「子どもの睡眠の改善」と「養育者が育児に自信」も。 双方向性睡眠啓発アプリによる1年間の睡眠指導で実証

「子どもの睡眠の改善」と「養育者が育児に自信」も。 双方向性睡眠啓発アプリによる1年間の睡眠指導で実証

家庭に届いた専門的なアドバイス

2023-3-10生命科学・医学系
連合小児発達学研究科教授谷池雅子

研究成果のポイント

  • 研究グループが開発した各家庭に合ったアドバイスで幼児の睡眠を改善させるアプリで、東大阪市にて幼児の養育者へ1年間の睡眠指導を行った。
  • アプリを用いた指導で、幼児の睡眠習慣を改善できること、また、養育者の子育て支援にも役立つことを示した。
  • 睡眠の問題を持つ幼児は多いものの、小児睡眠の専門家は少なく十分な指導ができなかったが、アプリを使うことで一度に多くの養育者にアドバイス可能となったことを示した。
  • 睡眠リズムを改善することで、子どもの発達(大人に対する社会的なやり取り)も伸びる可能性を示した。
  • 日本の幼児の睡眠をよくすることを通じて育児を支え、よりよい発達軌跡となることが期待される。

概要

大阪大学大学院連合小児発達学研究科の吉崎亜里香招へい教員、毛利育子准教授、谷池雅子教授らの研究グループは、研究グループが開発した双方向性睡眠啓発アプリを用いた東大阪市での社会実証で、1年間の睡眠指導を行い、幼児の睡眠習慣を改善できることを確認しました。

これまで幼児の睡眠は、後年の発達を支えるためにも重要と考えられており、海外では指導型のアプリも開発されています。

また、今回、谷池教授らの研究グループは、各家庭に沿ったスモールステップの睡眠習慣の改善のアドバイスが、同時に養育者の子育て効力感を高めることも解明しました。このアプリによって、子どもの睡眠習慣を改善し、家庭機能を高めることにより健やかな子どもの発達をサポートします。

本研究成果は、米国科学誌「JMIR mHealth and uHealth」に、2月10日に公開されました。

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図1. ねんねナビ®

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図2. 介入デザイン

研究の背景

睡眠は心身をリフレッシュさせ健康を維持するのに欠かせない生理機能です。さらに近年、乳幼児期の睡眠の問題は、後年の発達に悪影響をもたらすことが報告されていています。ところが日本の子どもの睡眠時間は世界一短いという課題がありました。さらに小児睡眠の専門家が非常に少ないということ、また、共働き家庭が多い日本においては面談による指導が難しいという問題がありました。

研究の内容

谷池教授らの研究グループでは、普及がめざましいスマートフォンを用いた双方向性睡眠啓発アプリ「ねんねナビ®️」を開発し、東大阪市において36名のご家庭に1年間の睡眠指導を行いました(2017年9月~2019年4月に社会実証を実施)。このアプリは、家庭の実情に合わせてスモールステップでアドバイスを複数送信し、その中から養育者が1つを選んで実行するという養育者ファーストのものとして開発しました。単に科学的に妥当なアドバイスをする類似のアプリは世界でもありますが、養育者のエンパワメントにも考慮したものとしては世界で最初のものです。実際、東大阪市での1年間での介入で、ドロップアウトは8%と極めて少なく、起床時刻が早まる、寝つきがよくなるなどの睡眠習慣上の改善が認められたのに加えて、育児に自信が出たという声が多数ありました。さらに、睡眠リズムが一定した子どもでは、大人に対する社会的なやり取りに伸びが認められました。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本研究成果により、アプリを活用し、専門家からの睡眠改善のアドバイスを養育者が受け取ることで、日本の幼児がぐっすり眠る習慣ができ、情緒が安定した落ち着きのある子どもが増えることが期待できます。さらに、養育者が子育てに自信を持ち、子どもとの健全な愛着関係を築くことにより、後年の精神的な問題を予防します。

特記事項

本研究成果は、2023年2月10日に米国科学誌「JMIR mHealth and uHealth」(オンライン)に掲載されました。

タイトル:“Improving Children’s Sleep Habits Using an Interactive Smartphone App: Community-Based Intervention Study”
著者名:Yoshizaki A, Murata E, Yamamoto T, Fujisawa TX, Hanaie R, Hirata I, Matsumoto S, Mohri I, and Taniike M.
DOI:https://mhealth.jmir.org/2023/1/e40836

なお、本研究は、JST大阪大学COI拠点の一環として行われ、東大阪市の協力を得て行われました。

参考URL

谷池雅子 教授 研究者総覧URL
https://rd.iai.osaka-u.ac.jp/ja/7571a478d614c68c.html