X線天文衛星XRISMのファーストライト
X線CCDの開発に大阪大学が大きく貢献
研究成果のポイント
概要
大阪大学大学院理学研究科 宇宙地球科学専攻の松本浩典 教授、小高裕和 准教授、野田博文 助教、故林田清 准教授、そして多くの大学院生らから構成される研究グループが開発に多大なる貢献をした、X線CCD (“Xtend”; 図1) が搭載されたX線天文衛星XRISM のファーストライトが1月5日にJAXAから公開されました。
X線天文衛星XRISMは、2023年9月7日に種子島よりH-IIAロケットで打ち上げられました。打ち上げ以降、時間をかけて慎重に観測機器の立ち上げなどを行った後、ついにファーストライトの記者発表がJAXAより行われました。
XRISM衛星には、X線望遠鏡と組み合わせたX線マイクロカロリメーター (“Resolve”)とX線CCDの2種類の観測装置が搭載されています。Resolveは天体からのX線の精密エネルギー測定を行い、Xtendは広い視野のX線画像をとることが主な目的です。図2は、Xtendによるファーストライト画像です。銀河団Abell2319を満たす温度数千万度の高温ガスが放つX線放射がきれいに見えています。このX線CCDの開発には、大阪大学大学院理学研究科宇宙地球科学専攻の松本浩典教授、小高裕和准教授、野田博文助教、故林田清准教授、そして多くの大学院生らから構成される研究グループが多大な貢献をしました。
XRISM衛星は今後、ブラックホールや銀河・銀河団などの観測を進め、宇宙の大規模構造の設計図、宇宙の化学進化、強い重力場の時空構造などの解明に力を発揮すると期待されています。
本研究成果は、JAXAより2024年1月5日 (金) 13時(日本時間)に記者発表が行われました。
図1. XRISM衛星搭載X線CCD
図2. Xtend がとらえた銀河団Abell 2319 のX線画像
研究の背景
2016年2月、X線天文衛星ひとみが打ち上げられました。姿勢異常のためにわずか約1ヶ月しか稼働しませんでしたが、その間の観測で、Nature論文2本を含む14本の科学論文につながる大きな成果をあげました。ひとみ衛星を失ったことによる科学的損失は非常に大きいと考えられたので、ひとみ衛星が解明するはずだった科学テーマに再挑戦するべく、ひとみ衛星を少し簡略化したX線天文衛星XRISM計画が2018年にスタートしました。
ひとみ衛星にもXRISM衛星にも、X線画像を取得するX線CCDが搭載されています。このX線CCDの開発には、大阪大学大学院理学研究科 宇宙地球科学専攻 X線天文学グループが多大な寄与を行ってきました。
研究の内容
XRISM衛星のX線CCDは、ほぼ満月1個分に匹敵する広い視野で宇宙のX線画像を取得することができます。このX線CCDは、ひとみ衛星のX線CCDに改良を加えたものです。一般にX線CCDは、ノイズとなる可視光線を遮断し、X線だけに反応するように工夫がなされています。しかしひとみ衛星のX線CCDには、可視光線の遮断が十分ではないという欠点がありました。XRISM衛星のX線CCDには、可視光線を十分に遮断するように、アルミの遮光幕やCCD端面の構造に改良が加えられました。また、宇宙に飛び交う高エネルギー粒子 (宇宙線) によって、人工衛星に搭載されたX線CCDは徐々に性能が劣化します。XRISM衛星のX線CCDは、ひとみ衛星のX線CCDよりも放射線耐性が強くなるように、信号電荷の転送路に工夫がほどこされています。XRISM衛星に実際のX線CCDを搭載するには、製作された数多くのX線CCD素子に対して一つ一つ性能評価を行い、優れたものを選別する作業が必要でした。また、選別したCCD素子に対してさらに詳細な性能評価を行い、筐体に組み込む作業が必要でした。これらの作業がほぼすべて本学の中で行われました。
