\ふたご研究で発見/ 生活習慣などの影響を受けた皮ふの毛細血管と肌状態との関連性
ツインリサーチセンターと資生堂との共同研究で
研究成果のポイント
- 生活習慣などの影響を受けた皮ふの毛細血管と肌状態との関連性を発見。
- 遺伝子が100%同じ一卵性ふたごで、こころ・あたま・からだの関係性を検討することで、表現型が遺伝の影響か環境の影響であるかを明らかに。
- 健やかな「こころ・あたま・からだ」創出研究を推進。
概要
大阪大学大学院医学系研究科附属ツインリサーチセンター(以下、ツインリサーチセンター)は日本で唯一の体系的ふたご研究基盤を有しており、この度、資生堂との共同研究において、皮ふの毛細血管はスキンケアを含む生活習慣などの影響を受けることを発見しました。さらに、肌内部との関係性を調べた結果、皮ふの毛細血管が適度に多い場合、肌内部のコラーゲン密度が高く酸素飽和度が高いという関係性を見出しました。今回の成果は、ヒトのすべての心身(こころ・あたま・からだ)の状態(表現型)の「遺伝因子」と「環境因子」の影響を効率的に解明できるツインリサーチ法を用いて得られたものです。
今後は、どのような生活習慣が肌状態に影響を与えるのかを解明し、当センターが目指す健やかな「こころ・あたま・からだ」創出研究を推進していきます。
本研究成果は、日本双生児研究学会 第38回学術講演会で発表しました。(2024年1月27日)
研究の背景
これまでに、資生堂は、肌状態や皮ふの血管やコラーゲンなどの肌内部を可視化する技術を数多く開発し、肌ケアに関する多くの知見を創出してきました。肌状態は毛細血管と密接に関わっていると考えられますが、これらは、遺伝要因と生活習慣などの環境要因が複雑に絡み合うため、未解明のことが多くあります。そこで、本研究では、ツインリサーチセンターとの共同研究を行い、一卵性のふたごを対象にすることにより、遺伝ではなく、生活習慣などの環境要因が肌に及ぼしている影響を明らかにすることを目的としました。
研究の内容
【皮ふの毛細血管は生活習慣などの影響を受ける】
資生堂は、肌状態や皮ふの毛細血管と肌の弾力に関係性を見出してきました。一方で、皮ふの血管は顔の部位による差や個人差が大きく、これらが生まれつきのものなのか、それとも、生活習慣などの影響なのかを見極めることが難しいという課題がありました。そこで今回、ツインリサーチセンター渡邉幹夫教授らと共同で、ツインリサーチセンターにおいてDNA配列の一致で一卵性双生児と確定され、研究への協力に承諾いただいたふたご登録者の中から、一定の基準で募集した被験者を対象に血管を解析しました。その結果、生まれつきの影響がほぼ同じである一卵性のふたごであっても、皮ふの血管状態は異なっていることが明らかになりました。これにより、皮ふの毛細血管はスキンケアを含む生活習慣などの影響を受けている事を明らかにしました。
【皮ふの毛細血管と肌状態との関係性を発見】
さらに研究を進めている、皮ふの毛細血管と肌状態との関係性を調べました。ツインリサーチセンターのふたごレジストリに登録されている方々を対象に検討を行ったところ、一卵性のふたごのペア内で毛細血管が多い群はコラーゲン密度が高く、酸素飽和度が高い結果を得ました。このことから、スキンケアを含む生活習慣などの影響によって生じる毛細血管の変化が、コラーゲン密度の変化や高い酸素飽和度と連動している可能性があると考えられました。
本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)
肌状態は生まれつきの影響や生活習慣などの影響が複雑に絡み合っていますが、今回のようにふたご研究を用いることで、皮ふの毛細血管は生活習慣などの影響を受けること、また、皮ふの毛細血管が適度に多い状態であれば、肌内部のコラーゲン密度や酸素飽和度も良好な状態であることを発見しました。
今後さらに、どのような環境が肌状態に影響を与えるのかを解析することで、ヒトのすべての心身(こころ・あたま・からだ)の状態(表現型)に関わる全てのものに、ふたご研究だから可能である、心豊かで健やかな超長寿社会に貢献することが期待できます。
ツインリサーチセンターとは
大阪大学では平成21年4月に、ふたご研究を専門的に実施する研究機関として、日本で最初のツインリサーチセンターを医学系研究科に設置しました。我が国におけるツインリサーチの発展を先導する中核的な役割を担う機関として国内のみでなく海外の主要なツインリサーチ機関とも連携し、先端的で新しい研究を創造的に展開することを目的としています。医学・保健学をはじめ、歯学・人間科学・経済学・薬学など全学的組織で学部横断型の双生児研究に取り組んでいます。
SDGsの目標
用語説明
- ふたご研究(ツインリサーチ)
一卵性双生児では遺伝子が100%同じです。どちらか一人だけに検査値の異常があれば、それは生まれつきの体質(遺伝)ではなく、環境に原因があることが分かります。また、2人とも検査値の異常を示せば体質が大きな要因であることがわかります。さらに遺伝子が平均50%同じといわれている二卵性双生児との比較を行うことで、遺伝要因と環境要因とがどの程度影響しあっているのかを算出することができます。病気を早期に予防するためには、生活環境やライフスタイル要因が人間の健康に及ぼす影響を詳細に解明することが必要です。そこで、ふたごのそれぞれの方の人生や生活環境の類似や差異を調べることにより、予防医学の発展に極めて有益な知見を得ることが可能になるのです。