
\充電不要の未来へ!/ 生成AIを用いず、波形の“似た特徴”を活かした 省エネ×高精度計測システムを実現
汎用品だけで世界最小レベルの省エネを実証!
研究成果のポイント
- 過去の計測で得た波形に潜む“似た特徴(類似性)”を手がかりに、少ないデータからでも高精度に波形を計測するシステム
- 従来の計測システムでは、省エネ化のために計測データ量を削減すると、精度が低下するという課題があった。本システムでは、少ないデータから波形を高い再現性で得られ、省エネと高精度の両立を達成した。
- 日常的な健康管理や社会インフラの見守りなど、さまざまな分野での長期のメンテナンス・電池交換が不要な、バッテリーフリー・メンテナンスフリー計測システムとしての応用に期待
概要
大阪大学大学院工学研究科の兼本大輔准教授らの研究グループは、過去の計測で得た波形に潜む“似た特徴(類似性)”を手がかりに、計測・送信データを削減することで省エネを実現しながらも、波形を高精度に再現できる計測システムを構築しました(図1)。なお本システムは、生成AIのようなブラックボックス的手法を用いず、明示的な理論設計に基づいて構築されています。
脳波波形を用いた実機検証を例に、市販の電子部品(集積回路)のみで構成したシステムで72μWという省エネ動作を実現し、本システムの有効性を示しました。これは、従来の専用集積回路による省電力記録(90μW)を上回る成果です。このような省エネ×高精度計測の実現は、今後のエナジーハーベスターを電源とするバッテリーフリー動作やメンテナンスフリー化を含む、持続可能な計測技術への応用が期待されます。
本研究成果は、回路とシステムにおいて最も権威のある国際会議であるIEEE国際会議「2025 International Symposium on Circuits and Systems(ISCAS 2025)」にて発表されました。
図1. 無線脳波計を例に挙げた、類似性を用いた省エネ×高精度計測システムの概念図
研究の背景
近年、ウェアラブル機器やIoTデバイスの実用化が進む中で、バッテリー寿命や充電の手間が大きな課題となっています。特に、高精度な計測を省エネで実現することは難しく、技術的なブレイクスルーが求められてきました。こうした背景を受け、より持続可能で使いやすい計測技術の確立が強く期待されています。
センサーの省エネ化は、計測ならびに送信するデータ量を削減することで実現できます。ただし、従来の手法では波形の再現精度の悪化が課題でした。そこで研究グループでは、2023年に開発した波形類似性を活用した計測理論を基に、省エネ×高精度計測システムの実現に挑戦しました。
研究の内容
研究グループは、同種の信号源から発生する波形同士が“似た特徴(類似性)”を有することに着目し、データ量を削減しつつ高精度な信号再現が可能な計測システムを実装しました。具体的には、市販の電子部品(汎用マイコンであるnRF52840を使用)だけで脳波計測システムを実装し、A/D変換から無線送信までの計測動作における消費電力を72μWに抑えることに成功しました。さらに、過去に別の被験者から取得した脳波波形と、これから計測する被験者の脳波波形との類似性を活用することで、高精度に波形を再現(500回計測での平均NMSE = 0.116達成)できることも確認できました。なお、生成AIのようなブラックボックス的手法は用いず、波形の構造に基づいた明示的な数理モデル(圧縮センシング)によりシステムを設計している点も、本研究の特徴です。
本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)
本成果は、脳波計測を例に、市販の電子部品だけで省エネかつ高精度計測を実現できることを実験で確認しました。今後は、軽量の小型バッテリーで長時間にわたり生体信号を計測し続けるウェアラブル機器や、エナジーハーベスターを電源とする半永久動作のバッテリーフリーIoT デバイス/インフラ故障検知センサーへの展開が見込まれます。これらは、医療・介護、防災、環境モニタリングなど幅広い分野で、持続可能な社会の実現に貢献すると期待されます。
特記事項
本研究成果は、2025年5月26日(月)21時(日本時間)からIEEE国際会議「2025 International Symposium on Circuits and Systems (ISCAS 2025)」により発表・公表されました。
タイトル:“Development of Low-Power and High-Accuracy Wireless EEG Transmission System Using Compressed Sensing with an EEG Basis”
著者名:Daisuke Kanemoto*, Eichi Takimoto, and Tetsuya Hirose
本研究はJSPS科研費JP23K18463およびJP24K02914の助成を受けたものです。また、本研究成果は、ISCAS プロシーディング集の採録にあたり査読を経ています。
参考URL
SDGsの目標
用語説明
- エナジーハーベスター
光・熱・振動・無線電波など環境エネルギーを電力に変換する発電素子。
- マイコン
演算器・メモリ・周辺回路をひとつのチップに集積した小型コンピュータ。家電や産業機器、各種センサー制御など、幅広い用途で用いられる。
- A/D変換(アナログ-ディジタル変換)
アナログ信号(連続的な電圧など)を、コンピュータで扱えるディジタル信号に変換する処理。
- NMSE(正規化平均二乗誤差)
元の信号とのズレの平均を表す指標で、数値が小さいほど精度が高い。
- 圧縮センシング
わずかな観測データから元の波形を復元する信号処理手法の一つ。