ひとみ衛星X線CCDの開発責任者は、本学名誉教授常深博氏でした。この研究をうけつぎ、XRISM衛星のX線CCD開発も本学X線天文学グループがリードすることになり、開発責任者は当初大阪大学大学院理学研究科 宇宙地球科学専攻 准教授であった故林田清氏でした。そして、打ち上げ前のX線CCDの開発試験や較正などは、大阪大学大学院理学研究科 宇宙地球科学専攻を中心に行われました。残念ながら林田氏は2021年に病気で他界され、開発責任者は別の研究者に変わりましたが、引き続き大阪大学大学院理学研究科 宇宙地球科学専攻X線天文グループは開発に大きく貢献してきました。特に野田助教は、多くのCCD素子から実機にふさわしい素子を選別する作業、CCD素子や検出器の地上性能評価実験、打ち上げ後は昼夜を問わない衛星の運用まで、ほぼ全ての研究開発項目にわたって八面六臂の大活躍でした。実験や試験には、多くの大学院生も参加し活躍しました。そしてXRISM衛星は2023年9月7日に打ち上げに成功し、ようやくファーストライトの公開にたどり着きました。
本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)
本研究成果により、XRISM衛星X線CCD (Xtend) は想定通りの性能を発揮していることが確かめられました。今後XRISM衛星は、X線マイクロカロリメーター (Resolve) とX線CCD (Xtend) による本格的天体観測を行います。宇宙の大規模構造である銀河団がどのように成長するのか、我々の身体のもととなる各種の原子は宇宙にどのように増えてきたのか、ブラックホール近傍の強い重力の世界では何が起こっているのか、などの謎の解明に挑戦する予定です。
特記事項
本研究成果に関して、2024年1月5日(金)13:00~14:00にJAXAにより記者説明会が行われました。
参考URL
X線分光撮像衛星XRISM
https://xrism.isas.jaxa.jp/
用語説明
- ファーストライト
一般的には、ある観測機器が初めて天体からの光を観測することを指します。今回の場合は、XRISM衛星が取得した初めての天体画像という意味です。
- X線CCD
CCDは半導体撮像素子の一種です。通常のCCDは可視光を撮像するために使用されますが、X線CCDはX線を撮影することができるように改良されたものです。XRISM衛星では、X線望遠鏡とX線CCDを組み合わせたシステムを、Xtend という名前で呼んでいます。
- X線望遠鏡
天体からやってくるX線を焦点に集め、結像させる役割を果たす装置です。人間の目で例えると、水晶体に相当します。一方、網膜にあたる部分が、X線マイクロカロリメーターやX線CCDです。XRISMには、Resolve用1台、Xtend用1台の合計2台のX線望遠鏡が搭載されています。
- X線マイクロカロリメーター (“Resolve”)
X線が物質に吸収されると、物質の温度がわずかながら上昇します。この温度上昇を測定することで、X線のエネルギーを精密に測定する装置をX線マイクロカロリメーターと呼びます。XRISM衛星では、X線望遠鏡とX線マイクロカロリメーターを組み合わせたシステムをResolve という名前で呼んでいます。
- 銀河団Abell2319
銀河がたくさん集まった領域を銀河団と呼びます。実は銀河団領域は、温度数千万度の高温ガス (銀河団ガス) で満たされています。この銀河団ガスがX線を放射するので、X線で銀河団を観測すると図2のように銀河団全体がぼうっとX線で輝いているように見えます。エイベル (Abell) 氏が作成した銀河団のカタログ中の、2319番目の銀河団がAbell2319です。
- CCD素子
Charge-Coupled Device (CCD) とは、小さな半導体素子がたくさんピクセル状に並んだ撮像素子のことです。1つ1つのピクセルが光を電気信号に変換し、これを読み出すことで画像を取得することができます。デジタルカメラなどで利用されています。