実用化に期待
研究成果のポイント
- 2次元(2D)のグラフェンと、酸化物ナノ構造材料の3次元(3D)ネットワークを組み合わせたハイブリッドガスセンサを作ることで、同一ガス種に対して、まったく異なる信号の検出に成功
- 半導体式ガスセンサは、これまで、一種類の半導体材料で一種類のガス検出が限界であったが、このハイブリッドガスセンサにより、複数のガス種を同じ材料で検出可能
- さらに、このハイブリッドガスセンサは、通常の半導体式ガスセンサの抵抗値に比べて、〜1万分の1程度の電気抵抗値で稼働することを発見
- これらの技術を利用したデバイス構造へ展開することで、混合ガスセンサへの応用と実用化に期待
概要
京都工芸繊維大学 菅原 徹 教授(兼:大阪大学産業科学研究所 招へい教授)、大阪大学産業科学研究所 小野尭生助教、植村隆文准教授、金沢大学 辛川誠教授の研究グループは、(株)日本触媒、産業技術総合研究所 極限機能材料研究部門 申ウソク副研究部門長、伊藤敏雄主任研究員と協力し、2D材料のグラフェンと酸化物の3Dナノ構造ネットワークを複合した新しい構造の半導体式ガスセンサを開発し、世界で初めて同一ガス種に対してまったく異なる信号が検出できることを明らかにしました。さらに、このハイブリッドガスセンサの抵抗値は、通常の半導体式ガスセンサと比較して約1万分の1(〜4桁程度)小さい値を示しました。
これまで半導体式ガスセンサは、一種類の半導体材料で一種類のガスを検出していました。そのため、生体ガス(呼気や体臭)など、多くのガスが混合したガスの同時検出が非常に困難でした。
今回、研究グループは、2D材料のグラフェンと酸化物ナノ構造の3Dネットワークを、ハイブリッドした全く新しい構造のガスセンサを開発しました。このハイブリッドガスセンサは、同一ガス種に対してまったく異なる信号が検出されることを明らかにしました。つまり、このハイブリッドガスセンサは、複数のガス種を、同じ半導体材料で検出することができます。さらに、このハイブリッドガスセンサは、抵抗値の低い2D半導体材料を使用することで、半導体式ガスセンサの抵抗値を大幅(〜1万分の1程度)に低減することができました。
これらの発見により、さらに発展したガスセンサのデバイス構造を工夫することで、混合ガスセンサへの応用に期待されます。半導体式ガスセンサで混合ガスが検出できれば、小型のガスセンサシステムが構築できるため、携帯用やウェアラブル用の混合ガスセンサが実現できます。また、2D半導体材料の抵抗を非常に小さくすることができたため、さらに小型の混合ガスセンサ実現への期待が高くなります。
本研究成果は、米国科学誌「ACS Applied Engineering Materials」に、3月27日(月)0時(日本時間)に公開されました。
図1. (a)石英(SiO2)基板上に、グラフェン(2D)と酸化モリブデンMoOxナノロッド3Dネットワークが形成している電子顕微鏡像。 ハイブリッドセンサの(b)ガスセンシング特性と(c)デバイス構造の模式図(ガスセンシングのメカニズム)。(d)グラフェン半導体の電子構造。
研究の背景
ヘルスケアなどの観点から人間の生体情報を得るために、呼気や体臭など生体ガスに含まれる揮発性有機化合物 (VOC: Volatile Organic Compounds)ガスを検出する小型で持ち運べる混合センサが必要とされています。固体物質の半導体特性を利用した半導体式ガスセンサは、ナノ構造化することにより、大きな比表面積がセンサ感度を増大させなどの特殊な性能を付与することが可能で、菅原教授らの研究グループでも、ナノ構造材料をもちいた半導体ガスセンサにおいて、センシング応答特性の高い(反応速度が速い)デバイスを開発し報告してきました(https://resou.osaka-u.ac.jp/ja/research/2016/20160715_2)。
一方で、これまで半導体式ガスセンサは、一種類の半導体材料で一種類のガスの検出が限界でした。そのため、生体ガス(呼気や体臭)など、100種類を超える多くのガス種が混合したガスを同時に検出するには、複数の材料や、複数のシステムが組み合せて構成された複雑かつ巨大なデバイスとなり、携帯性やウェアラブル性を妨げる問題点がありました。さらに、一般的な(酸化物)半導体式ガスセンサは、酸化物半導体材料が利用されており抵抗値が大きく、この点でもガスセンサデバイスが大型化する傾向がありました。
