6G通信実用化に貢献、高耐熱性ポリイミドフィルムを活用した 高周波伝送向け電子回路基板を東洋紡株式会社と共同開発
第38回エレクトロニクス実装学会春季講演大会「優秀賞」受賞
概要
大阪大学大学院工学研究科附属精密工学研究センター 大久保雄司准教授、山村和也教授らの研究グループは、東洋紡株式会社(所在地:大阪市、代表取締役社長:竹内郁夫)との共同研究により、6G通信の実用化に貢献する、高耐熱性ポリイミドフィルム「ゼノマックス®」(図1)とフッ素樹脂であるポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を直接接着した高周波伝送向けの電子回路基板(図2)を開発しました。
本件の成果について、2024年3月に開催された、一般社団法人エレクトロニクス実装学会(以下「エレクトロニクス実装学会」)が主催する「第38回 エレクトロニクス実装学会 春季講演大会」で口頭発表し、「優秀賞」を受賞しました。
図1. 高耐熱性ポリイミドフィルム「ゼノマックス®」
※「ゼノマックス」は東洋紡の登録商標です。
図2. 開発した高周波伝送向け電子回路基板の構成
研究の背景
次世代の通信技術として2030年代の実用化に向け研究開発が進む6G通信では、IoTを活用した無人工場やAIが車両を制御する完全自動運転、仮想現実(VR)空間におけるテレワークなど、超高速・大容量通信による新たなデジタル社会、インフラ、サービスなどの実現が期待されます。最大1,000Gbpsを超える高速通信と超低遅延が特徴の6G通信において不可欠となるのは、通信技術の高度化を支える高周波伝送に対応可能な機器の開発です。機器に搭載する電子回路基板には、高周波信号の伝送損失が少ない材料(低損失材料)としてフッ素樹脂が用いられるのが一般的ですが、その中でもPTFEが最も優れた特性を有します。PTFEは加熱により膨張し易い性質を持つため、電子回路基板形成時などの熱処理の際の膨張を抑えるための補強材として、従来は寸法安定性に優れるガラスクロスが用いられてきましたが、5G・6Gと通信の高速化に伴い、スマートフォンなど小型の通信機器で回路の高密度化が更に進展するため、ガラスクロスよりも薄く、均一な厚さの補強材が求められています。
研究の内容・本研究成果の意義
本共同研究では、他の材料との接着が非常に困難なPTFEの補強材として「ゼノマックス®」を用いるため、大久保雄司准教授らの研究グループが開発した、PTFEの表面粗さを増加することなく接着性を向上させる特殊プラズマ処理技術と、東洋紡株式会社の低線膨張係数(Coefficient of Thermal Expansion:CTE)かつ高耐熱性のポリイミドフィルム「ゼノマックス®」を応用し、両者の技術の融合により伝送損失の低減と寸法安定性を実現した、6G通信向け電子回路基板の開発に成功しました。
特記事項
本共同研究の成果について、2024年3月開催の「第38回 エレクトロニクス実装学会 春季講演大会」において、テーマ名「PTFEと低CTEポリイミドの直接接着法および低伝送損失基板の開発」として口頭発表(一般講演)を行い、100件を超える発表の中から、実用性が高く特に優れた取り組みとして「優秀賞」を受賞し、2024年9月12日に大同大学(名古屋市)で開催された授賞式において表彰されました。
エレクトロニクス実装学会(所在地:東京都杉並区、会長:藤崎晃氏)は、1998年に発足した国内最大級のエレクトロニクス実装技術に関わる学会です。学界・産業界の第一線で活躍する約2,400名の研究者および技術者で構成され、日本のエレクトロニクス産業のコア技術である実装技術に関する研究開発の発展や技術者の育成を目的として活動しており、毎年春と秋には、全国から最新の実装技術の研究成果を集めた講演大会を主催しています。
■第38回エレクトロニクス実装学会春季講演大会 口頭発表 優秀賞 受賞者:
(東洋紡株式会社 フイルム新事業開発総括部)土屋俊之、小野光登里
(大阪大学 大学院工学研究科 附属精密工学研究センター)梶丸大希、山村和也、大久保雄司/計5名
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SDGsの目標
用語説明
- フッ素樹脂
フッ素と炭素が主成分のプラスチックです。化学的に不活性で、表面エネルギーが極めて低い材料です。水や油を弾き、汚れが極めて付着しにくいので、現在はほとんどのフライパンにフッ素樹脂(通称:テフロンTM)がコーティングされています。長所が短所にもなり、接着性が極めて悪く、他の材料と組み合わせて使用することが難しいため、用途が限定されています。代表的なフッ素樹脂として、白色で不透明なPTFE(polytetrafluoroethylene)や高い透明性を有するPFA(tetrafluoroethylene–perfluoroalkylvinylether copolymer)等があります。
- 6G通信
GはGenerationの頭文字であり、第6世代の通信システムのことです。世代が進むについて、周波数帯が増加しており、より高速に、より大容量に、より低遅延で、より同時接続数を増やすことが可能になります。
- IoT
あらゆるモノがインターネットを介して人と繋がることを意味します。今までインターネットに繋がっていなかったあらゆるモノがインターネットを介して人と繋がることで、人が遠隔でモノ操作(ON・OFFなど)ができるようになったり、遠隔でモノの状態を知ることができるようになったり、遠隔で大量の情報を集めたりすることが可能になります。ただし、モノやセンサーの数が増加すればするほど、扱う情報量が多くなりますから、通信速度を増加する技術・伝送損失を低減する技術・大容量データを保存する技術・高速でデータを解析する技術などが今後さらに重要となります。
- 伝送損失
減衰量を表す値です。電気・光・音などの信号は、入力時の信号と受信側が受け取るまでに信号が減衰します。この減衰量を表す数値が伝送損失です。伝送損失の単位は[dB](読み方:デシベル)ですが、伝送損失は長さに比例するため、単位長さ当たりの伝送損失[dB/m]で表されるのが一般的です。プリント配線板では入力電力P1に対して出力される電力P2を測定し、その電力比を10を底とした対数10log(P2/P1)で表します。伝送損失(マイナスの値)が小さいほど信号のロスが小さいことを意味しますので、優れたプリント配線板ということになります。
- 寸法安定性
温度の変化に対して物質(材料)の寸法(サイズ)の変化が起こりにくい性質のことです。
- 実装技術
半導体や電子部品などをプリント配線板などにはんだなどの接合材料で電気配線と固定を兼ねた接続を行い、筐体の中に収納することにより,目的の性能をもった電子機器を作る技術のことです。https://jiep.or.jp/old/publish/journal/pdf/93/93f.pdfより引用。