助け合いで障害物を乗り越えろ! サイボーグ昆虫が群れとなって協調移動する 制御アルゴリズムを新開発

助け合いで障害物を乗り越えろ! サイボーグ昆虫が群れとなって協調移動する 制御アルゴリズムを新開発

2025-1-6工学系
情報科学研究科教授若宮直紀

研究成果のポイント

  • サイボーグ昆虫」の動きを制御する新しい制御アルゴリズムを開発。
  • 生物としての自然な振る舞いを活かした新アルゴリズムにより、サイボーグ昆虫が助け合いながら障害物の多い砂地を移動してゴールに到達することが可能に。
  • 障害物が多い災害救助現場、環境モニタリング、インフラ点検など、さまざまな分野での応用に期待。

概要

大阪大学大学院情報科学研究科若宮直紀教授、小蔵正輝准教授(現、広島大学大学院先進理工系科学研究科教授)、Nanyang Technological University, Singapore (NTU Singapore)佐藤裕崇教授らからなる日本・シンガポールの国際共同研究グループは、「サイボーグ昆虫」について、障害物が多く移動が困難な地形を群れとなって協調しスムーズに移動させるため、新しい制御アルゴリズムを開発しました。

サイボーグ昆虫は昆虫に小型の電子装置を取り付けたもので、災害時の救助活動、環境モニタリング、インフラ点検などさまざまな分野での活躍が期待されています。これまではサイボーグ昆虫の一匹一匹に対して個別に指示を与える必要があり、多数からなる群れを協調動作させるには非効率で不安定でした。

本研究では、複数のサイボーグ昆虫が、一匹のリーダーサイボーグに従って群れ移動するための制御アルゴリズムを開発し、リーダーに指示を与えるだけで障害物の多い砂地を自由自在に群れとして移動させられるようにしました。提案した制御アルゴリズムは、サイボーグ昆虫の群れが人を助け社会で活躍するための基盤を築くものです。今後、障害物が多い災害救助現場、環境モニタリング、インフラ点検など、さまざまな分野での応用が期待されます。

本研究成果はNature Communicationsのオンライン版に2025年1月6日付で掲載されました。

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図1. 複数のサイボーグ昆虫が、一匹のリーダーサイボーグに従って群れ移動するイメージ図

研究の背景

災害時における迅速な救助活動や環境のモニタリング、都市インフラの点検など様々な場面でロボットの活用が求められています。しかし、従来のロボットは大きくて動きが制限されていたり、電池の持ちが悪かったりするため、狭い場所や複雑な地形での長時間の作業が難しいという課題がありました。そこで小型で自由に動き回ることの出来る昆虫に小型の電子装置を取り付けた「サイボーグ昆虫」の活躍が期待されています。しかし従来の制御アルゴリズムでは、一匹一匹のサイボーグ昆虫に対して個別に詳細で複雑な指示を与える必要があるため、多数のサイボーグ昆虫による協調動作を複雑な環境下で実現することは困難でした。そこで、多数のサイボーグ昆虫が群れとなって協調動作するための簡易で柔軟な新しい制御アルゴリズムが必要とされていました。

研究の内容

研究グループは、ツアー旅行でガイドが最小限の指示によって参加者を導く様子に着想を得て、サイボーグ昆虫(フォロワー)達がリーダーの役割を果たす一匹のサイボーグ昆虫に誘導されることで、群れとなってゴールを目指すアルゴリズムを開発しました。それぞれのサイボーグ昆虫はロボットのように完全に制御されているのではなく、多くの場合、自由に動いていますが、制御アルゴリズムによってリーダーや他のフォロワーからはぐれないように時々移動する方向を変えます。

開発した制御アルゴリズムを電子装置に組み込み、マダガスカルゴキブリを用いてサイボーグ昆虫の実証実験を行いました。通常の小型ロボットには移動の難しい、砂地に障害物や丘がある環境において、群れとなって移動しゴールに到達する様子を確認しました。提案した制御アルゴリズムにより、制御の回数を半分程度に抑えてサイボーグ昆虫を自由に行動させることで、複雑な地形を柔軟に移動できるだけでなく、従来のアルゴリズムにおいて問題であったマダガスカルゴキブリ同士の「もつれ」を解消することができました。

また、制御アルゴリズムに組み込まれたサイボーグ昆虫間の相互作用の仕組みにより、困難な状況に陥ったサイボーグ昆虫を別のサイボーグ昆虫が助ける様子が確認されました。例えばあるサイボーグ昆虫が障害物に引っかかった際に、他のサイボーグ昆虫がそこから距離を置いて移動することで、群れ全体が障害物を効果的に回避するだけでなく、引っかかったサイボーグを助けて脱出させることができました。また、転倒したサイボーグ昆虫を他のサイボーグ昆虫が押して回復させる様子も確認されました。

さらに、このアルゴリズムはそれぞれのサイボーグ昆虫について、周囲の状況にもとづき動きが自動的に制御されるため、集中管理も必要としません。

これらの成果により、提案した制御アルゴリズムでは、昆虫が生まれながらに持つ自然な動きを活用することで、高い柔軟性と効率性をもつサイボーグ昆虫の群れを実現することができました。

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図2. 実際の実験の様子。手前がリーダーとなるサイボーグ昆虫

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本研究成果により、災害救助、環境モニタリング、インフラ点検など様々な分野において、サイボーグ昆虫が人と協働、活動することで、私たちの暮らしがより安心、安全になることが期待されます。

特記事項

本研究成果は、2025年1月6日(月)19時(日本時間)に学術雑誌「Nature Communications」(オンライン)に掲載されました。

タイトル:“Swarm navigation of cyborg-insects in unknown obstructed soft terrain”
著者名:Yang Bai, Phuoc Thanh Tran Ngoc, Huu Duoc Nguyen, Duc Long Le, Quang Huy Ha, Kazuki Kai, Yu Xiang See To, Yaosheng Deng, Jie Song, Naoki Wakamiya, Hirotaka Sato, and Masaki Ogura
DOI:https://doi.org/10.1038/s41467-024-55197-8

なお、本研究は、JSTムーンショット型研究開発事業JPMJMS223Aの支援により行われました。

参考URL

若宮直紀教授 研究者総覧
https://rd.iai.osaka-u.ac.jp/ja/26646e98f297753c.html

SDGsの目標

  • 08 働きがいも経済成長も
  • 09 産業と技術革新の基盤をつくろう
  • 11 住み続けられるまちづくりを

用語説明

サイボーグ昆虫

マダガスカルゴキブリなどの昆虫に小型の電子装置(CPU、センサ、移動制御デバイス、無線通信機、電池など)を取り付けることで、昆虫の能力を活かしつつ、移動方向などの制御を可能にしたもの。

制御アルゴリズム

小型電子装置に搭載されたプログラム。普段は移動制御しないことで昆虫に自由に行動させ、周囲に仲間があまりいない時にはリーダーやフォロワーのいる方向に向かわせることで群れを作り、ゴールに向かわせる。