
\ネット調査の「いいかげん回答」を行動経済学で減らす!/ アンケートの質を上げる 新たな“ナッジ”手法を発見
社会調査やマーケティング現場に役立つ行動経済学の応用
研究成果のポイント
- インターネット調査に見られる「意味のない回答」を減らす方法として、行動経済学の知見に基づいたメッセージ(ナッジ)が効果的であることが明らかに。
- 自由記述式の質問で、無関係な回答や無意味な文字列(例:「あああ」「zzz」など)が出現という課題があったが、3つのナッジで不真面目な回答が有意に減ることがわかりました。
- 手軽に導入できる「ナッジ」によって、企業のマーケティングリサーチや行政調査の質と効率を高められることに期待。
概要
大阪大学感染症総合教育研究拠点(CiDER)及びEIPMセンターの佐々木周作特任教授(常勤)は、市場調査・マーケティングリサーチを専門とする株式会社インテージの川西建氏・堀内愛子氏と共同研究を行い、インターネット調査における“いいかげんな回答”を減らす方法として、行動経済学の知見に基づいたメッセージ(ナッジ)が効果的であることを明らかにしました。
この研究の調査では、動画を視聴した後に自由に感想を書いてもらう形式を使い、1万人以上の参加者を対象に、「コミットメント:真面目に答えると約束させる」「利得強調:真面目に回答することで貰えるポイントを強調する」「損失強調:不真面目に答えるとポイントが減る可能性を強調する」といった異なるメッセージを提示。いずれのメッセージでも、不真面目な回答が有意に減少する効果がありました。
さらに、設問の工夫(自由記述質問数を減らす等)より「損失を強調するナッジ」のほうが、効果が大きいことも判明しました。
社会調査やマーケティングリサーチの効率化に貢献するだけでなく、人の行動に働きかける「ナッジ」の実用性を示す新たな知見としても注目されます。
本研究成果は、学術雑誌『行動経済学』に採択され、2025年5月8日に公開されました。
図. 不真面目回答者の出現率への影響
(エラーバーは1標準誤差を表す)
研究の背景
インターネット調査は、時間やコストの面で効率が良く、現在では企業のマーケティングや政策立案のための意識調査など、さまざまな分野で活用されています。非対面の調査手法として、新型コロナのパンデミックで活用件数が世界的に増加しました。しかし、質問と無関係な文章や無意味な文字列などの「不真面目回答」が多くなりやすいという課題がありました。こうした回答は調査の効率性や質を下げる要因となり、調査結果の信頼性を損なうという懸念があります。特に動画の感想などを自由に記述してもらう設問では、その傾向が強いことが実務で指摘されてきました。
研究の内容
本研究では、行動経済学で知られる「ナッジ」と呼ばれる手法を使って、不真面目な回答を減らすことができるかを検証しました。全国の1万人以上の人々を対象に、動画を視聴して感想を聞くアンケート調査を行い、「真面目に答えると約束させるメッセージ」「真面目に回答することで貰えるポイントを強調するメッセージ」「不真面目に答えるとポイントが減る可能性を強調するメッセージ」といった3つの異なるナッジを、ランダムに提示しました。その結果、いずれのナッジでも、不真面目な回答が有意に減ることがわかりました。
また、選択肢式の設問に一部置き換える工夫や事前に動画本数を事前に伝える工夫と比べても、「損失を強調するナッジ」が特に効果的であることが示されました。
本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)
今回の研究は、インターネット調査の信頼性を高めるための新たな手段を提供します。費用をかけずに、メッセージを表示することで不真面目回答を減らせるため、企業のマーケティング調査だけでなく、自治体の住民意識調査など、幅広い場面に応用が期待されます。特に、より多くの意見を正確に集めたい場面で、簡便かつ効果的な対策として活用できる可能性があります。調査設計の質を損なわずに対応できる点で、調査の実施現場にとっても実用性の高い成果といえます。
特記事項
本研究成果は、学術雑誌『行動経済学』に採択され、2025年5月8日に公開されました。
タイトル:“インターネット調査の不真面目回答に対する行動経済学的施策の抑制効果:自由回答形式の記述を事例に”
著者名:川西 建, 堀内 愛子, 佐々木 周作
DOI:https://doi.org/10.11167/jbef.18.1
参考URL
佐々木周作 特任教授(常勤)研究者総覧
https://rd.iai.osaka-u.ac.jp/ja/068fbd33679c71c3.html
SDGsの目標
用語説明
- ナッジ
人々の行動を強制せずに、より望ましい方向へそっと後押しする工夫のこと。行動経済学の考え方に基づく。
- マーケティングリサーチ
企業が商品やサービスを売るために、消費者の考えや行動を調べること。アンケートやインタビュー、ネット調査等が使われます。今回の研究は、こうした調査の正確さを高める工夫としても役立ちます。