幼児期早期の規則正しい睡眠が社会性発達や脳機能と関連する
研究成果のポイント
概要
大阪大学大学院連合小児発達学研究科の岩谷祥子助教、毛利育子准教授、下野九理子教授、谷池雅子特任教授(常勤)らの研究グループは、視線計測や脳波測定を行い、幼児期の不規則な睡眠が社会性発達や脳機能に影響を与えうることを確認しました。
これまで幼児の睡眠は、後年の発達に影響するという報告はあるものの、その神経基盤の解明はされていませんでした。今回、研究グループは、社会性の発達の指標となる「人と幾何学模様を提示する実験」を行った際、夜間の睡眠時間のばらつきが大きい幼児期の子どもは人を見る割合が少ないことや、1日の睡眠時間が短い子どもは脳活動に変化があることを解明しました。
子どもにとって規則正しい睡眠が発達にとって大切であることを示すエビデンスになると考えられます。
図1. 子どもが保護者の膝の上に座り、電極キャップをかぶって動画を見ている時に視線と脳波を測定する
図2. モニターに提示された図の一例。 画像上の点は注視点を示す。左:人の顔、右:幾何学模様
図3. 総時間睡眠のばらつきと、人を見る割合の関連
図4. 総睡眠時間と右脳の中心部-頭頂部のコヒーレンス(同期性)の関連
研究の背景
日本では、小児の就床時刻が遅く睡眠時間が短いことが指摘されており、幼児期の睡眠習慣の改善が課題となっています。今までの研究では、乳幼児期の短時間睡眠や頻回の夜間中途覚醒が、社会性や言葉の発達、後年の多動衝動性や情緒障害と関連することが指摘されています。しかし、幼児期早期の睡眠不良が問題行動や認知機能に影響していることを示す神経基盤については、ほとんど解明されていません。
研究の内容
1歳6か月から2歳の幼児を対象に、社会性発達や脳機能発達の客観的なツールである視線計測装置や脳波検査を用いて、幼児期早期の睡眠と発達の関連性を調べました(図1)。
研究グループは人の顔と幾何学模様を提示した時の視線計測と脳波測定を同時に行いました。視線の計測では、人の顔に対する注視率が高いほど社会性の発達が良好であると判断されます。計測の結果、人の顔に対する注視率は睡眠時間や就床時刻の不規則性と関連を示し、睡眠が不規則な程、人を見る割合が低くなりました(図2, 3)。
次に、脳波解析を行いました。その結果、右脳の中心部と頭頂部の脳の同期性(コヒーレンス:機能的結合の強さ)と総睡眠時間は負の相関を示しました(図4)。全体的にみると、夜間の睡眠時間のばらつきが認知機能やコミュニケーション能力、人の顔に対する注視率と関連性が認められ、総睡眠時間は脳機能と関連することが示唆されました。
これらの結果から、不規則な睡眠と、認知機能やコミュニケーション力の間に関連性が認められました。
本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)
本研究成果により、幼児期の規則正しい睡眠習慣が、子どもの社会性発達や認知機能を促進し、より良い社会適応を促す可能性が示唆されました。睡眠習慣は生活習慣と関連します。養育者に規則正しい睡眠の重要性を知ってもらい、子どもに良い睡眠習慣を持ってもらうことで、子どものより良い発達を期待することができます。
特記事項
本研究成果は、2024年10月11日に「Sleep Medicine」に掲載されました。
タイトル:“Regular sleep habits in toddlers are associated with social development and brain coherence”
著者名:Yoshiko Iwatani, Kuriko Kagitani-Shimono, Azusa Ono, Tomoka Yamamoto, Ikuko Mohri, Arika Yoshizaki, Masako Taniike
https://doi.org/10.1016/j.sleep.2024.10.018
参考URL
谷池雅子 特任教授(常勤) 研究者総覧
https://rd.iai.osaka-u.ac.jp/ja/7571a478d614c68c.html
岩谷祥子 助教 研究者総覧
https://rd.iai.osaka-u.ac.jp/ja/5e4d6bc4c4c96719.html