研究の内容
菅原徹教授らの研究グループは、キャリア伝導層に高移動度材料のグラフェン(2D材料)と、ガスに対して反応速度が速い酸化物の3Dナノ構造ネットワークをハイブリッドし、これまでの半導体式ガスセンサのデバイス構造を一新する構造の半導体式ガスセンサ(ハイブリッドガスセンサ)を開発しました。
このハイブリッドガスセンサは、キャリア伝導層に高移動度材料のグラフェンが採用されているため、これまで開発したガスセンサの高い反応速度を維持したまま、抵抗値が、通常の半導体式ガスセンサと比較して約1万分の1(〜4桁程度)小さい値を示しました。また、図2で示したように、このハイブリッドガスセンサは、世界で初めて同一のガス種に対して、まったく逆向きの反応を示しました。従来型の半導体式ガスセンサはマイナスに反応しますが、このハイブリッドガスセンサは、同一ガス種に対して、プラスに反応しました。つまり、同一ガス種をまったく異なる信号で検出できることを明らかにしました。
図2. (a-1)従来の酸化モリブデンMoOxナノロッド3Dネットワークガスセンサと(a-1)そのガスセンシング特性。(b-1) グラフェン(2D)と酸化モリブデンMoOxナノロッド3Dネットワークのハイブリッドセンサのデバイス構造と(b-2)ガスセンシング特性。
本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)
本研究成果により、ガスセンサのデバイス構造を工夫発展することで、複数種類のガスが混合した混合ガスを同時に検出できる混合センサへの応用が期待されます。半導体式ガスセンサで混合ガスが検出できれば、混合された複数のガス種をそれぞれ分離することなく同時検出できる小型のガスセンサシステムが構築できます。つまり、ヘルスケア用の混合ガスセンサが携帯型やウェアラブル型で実現できます。また、本研究の成果を用いることで、ガスセンサデバイスの抵抗値を大幅に小さくすることができたため、超小型の混合ガスセンサの実現への期待が高まりました。
特記事項
本研究成果は、2023年3月27日(月)0時(日本時間)に米国科学誌「ACS Applied Engineering Materials」(オンライン)に掲載されました。
タイトル:“Carrier-type switching with gas detection using a low impedance hybrid sensor of 2D graphene layer and MoOx nanorod 3D network”
著者名:Tohru Sugahara, Yukiko Hirose, Jun-ichi Nakamura, Takao Ono, Takafumi Uemura, Makoto Karakawa, Toshio Itoh, Woosuck Shin, Yang Yang, Nobuyuki Harada, and Katsuaki Suganuma
DOI:10.1021/acsaenm.2c00178
なお、本研究は、科研費基盤B(21H01638) JST 戦略的創造研究推進事業CREST(JP MJCR19J1)、JSPS二国間交流事業(共同研究)(JPJSBP120227406)、MEXTダイナミックアライアンス-人・環境と物質をつなぐイノベーション創出-、物質・デバイス領域共同研究拠点、村田学術振興財団などの支援を得て行われました。
参考URL
京都工芸繊維大学 菅原 徹 教授 研究室
https://kit-sugahara-lab.net
用語説明
- 半導体式ガスセンサ
酸化物など材料の酸化還元状態によって、抵抗値が増減する現象を利用したガスセンサの総称。
- 揮発性有機化合物
常温常圧で大気中へ容易に揮発する有機物質の総称。例えば、エタノールやメタノール、アセトンなど。
- センシング応答特性
ガスを検出するまでの応答時間と検出後元の状態に戻るまでの回復時間。