「ねんねナビ®️」にAIを搭載! 子どもの眠り改善に向け、家庭に応じたアドバイスを自動で

「ねんねナビ®️」にAIを搭載! 子どもの眠り改善に向け、家庭に応じたアドバイスを自動で

弘前市での実証実験で有用性を確認

2024-4-15社会科学系
連合小児発達学研究科准教授毛利育子

研究成果のポイント

  • 近年の日本では、睡眠の問題を持つ幼児は多いものの、相談に対応できる専門家が少なく、適切な指導が行き渡らないという課題がある。大阪大学大学院連合小児発達学研究科の研究グループは、幼児の睡眠改善アドバイスアプリ「ねんねナビ®️」を2017年9月に開発し、東大阪市などで実証実験を行いその有効性を確認してきた。
  • 今回、より多くの家庭に的確なアドバイスを送信するために、アプリにAI技術を導入し、家庭に応じたアドバイス・励ましのメッセージを自動的に送信するシステムを開発。
  • 青森県弘前市にてAI指導アプリの社会実装を行い、高いアドヒアランス(継続率)と有用性を確認。アプリを使用した養育者から、子どもの睡眠改善により育児負担が軽減したとの声が多く聞かれた。
  • 今後、本邦の子どもの睡眠の改善と子育て支援に資するツールとしての活用に期待。

概要

大阪大学大学院連合小児発達学研究科の毛利育子 准教授、谷池雅子 特任教授(常勤)らの研究グループは、研究グループが開発した双方向性睡眠啓発アプリ「ねんねナビ®️」の指導システムにAI技術を導入し、弘前大学大学院保健学研究科の斉藤まなぶ教授らと協力して弘前市にて社会実証を行っています(2022年9月~実施中)。

アプリによる指導にAI技術を導入したことにより、各家庭の状態に応じたスモールステップの睡眠習慣改善のアドバイスを自動的に送るとともに、育児を労うメッセージを継続的に送って養育者をエンパワメントし、子育てに伴走する支援システムを実現しました。

2023年12月時点で25家庭が利用期間を終え、介入中に明らかなドロップアウトは見られず十分なアドヒアランス(継続性)を確認しました。さらに、AIの指導への家庭の感想として「子どもの睡眠の悩みが改善した」「寝かしつけに困らなくなり、子どもにイライラすること・大きい声を出すことが減った」「アプリから励ましや気遣いのメッセージをもらえて、育児の孤独感が減った」といった声が寄せられました。

今後は継続率に加えて、さらにデータ取得を進めて介入の効果を検証します。

本アプリは既に国内の自治体の市民向けサービスとして運用されており、今後も自治体や企業・医療機関等へ導入を進めていきます。子どもの睡眠習慣を改善し、家庭機能を高めることにより健やかな子どもの発達をサポートします。

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図1. ねんねナビ®︎の概要

研究の背景

睡眠は心身をリフレッシュさせ健康を維持するのに欠かせない生理機能です。さらに近年、乳幼児期の睡眠の問題が後年の発達に悪影響をもたらす可能性が危険視されています。

ところが日本の子どもの睡眠時間は世界一短いとされています。さらに小児睡眠の専門家が非常に少ないということ、また共働き家庭が多い近年では面談による指導が難しいという課題がありました。

研究グループでは、2014年からスマートフォンを用いた双方向性睡眠啓発アプリ「ねんねナビ®️」を開発し、2017年から弘前市を含む国内4自治体にて社会実装を実施し、有用性を確認してきました。

このアプリは、家庭の実情に合わせたスモールステップのアドバイスを複数送信し、その中から養育者が1つを選んで実行するという養育者ファーストのアプリとして開発しました。単に科学的に妥当なアドバイスを一方的に送信するのではなく、子育てに長期的に伴走するスタイルを採用しており、養育者のエンパワメントに特化した睡眠支援ツールとしては世界で最初のものです。自治体での半年間の介入におけるドロップアウト率は0%と極めて少なく、睡眠リズムの改善や寝つきがよくなるなどの睡眠習慣上の改善が認められたのに加え、睡眠の改善を通して「育児に自信が持てるようになった」という声が多数ありました。

研究の内容

より多くの家庭をサポートするため、AI開発の専門家として大阪大学産業科学研究所の駒谷和範教授の指導のもと、谷池特任教授(常勤)のグループにより指導システムにAI技術を導入し、家庭に応じて調節された助言が自動的に抽出されるシステムを開発しました(図1)。

そして、2022年9月より、以前からアプリの社会実装に協力してきた弘前大学斉藤まなぶ教授と共同で、指導にAI技術を導入したアプリの社会実装を弘前市にてスタートしました。これまで34家庭が研究に参加し、26家庭が使用期間を完了しており、明らかなドロップアウトは見られていません。また、AI技術に基づく指導下でも約8割の家庭が「子どもの睡眠に改善がみられた」と回答し、約6割の家庭が「寝かしつけがしやすくなった」、約半数の家庭が「子育てがしやすくなった」と回答するなど、専門家による指導時と大きく変わらない有用性が報告されています(図2)。

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図2. 弘前市でAI指導アプリを用いたユーザーの感想

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

家庭への支援にAI技術を導入したアプリを活用することで、日本の幼児がぐっすり眠る習慣ができ、情緒が安定した落ち着きのある子どもが増えることが期待できます。さらに、育児中で忙しい養育者自身に対しても、よく眠り、健やかに安心して子育てできるよう支援することが可能になります。

特記事項

本研究は弘前市の協力を得て実施されました。本研究成果は、JSPS科研費(JP22H00987, JP20K02675)、JST大阪大学COI拠点・国立研究開発法人情報通信研究機構の委託研究により得られたものです。

参考URL

毛利育子准教授 研究者総覧
https://rd.iai.osaka-u.ac.jp/ja/4a75254563ecbf3e.html