体温による微弱なエネルギーで脳波をセンシング

体温による微弱なエネルギーで脳波をセンシング

バッテリーレス小型ウェアラブル・IoTデバイス誕生へ光

2023-5-24工学系
工学研究科准教授兼本大輔

研究成果のポイント

  • 独自の信号圧縮手法・専用回路システムにより、信号の無線伝送を省エネで実現
  • 小型熱電発電素子を用い、わずかな温度差から生成した微弱電力で脳波を無線伝送
  • どこでも気軽にセンシングし続けられるバッテリーレス小型ウェアラブル・IoTデバイス誕生に光

概要

大阪大学大学院工学研究科の兼本大輔准教授らの研究グループは、脳波計のようなウェアラブルデバイスを小型かつバッテリーレス化する新技術を開発しました(図1)。

本技術は、できるだけ少ない観測信号から全体の信号を復元する圧縮センシングの理論をベースとした、信号圧縮手法ならびに専用回路システムを利用して実現されます。この技術を活用したセンシングでは、「ランダムに信号を絞りながら取得することで、計算量と情報量を大幅に削減可能」また「少ない情報から高い精度で元の信号を復元できる」という2つの特徴を有します。よって、センサーに搭載する回路の計算量と扱う情報量を削減し、省エネ化が可能になります。本研究では、提案技術を活用することで、脳波計ウェアラブルデバイスに搭載するセンシング回路の消費電力を従来比7割削減することに成功しました。

さらに、小型の熱電発電素子を搭載したプロトタイプを開発し、体温と外気温の差に相当するわずかな温度差から得られる微弱な電力だけで、高品質な脳波データを伝送できることを実証しました。本技術を活用すると、無線脳波計のみならず、様々なウェアラブルデバイスやIoTデバイスがバッテリーレスで半永久的に動作することが期待できるため、エネルギーハーベスティングの促進につながるといえます。

本研究成果は、回路システムにおいて最も権威のある国際会議の一つであるIEEE国際会議「2023 International Symposium on Circuits and Systems (ISCAS 2023)」にて、5月24日(水)0時(日本時間)に発表されました。

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図1. バッテリーレス無線脳波計のイメージ図

研究の背景

現在、サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会課題解決の両立を目指したSociety5.0に注目が集まっています。そのようなシステムを実現するには、我々の生活で得られる様々な現実空間の信号を、「手軽」かつ「大量・長時間」にわたってサイバー空間に伝送できるセンシング技術が重要になります。

例えば、日常で得られる脳波信号をサイバー空間で処理し、現実空間にフィードバックすることで、ヘルスケア応用はもちろん、BCI・BMI等の新しい情報通信分野への活用が期待されています。そこで、日常生活においてストレスを感じず、長時間脳波計測が可能なウェアラブルデバイスの実現が注目されており、バッテリーレスで動作し続けられる無線脳波計の開発が進められています。

研究の内容

上記の背景を踏まえ、兼本らのグループでは、圧縮センシングの理論に着目し研究を行っています。本研究では、ランダムに信号を絞りながら取得することで計算量と情報量を削減し、センサーに搭載する回路(消費電力の高いA/D変換から無線送信まで)の省エネ化が可能な独自技術を提案しました。本技術を脳波無線伝送に応用することで、高い信号精度を維持しつつ、消費電力を97μW/chに抑えることで従来比7割の省エネ化を達成しました(図2)。その結果、温度差で発電ができる小型熱電発電素子(4cm角)を用い、体温と外気温の差に相当するわずかな温度差を与える事で生成した微弱電力でも、十分に脳波無線伝送が可能であることを世界で初めて実証しました。

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図2. 提案技術を活用することにより消費電力7割削減に成功

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本研究成果の応用範囲は広く、バッテリーレスで充電不要・半永久的に動作する小型脳波計測デバイスはもちろん、省エネ化が求められるウェアラブルデバイスやIoTを想定した様々なセンシングデバイスへの応用が期待できます。たとえば、室内光や廃熱、Wi-Fi電波や(人や機械が起こす)振動等の身の回りにある微弱なエネルギーを活用した心電図・筋電図等の生体信号センシングへの活用も考えられます。さらに、電気/電子機器における信号モニタリング、製造プラントの動作モニタリング等への応用が想定できます。つまり、本研究を通じ、今後の情報社会においてキーとなるセンシングの新しいあり方を再定義する重要な成果が得られたと言えます。

特記事項

本研究成果は、2023年5月24日(水)0時(日本時間)にIEEE国際会議「2023 International Symposium on Circuits and Systems (ISCAS 2023)」により発表・公表されました。

タイトル:“Random Undersampling Wireless EEG Measurement Device Using a Small TEG”
著者名:Takuya Miyata, Daisuke Kanemoto*, and Tetsuya Hirose

なお、本研究は、JSPS科研費JP21H03410の助成を受けたものです。また、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の助成事業(JPNP20004)の結果得られたものです。また、本研究成果は、ISCASプロシーディング集の採録にあたり査読を経ています。

参考URL

SDGsの目標

  • 03 すべての人に健康と福祉を
  • 04 質の高い教育をみんなに
  • 08 働きがいも経済成長も
  • 09 産業と技術革新の基盤をつくろう
  • 10 人や国の不平等をなくそう

用語説明

圧縮センシング

できるだけ少ない観測信号から、スパース性を活用して全体の信号を復元する理論。たとえば、センサー回路で扱う計算量と情報量を削減することができるため、センシングデバイスの省エネ化に注目を集めています。

熱電発電素子

熱エネルギーを電気エネルギーに変換する素子。体温と外気温の温度差で発電することに高い関心が寄せられていますが、小型の熱電発電素子を利用する場合、得られる電力が微弱という課題があります。つまり、熱電発電素子を電力源として回路を動作させる場合、回路システムの省エネ化が重要となります。

IoT

インターネットに繋がった機器やセンサーなどが、データを収集・送信、またリモートで制御可能になる技術。 IoTは今後ますます普及することが予想されており、IoT化による様々な技術革新が進むと考えられます。

BCI・BMI

Brain Computer InterfaceとBrain Machine Interfaceの略。脳から出力された電気信号をコンピュータが解析して、意図した動作を行うように機械やコンピュータに伝える技術です。