青色半導体レーザーを用いた害虫の撃墜
レーザー光によって殺虫剤を使わずに害虫を撃ち落とす新技術
研究成果のポイント
- これまで薬剤で害虫を駆除していたが、レーザー光で撃墜可能に
- 害虫をレーザー光で駆除する際の急所を発見
- 害虫検知、追尾、ショットの連続動作による撃墜を実現
概要
大阪大学レーザー科学研究所の藤寛特任教授、山本和久教授らの研究グループは、害虫をレーザー光で駆除する際の急所を世界で初めて発見しました。使用した害虫は薬剤抵抗性を持ち農作物に甚大な被害をもたらすハスモンヨトウ(蛾の一種)とよばれ、急所が胸部や顔部であることを突き止めました。
これまでの害虫駆除は化学薬剤の使用が主流でしたが、近年、害虫が薬剤抵抗性を持つようになり農薬が効かなくなってきました。今回のレーザー光の手法を使えば、これらの害虫の駆除が可能です。農業では世界の農作物生産額165兆円のうち26兆円の農作物が害虫・害獣被害により失われています(2017年)。この農作物被害を防いで、今後の世界的人口増加に伴う食糧不足も解決します。
今回、当研究グループは、ハスモンヨトウの各部位に青色半導体レーザーからパルス光を照射する実験を通じて急所が胸部や顔部であることを見出しました。また、飛んでいるハスモンヨトウを画像検出して追尾し、レーザーパルス光を照射することによりハスモンヨトウを撃ち落とすことにも成功しました。これにより、様々な害虫を化学薬剤は使わずに駆除することが可能となり、食糧危機の解決が期待されます。
本研究成果は、レーザー学会学術講演会第43回年次大会2023年1月19日にて発表されました。
図1. ハスモンヨトウの撃墜
図2. 半導体レーザーによる飛翔害虫駆除システム
研究の背景
これまで、レーザーを使った害虫駆除は、米国での家畜等に寄生する小さな蚊の駆除技術が知られていました。蚊は小さい害虫であるため、体全体にレーザー光を照射して容易に駆除できますが、比較的大きな蛾は同様に全体を照射するには大きなエネルギーが必要でした。
研究の内容
今回、当研究グループは、ハスモンヨトウの各部位に局所的に青色半導体レーザー光を照射して損傷度合いを調べ、胸部や顔部の損傷が大きいことを発見しました。これらの急所を狙えば比較的低い光エネルギーで駆除することを可能としました。またサバクトビバッタに準じた国内のバッタへも適用し、同様に胸部が急所であることを確認しました。さらに飛んでいるハスモンヨトウを画像検出して追尾し、青色半導体レーザーによってパルス光を照射することにより撃ち落とすことに成功しました。これらの研究は京都大学日本典秀教授、東北大学堀雅敏教授、農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)杉浦綾ユニット長、中野亮上級研究員、渋谷和樹研究員らの害虫の専門家の指導、協力の基に行われました。
図3. 飛翔時の追尾検出と撃墜の過程
本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)
本研究成果により、薬剤抵抗性を獲得した害虫をレーザー光によって駆除できます。家庭ではゴキブリ、ハエなどは薬剤を使わずに駆除できます。また、すでに農研機構が発表している飛翔害虫予測技術と組み合わせることで、飛んでいるハスモンヨトウなど農業害虫はもとより、近年猛威を振るうサバクトビバッタも撃墜でき、農作物被害の激減が期待されます。近年、先進国の人口は減少していますが、世界的にはインドを中心とする爆発的な人口増加に対する食糧増産が大きな課題です。レーザーによる害虫駆除は、食糧増産に大きく貢献する新技術として期待されます。
特記事項
本研究成果は、レーザー学会学術講演会第43回年次大会2023年1月19日にて発表されました。
タイトル:“物理的害虫駆除を目的としたレーザービーム殺虫”
著者名:西口 綜一郎、藤寛、藤岡加奈、山本和久
また知的財産として特許出願されています。 特願2021-187356(出願日2021/11/17)
なお、本研究は、内閣府ムーンショット型農林水産研究開発事業(管理法人:生研支援センター 体系的番号JPJ009237)によって実施されました。
参考URL
SDGsの目標
用語説明
- 薬剤抵抗性
同じ農薬を繰り返し使い続けると、次第に効かなくなる現象。農薬が効かない遺伝子をたまたま獲得した個体が生き残り、その後、世代交代を繰り返し、いずれ大半の個体が抵抗性遺伝子を持つ。
- ハスモンヨトウ
チョウ目ヤガ科の農業害虫であり、ヨトウムシ類の一種。幼虫は大きくなると夜間に行動するため、見つけにくくて被害が拡大する。食欲が旺盛であり、一晩でキャベツなどが食い荒らされる。
- サバクトビバッタ
農作物や野生植物に大規模な食害をもたらす。何らかの理由で群れを成して獰猛化し、西アフリカから中東、東南アジアなど、世界の陸地の20%相当の面積に渡って生息・飛来し大被害を与える。