/ja/files/pc_resou_main_jp.jpg/@@images/image
COVID-19患者の男女間免疫応答の違いの主要因?

COVID-19患者の男女間免疫応答の違いの主要因?

男性では女性に比べてTfrの誘導が抑制されていた

2023-2-14生命科学・医学系
感染症総合教育研究拠点准教授WING JAMES BADGER

研究成果のポイント

  • COVID-19急性期には、免疫担当細胞で構成される抗体産生ネットワークのバランスが性別により異なることを発見しました。
  • これまでCOVID-19感染による抗体産生調整機構は不明瞭でしたが、マスサイトメトリーを応用することで明瞭化が可能となりました。
  • COVID-19急性感染期には抗体産生を調整する濾胞性制御性T細胞(Tfr)の誘導が性別により異なり、男性では女性に比べてTfrの誘導が抑制されていることを世界で初めて明らかにしました。
  • COVID-19重症化予測や新規治療戦略への応用が期待されます。

概要

大阪大学感染症総合教育研究拠点(ヒト生体防御学チーム)のJonas Nørskov Søndergaard特任助教(常勤)、Janyerkye Tulyeu特任研究員(常勤)、James Badger Wing准教授(免疫学フロンティア研究センター兼任)らの研究グループは、免疫細胞を一細胞レベルで高次元に解析できるマスサイトメトリーを用いてCOVID-19患者における免疫細胞応答を検討しました。それにより、COVID-19急性感染期には抗体産生を調整する濾胞性制御性T細胞(Tfr)の誘導が性別により異なり、男性では女性に比べてTfrの誘導が抑制されていることを世界で初めて明らかにしました。COVID-19感染に対する免疫応答には性差があることが観察されていますが、その細胞基盤はわかっていませんでした。これらの結果は、Tfrを中心とする抗体産生関連細胞のネットワーク調整に対する性差が、COVID-19患者の男女間の免疫応答違いの主要因である可能性が示唆され、COVID-19感染症への応答の性差の解明に繋がることが期待されます。

本研究成果は、米国科学誌「PNAS」(オンライン)に、1月20日(金)に公開されました。

20230214_2_1.png

図1. COVID-19感染症急性期における抗体産生調整機構の性差による違い
Tfr:濾胞性制御性T細胞、
Tph:末梢性ヘルパーT細胞、
Atypical B cell:
異型B細胞
Plasma blast:
プラズマブラスト(形質細胞)

研究の背景

COVID-19感染に対する抗体産生は、COVID-19感染症を防御するために重要な免疫応答の一つです。これまで、COVID-19感染症による重症化の程度には性差があることが報告されており、男性の方が女性に比べて重症化しやすいといわれてきました。しかし、COVID-19に対する抗体の産生を調整するネットワークは、稀な細胞タイプの複雑な相互作用に基づくため、一般的な技術では解明が困難でした。

研究の内容

研究グループでは、免疫細胞を一細胞レベルで高次元に解析できる新しい単一細胞解析法である「マスサイトメトリー」を用いて、COVID-19感染症患者の免疫細胞の状態を詳細にすることに成功しました。それにより、COVID-19を発症している時には、抗体産生を適切に調整するのに重要な「濾胞性制御性T細胞(Tfr)」が、すべての患者で減少していることを確認することができました。さらに、この傾向は男性患者でより強く、また女性患者に比べて抗体産生T細胞およびB細胞の数が増加していることも確認できました。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本研究成果により、COVID-19の抗体産生を制御する細胞間相互作用をよりよく理解することで、COVID-19による重症化を予測できることが期待できます。また、COVID-19を制御する新しい治療法を開発できる可能性があります。さらに、男性患者には高いレベルの抗体産生が見られるにも関わらず、重症化することが多いという知見は、COVID-19感染においては男女で異なる治療法の開発についての情報を与えてくれるかもしれません。

特記事項

本研究成果は、2023年1月20日(金)に米国科学誌「PNAS」(オンライン)に掲載されました。

タイトル:“A sex-biased imbalance between Tfr, Tph, and atypical B cells determines antibody responses in COVID-19 patients”
著者名:Jonas Nørskov Søndergaard, Janyerkye Tulyeu, Ryuya Edahiro, Yuya Shirai Yuta Yamaguchi, Teruaki Murakami, Takayoshi Morita, Yasuhiro Kato, Haruhiko Hirata, Yoshito Takeda, Daisuke Okuzaki, Shimon Sakaguchi, Atsushi Kumanogoh, Yukinori Okada, and James Badger Wing
DOI: https://doi.org/10.1073/pnas.2217902120

参考URL

SDGsの目標

  • 03 すべての人に健康と福祉を

用語説明

濾胞性制御性T細胞(Tfr)

抗体産生を抑制する特殊なタイプの制御性T細胞。これらがなくなると、抗体量は増えるが、その質は低下する。

Tph:末梢性ヘルパーT細胞

異型B細胞との相互作用により抗体産生を促進する特殊なタイプのヘルパーT細胞。

異型B細胞

感染に素早く反応するB細胞の一種で、Tphの刺激を受け抗体を産生する形質細胞となる。

プラズマブラスト(形質細胞)

抗体産生を担うB細胞の最終形態。